The story's ABC物語 [1]
教室の後ろ、窓際。
僕の席からは、だいたい全部が見える。
黒板の前で先生が話しているのも
誰がどこでペンを止めたか、
誰が誰の方を見たか、
そういう細かい動きが自然と目に入る。
見ようとしているわけじゃない。
ただ、目立たない場所にいると、
世界のほうが勝手に流れ込んでくる。
男Aと女Bは、ずっと一緒だった。
席は隣同士。
登校時間もだいたい同じ。
昼休みになるとどちらからともなく同じ場所に集まる。
会話は特別じゃない、昨日のテレビ、宿題の愚痴、
給食のデザートの話。
でも、
Bが笑うとAは少し安心した顔をするAが誰かにからかわれると、Bはすぐに間に入る。
恋人、と呼ぶには近すぎてただの友達、と言うには距離が足りない。
幼なじみ、という言葉が一番しっくりくる。
僕はそう判断して、ノートの端に書いた。
【メモ:AとBは幼なじみ。
たぶん、まだ恋人ではない】
ある日
転校生が来る。
そう聞いていたけれど、実際に教室に入ってきた瞬間、
Aの反応だけがはっきり違った。
一瞬、視線が止まった。
それから、何もなかったみたいに前を向く。
女Cは、落ち着いた雰囲気の人だった。
派手じゃないのに
教室に入っただけで空気が少し静かになる。
自己紹介が終わって、
先生がCの席を指定した。
AとBの、少し後ろ。
Bは気づいていなかった。
でもAは、何度か後ろを振り返っていた。
昼休み。
Cは、一人で弁当を食べていた。
その近くを、Aが通りかかった。
ほんの一瞬、二人の視線が合った。
言葉は交わさなかった。
でも、見覚えのある人を見つけたみたいな間があった。
【メモ:AとCは、たぶん初対面じゃない】
その日の放課後、
図書室の前でAとCが並んで立っているのを見た。
会話は聞こえない。
でも、距離が近すぎない。
懐かしそうでもない。
妙に、よそよそしい。
Bは、その光景を見ていなかった。
翌日、
BはAに話しかけながら、
時々、後ろの席を気にしていた。
でも
AとCは“昔の話”をしているようには見えない。
過去を共有している感じもない。
むしろ、
「知っているはずの相手と、どう話せばいいか分からない」
そんな距離に見えた。
【メモ:
AとCは“知り合い”だった?
でも仲が良かった感じはしない】
僕には、見える部分しかわからない
放課後、三人がどうしているのか
AとCがどんな関係だったのか
Bが家に帰って、何を考えているのか
それは、見えない。
だから、調べる。
放課後、廊下の隅で聞いた話。
昼休み、購買の前で漏れてきた声。
誰かが、誰かに向かって言っていた断片。
「Cって、前の学校でAと同じ塾だったらしいよ」
「同じクラスだったわけじゃないみたい」
「ほとんど話したこと、なかったって」
どれも、はっきりしない。。。
伝言ゲームみたいに形が変わっている
僕は、そのまま信じない。
ただ、ノートの端に並べるだけだ。
【メモ:AとCは“同じ場所にいたことがある”
でも、親しかったかは不明】
それから、別の日
席替えのあと、後ろの列から聞こえた声。
「B、最近ちょっと元気なくない?」
「前よりAと一緒にいる時間、減ってるよね」
それも、事実かどうかは分からない。
ただ、
僕が見ている光景と、
噂の内容が、
少しだけ重なった。
【メモ:
Bの変化は、周りからも見えている】
ある日、
AとBが二人で話しているのを見た。
Bは笑っていたけれど、
机の端を、ずっと指でなぞっていた。
Aは、何か言いかけて、飲み込んだ。
【メモ:
BはAに何か聞きたかった?
Aは答えたくなかった?】
その翌日、
AとCは、朝の昇降口で並んで靴を履いていた。
会話はしていなかった。
でも、偶然にしては近すぎる距離だった。
Bは少し遅れて来て、
その二人を見て、
一瞬だけ立ち止まった。
それから、何もなかったみたいに歩き出した。
三角関係、
という言葉が浮かんだ。
でも、
僕が見ているのは線じゃなくて点だ。
Aは優しい。
BはAのそばに長くいる。
Cは、Aと“何か”を共有しているように見える。
【メモ:
たぶん三角関係。
でも、向きはまだ分からない】
それからしばらく、
教室の空気は、
大きくは変わらなかった。
AとBは、相変わらず隣に座っていた。
話す回数も、極端に減ったわけじゃない
ただ、Bの笑い方が少しだけ変わった。
前は、
顔ごとAに向けて笑っていたのに、
最近は、視線だけを机に落としたまま、
口元だけ動かすことが増えた。
Cは、必要以上に前に出てこない。
誰かに話しかけられれば応じるけれど、
自分から輪の中心に入ることはない。
昼休み。
Aは一人で自販機の前に立っていた。
Bは友達と窓際で話している。
Cは席で本を読んでいる。
三人が、
同じ教室にいるのに、
同じ場所にはいない。
【メモ:
三人が“揃わない時間”が増えてきた】
ある日、
Bが教室に入ってきたとき、
Aはすでに席に座っていた。
Bは、
一瞬だけAの方を見て、
それから自分の席に向かった。
目が合うことはなかった。
Cは、その様子を見ていたかもしれないし、
見ていなかったかもしれない。
僕の席からは、
Cの横顔しか見えなかった。
放課後、
Aはすぐに教室を出た。
Bは机の中を整理するふりをして、
少し遅れて立ち上がった。
Cは、
最後まで席に残っていた。
三人が、
同じタイミングで教室を出ることはなかった。。。




