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The story’s 全作品集 (あるバスは決まりなく色んな街、色んな街に進いていて、 バスの窓から色んな場所色んな物語見て語る話)  作者: San


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137/153

The story’s map 3

花屋の前に置かれた椅子、その人の動き、風に揺れる花。すべてが静かに続いている。


終わりがないように見えた。


このままずっと見ていられる気もした。


けれど、ほんの少しだけ――


“他も見たい”と思ってしまった。


それが裏切りのように感じられて、画面に触れる指が一瞬止まる。


それでも、ゆっくりと動かした。


花屋の前の景色が、静かに遠ざかっていく。


あの人は、もう小さな点になり、やがて見えなくなる。


何かを置いてきたような感覚が、胸の奥に残る。


それを振り払うように、指はさらに大きく動いた。


街を離れ、別の場所へ。


今度は、少し高低差のある街だった。


斜面に沿って、びっしりと家が並んでいる。


上から見ると、重なり合うように建物が連なり、その間を縫うように細い道が走っている。


道というより、隙間のようだった。


まっすぐな道はほとんどなく、すぐに曲がり、分かれ、途切れている。


どこが繋がっているのか、一目ではわからない。


少しだけ拡大する。


さらに近づくと、その複雑さがはっきりと見えてくる。


細い坂道。


急な階段。


行き止まりのように見える場所。


その中を、一台の自転車が動いていた。


小さな影。


けれど、その動きが、なぜか目に留まった。


視点を少し寄せる。


自転車に乗っているのは、若い女性だった。


十八歳くらいだろうか。


髪が揺れている。


坂道を上っている最中で、ペダルを踏む動きが重く見える。


けれど、途中で止まった。


足を地面につけて、自転車から降りる。


そのまま押して歩き出す。


無理に乗らない。


ただ、少しだけ息を整えるように、ゆっくりと進む。


片手でハンドルを持ち、もう片方の手にはスマホ。


画面を覗き込むようにして、立ち止まる。


地図を見ているのだと、すぐにわかった。


画面を見て、周りを見て、また画面を見る。


その繰り返し。


道はすぐ近くにいくつもあるのに、どれも正しいようで、違うようにも見える。


少し迷ってから、ひとつの道を選ぶ。


細い坂道を、また押して進む。


けれど、数歩進んだところで止まる。


振り返る。


今来た道を、じっと見る。


戻るかどうか、考えているようだった。


数秒の迷いのあと、首を小さく振って、そのまま進む。


その選択が正しいのかどうか、わからないまま。


指が、自然とその人を追っていた。


見失わないように、少しずつ視点を動かす。


道はさらに細くなっていく。


左右には家が迫っていて、空が細く切り取られている。


坂は急で、自転車のタイヤが少し滑るように見える。


女性は立ち止まり、もう一度スマホを見る。


今度は、少し長く。


何かを確認している。


目的地があるのだと、そのとき初めて思った。


ただ迷っているのではなく、どこかへ行こうとしている。


けれど、その“どこか”は見えない。


スマホの中にしか存在しないような場所。


やがて、彼女は顔を上げた。


そのまま、自転車にまたがる。


少しだけ勢いをつけて、ペダルを踏む。


坂道を上ろうとする。


けれど、すぐに速度が落ちる。


足に力が入るのが、動きでわかる。


それでも、数メートルだけ進んで、また降りる。


無理はしない。


ただ、前に進む。


その繰り返し。


途中で、小さな分かれ道に出る。


右か、左か。


一度、右にハンドルを向ける。


そのまま少し進む。


だが、すぐに止まる。


振り返る。


来た道を見て、それからまたスマホを見る。


そして、今度は左に進む。


その迷いが、はっきりと見えた。


まるで、何度も同じ場所をぐるぐる回っているようにも感じる。


実際には少しずつ進んでいるのに、景色が似ているせいか、前に進んでいる感覚が薄い。


やがて、少し開けた場所に出た。


そこは、斜面の途中にある小さな空き地のようだった。


視界が一気に広がる。


下の方に、無数の家が重なって見える。


屋根が並び、窓が並び、道が絡み合っている。


そのすべてが、静かに広がっている。


彼女はそこで足を止めた。


自転車を横に置く。


少しだけ前に出て、その景色を見下ろす。


スマホは手に持ったままなのに、もう見ていない。


ただ、遠くを見ている。


風が、髪を揺らす。


その場に、少しだけ長い時間が流れる。


迷っていたはずなのに、その瞬間だけは、どこにも向かっていないように見えた。


それから、ゆっくりと視線を落とす。


またスマホを見る。


現実に引き戻されるように。


自転車に手をかける。


少しだけ躊躇してから、また押して歩き出す。


次の道へ。


また曲がり、また分かれ、また迷う。


その背中を、ただ追い続ける。


どこに辿り着くのかは、わからない。


それでも、画面の中で、小さな選択が何度も繰り返される。


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