私の事大嫌いな彼女とのlove ストーリー 3
私の名前はスミレ
この世界は、退屈だ。
本当に、どうしようもなく。
事故は起きないし、
病気になってもすぐ治るし、
誰かに裏切られても、なぜか深刻な話にならない。
失恋しても、
「まあ、次があるよね」で終わる。
泣いても、
翌日にはだいたい元気になってる。
みんな、適度に幸せで、
適度に満たされてて、
適度に前向きで――
その“適度”が、もう無理だった。
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彼と出会ったのは、
本当に最悪の日だった。
寝坊して、
急いでて、
新しく買った白いワンピースを着てて。
そこに、
全力疾走してきた男が、
角から飛び出してきて――
熱々のコーヒーをぶちまけられた。
しかも、私に。
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正直に言う。
その瞬間、
怒りより先に来た感情は――
「うわ、無理」
だった。
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だって。
まず、顔がうるさい。
目がキョロキョロしてて、
口が半開きで、
常に「すみません」って顔してる。
それだけで、
もう情報量が多い。
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次に、声。
でかくもないのに、
なぜか耳に残る。
変に上ずってて、
ずっと言い訳してるみたいなトーン。
「本当にすみませんでした!!」って、
あの土下座。
あれ、たぶん普通の人なら
「まあまあ」ってなる。
でも私は違った。
(……圧が強い)
(なんか、重たい)
(この人、感情の置き場ミスってない?)
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極めつけは、目。
謝ってるくせに、
めちゃくちゃ私の顔見てくる。
目が合う。
長い。
長すぎる。
(なんでそんなに真っ直ぐ見てくるの?)
(こっちは今、服汚れて最悪なんだけど)
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それで、私は気づいた。
……あ、これ。
この人、無理なタイプだ。
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なのに。
なのに、なぜか――
その場を去れなかった。
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彼を見てると、
胸の奥が、じわっと苦しくなった。
嫌悪感に近いのに、
それだけじゃない。
もっと、
鈍くて、重たい、
よくわからない感覚。
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この世界で、
私は今まで一度も、
そんな感覚になったことがなかった。
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だから私は、
自分でも意味わからないことをした。
彼の連絡先を聞いた。
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数日後、
カフェで再会して、
やっぱり思った。
……無理。
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まず、座り方。
猫背。
膝が内向き。
落ち着きなく足が揺れてる。
(なんでそんな自信なさそうな姿勢なの)
(見てるだけで疲れる)
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次に、メニューの見方。
全部一回見て、
また最初に戻って、
結局、前と同じやつ頼む。
(迷う意味あった?)
(決断力ゼロか)
あと、地味に一番きついのが
「気を遣ってる感」が全部ズレてること。
本人は絶対気づいてないけど
あの人、
人の顔色を見すぎる。
私が一瞬でも表情変えると、
すぐ「今、何かしました?」って聞く。
(してないけど)
(その聞き方がもうしてる)
それから、
コーヒー飲むときの、あの顔。
音立てないように、
変に口すぼめて。
(うわ、気にしてる)
(その“気にしてます感”が一番無理)
なのに。
なのに私は、
毎週あの人に会いに行ってる。
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理由は簡単だった。
この世界で、
初めて“ちゃんと嫌な感情”を
くれた人だったから。
イライラする。
ムカつく。
生理的に無理。
正直、顔もそんなに好みじゃない。
でも――
あの人といると、
胸の奥が、きゅーってなる。
重たい感情が動く。
なにかが、削れる。
それが、
どうしようもなく――
生きてる感じがした。
たぶん、
私はおかしい。
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でもこの世界では、
おかしいことが起きなさすぎる。
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だから私は今日も、
あの人に会う。
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「……その前髪の分け目、嫌い」
って言うために。
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それでまた、
あの人がちょっと傷ついた顔して、
それでも「すみません」って笑うのを見て、
胸の奥が、
ちょっと苦しくなる。
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……最悪。
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そんなふうに思いながらも、
私は今日もあの人と会っていた。
ベンチに並んで座って、
私はスマホを見てるふりをして、
横目であの人の挙動を観察していた。
(……また足揺れてる)
(落ち着きなさすぎでしょ)
すると、
あの人がやたらソワソワし始めた。
(なに、今度はなに)
ごそごそとカバンを漁って、
小さな袋を取り出す。
「……あの」
嫌な予感しかしない。
「よかったら、どうぞ」
袋を差し出された。
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中を見る。
……止まる。
(あ)
(これ)
(よりによって)
「…………」
顔を上げる。
「……これ、私が嫌いなやつ」
あの人は一瞬フリーズしてから、
目を見開いた。
「えっ!?
あ、ほんとだ……言ってましたね……!」
(言ってたの、覚えてたのか)
(なのに、なんでこれ買うの)
「……なんでこれ選んだの」
「え、たまたまです!
コンビニで一番目立つところにあって……」
(運命レベルで最悪)
「最悪」
「狙ってないです!!
むしろ完全事故です!!」
(必死すぎて余計しんどい)
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正直に言う。
怒ってたわけじゃない。
ただ――
(なんでこの人、
こういう“外し方”だけ天才なの)
って思ってた。
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その夜、
私はベッドで横になりながら、
スマホを見つめてた。
……ムカつく。
なんか、地味にムカつく。
だからメッセージを送った。
《なんで、あれ買ったの》
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すぐ返ってきた。
《本当にたまたまです!!》
(うるさい)
《運命レベルで最悪》
《むしろ引き当てた僕を褒めてほしいです》
(褒めるか)
《褒めない》
《ちなみに、そんなに嫌いだったんですね……》
《甘すぎるし、匂いが無理》
《なるほど……》
《二度と買ってこないで》
《了解です!!》
(素直すぎて腹立つ)
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それから数日後。
また会った日。
私は、
コンビニに寄ってから来た。
目的は一つだけ




