The story's バスの進みち (12)
四人目も、
通り過ぎる人の中から選んだだけだった。
年は、私と同じくらいに見えた。
派手ではないのに、
なぜか目に残る顔立ちの人だった。
長い髪はいつも同じ位置でまとめられていて、
服装も、色味も、毎日少しずつ違うのに、
全体の印象は変わらなかった。
私は、
美容室でのアルバイトを終えた帰り道、
わざと遠回りして、
その人の住むアパートの前を通った。
明かりのついている窓は、
二階の端の部屋だった。
最初の一ヶ月ほど、
動きはほとんどなかった。
朝、
ゴミを出しに外へ出る。
夕方、
隣のコンビニへ行く。
それだけ。
誰かと話しているところも、
電話しているところも、
一度も見なかった。
カーテンは閉じられたままで、
部屋の中の様子は分からない。
ただ、
夜になると、
決まった時間に灯りがついた。
私は、
何も起きない日々を、
何度も通り過ぎた。
それでも、
なぜか視線はそこへ向かった。
変化があったのは、
ある休日の午後だった。
その人は、
いつものコンビニとは逆の方向へ歩いていった。
私は距離を保って後をついた。
住宅街を抜け、
細い道をいくつか曲がり、
古い看板の下で足を止める。
古本屋だった。
中は薄暗く、
紙の匂いがこもっていた。
背の低い棚が並び、
通路は人一人分しかない。
彼女は迷うことなく、
奥のほうへ進んだ。
漫画の棚の前で立ち止まり、
背表紙を指でなぞる。
一冊取り出して、
少しだけページをめくる。
それを戻し、
また別の一冊を手に取る。
その動きは、
初めて来た人のものじゃなかった。
ここに来る時間が、
この人の日常の一部になっている、
そんな感じがした。
それから、
彼女は何度も古本屋へ行った。
雨の日も、
風の強い日も。
袋の中には、
漫画と、小説が一緒に入っていることが多かった。
私は、
本屋の中で彼女を見る時間が増えた。
距離は、
棚二つ分くらい。
声をかけようと思えば、
かけられる距離。
何度目かの午後、
同じ棚の前で、
私たちは並んだ。
彼女が手に取った本は、
私が昔、
一度だけ読んだことのある小説だった。
「それ、どうでしたか」
自分の声が、
思っていたよりも低く響いた。
彼女は少し驚いた顔をして、
それから、
困ったように笑った。
「まだ、途中なんです」
「でも、嫌いじゃないです」
それだけの会話だった。
でも、
そこから、
言葉は自然に続いた。
どんな話が好きか。
漫画はどの辺りを読むのか。
重たい話と、
軽い話、
どっちが今の気分か。
私たちは、
本の背表紙を見ながら、
短い言葉を何度も交わした。
その日は、
それぞれ別の本を買って、
別々に店を出た。
次に会ったときは、
彼女のほうから声をかけてきた。
「この前の、読みました?」
それだけで、
私たちは、
もう他人ではなくなっていた。
それからは、
古本屋で会えば、
少し話すようになった。
おすすめを交換し、
読んだ感想を、
うまく言葉にできないまま伝え合った。
私は、
いつのまにか、
調べるのをやめていた。
彼女の家の前を通ることも、
なくなった。
動きを記録することも、
しなくなった。
代わりに、
次に会ったとき、
何を話そうか考えるようになった。
観察する対象から、
話す相手へ




