The story’s 迷い街の運び屋 27
仕事は、少しずつ体に馴染んでいった。
最初は、何をすればいいのか分からなかった。
客が来る。
何かを注文する。
言葉は分からない。
それでも、周りの動きを見ていれば、だいたい分かる。
皿を出す。
飲み物を運ぶ。
空いたものを下げる。
同じことの繰り返し。
ただ、その「同じ」が、毎日少し違っていた。
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店の中は、いつも賑やかだった。
夜の光。
テーブルの上の皿。
人の声。
笑っているような音。
怒っているような音。
何かを語っているような音。
全部が混ざっている。
意味は分からない。
でも、流れは分かる。
会話が続いていること。
やり取りが成立していること。
それだけは、はっきりしていた。
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客の顔も、毎回違った。
昨日いた人はいない。
今日いる人は、明日はいない。
でも、それを誰も気にしていない。
入れ替わることが、当たり前みたいだった。
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働きながら、ふと外を見ることがある。
扉の向こう。
ずっと人が流れている。
仕事の手を止めることはできない。
皿を持つ。
運ぶ。
置く。
その合間に、視線だけが外へ向く。
人の中に 、探す。
昔の記憶の中の姿を頼りの
――見つからない。
本当にここにいるのかどうかも分からない。
それでも探してしまう
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仕事が終わる。
店の中の音が、少しだけ遠くなる。
皿を片付けて、
手を拭いて、
外に出る。
扉を開けると、同じ街が広がっている。
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通りに出る。
人の流れの中に入る。
歩く。
ただ歩く。
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顔を見る。
一人一人。
すれ違うたびに、少しだけ視線を向ける。
似ている人がいる。
でも違う。
目の形。
髪の長さ。
背の高さ。
どこかが違う。
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足を止めてしまうこともある。
人の流れが少し乱れる。
それでも、誰も気にしない。
ぶつかることもなく、
避けることもなく、
自然に流れていく。
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ある店の前で立ち止まる。
ガラスの中に、子どもがいる。
笑っている。
誰かと話している。
言葉は分からない。
でも、その笑い方は分かる。
少しだけ、胸の奥が動く。
でも、その子は違う。
すぐに分かる。
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また歩く。
通りを曲がる。
また人。
また光。
また店。
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この街には、家がない。
店ばかりだ。
飲食店。
雑貨。
服。
分からないものを売っている店。
でも、生活する場所が見えない。
寝る場所も、
暮らす場所も、
外からは見えない。
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それでも、人はここにいる。
ずっといる。
帰る様子もなく、
疲れる様子もなく、
ただ歩いて、話して、買っている。
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ポケットに手を入れる。
紙幣がある。
女性に渡されたもの。
それから毎日もらっているもの。
最初より少ない額。
でも、ここではそれで足りる。
食べることもできる。
買うこともできる。
ただ。
この街にいると
それで何をするかは、よく分からなくなる
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店に戻る。
働く場所。
寝る場所。
シャワーもそこにある。
扉を開ける。
中の人は、また違う顔だった。
でも、同じように働いている。
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何日も続く。
同じこと。
違う人。
同じ街。
違う顔。
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慣れていく。
体が覚える。
手が動く。
考えなくてもできるようになる。
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仕事が終わったあと。
外に出る。
人の中に入る。
歩く。
探す。
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何も見つからない。
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それでも。
次の日も、同じことをする。
働く。
外に出る。
歩く。
探す。
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この街の中で。
時間は進んでいるのか、
止まっているのか、
分からないまま。
それでも、繰り返す




