The story’s 迷い街の運び屋 25
通路を抜ける。
また別の通りに出る。
同じように店が並んでいる。
灯り。
人。
音。
ずっと変わらない。
歩きながら、ふと気づく。
視線を少し上げる。
建物を見る。
並んでいるのは全部、店だった。
食べ物。
服。
分からないもの。
どれも入口が開いていて、人が出入りしている。
でも。
――家がない。
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窓らしい窓もない。
生活の気配がない。
誰かが「帰る場所」が見えない。
全員がずっと外にいるみたいだった。
ここにいる人たちは、どこで休むのか分からない。
そもそも、休むのかどうかも分からない。
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女の背中を見る。
歩き方は変わらない。
迷いもない。
当たり前の道を歩いているみたいだった。
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また通りを曲がる。
少しだけ賑やかな場所に出る。
音が強くなる。
笑い声。
皿の音。
湯気。
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一軒の店の前で、女が止まる。
暖簾のような布が揺れている。
中から、においが流れてくる。
食べ物のにおいだった。
少しだけ現実に近い。
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女はそのまま中に入る。
振り返らない。
少し遅れて、中に入る。
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店の中は狭かった。
カウンターがあって、いくつか席がある。
客が座っている。
誰もこっちを気にしない。
店員が動いている。
料理を運んでいる。
声が飛び交っている。
でもやっぱり、言葉は分からない。
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女が奥に入っていく。
カウンターの中。
その動きは自然だった。
エプロンのようなものをつける。
棚から何かを取り出す。
手際よく動く。
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そこで、やっと気づく。
――この人は、客じゃない。
ここで働いている側だった。
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女はこっちを見る。
何か言う。
短い言葉。
少しだけ顎を動かす。
「こっちに来い」と言っているように見えた。
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カウンターの中に入る。
狭い空間。
鍋の熱。
水の音。
女は近くの布を手に取って、こちらに渡す。
少し押しつけるように。
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受け取る。
何をすればいいのか分からない。
でも。
女はすぐに別の作業に戻る。
こっちを気にしない。
説明もしない。
ただ、その場に置かれた。
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少しだけ周りを見る。
皿が積まれている。
水が流れている。
手を動かしている人がいる。
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とりあえず、同じように動く。
皿を取る。
水で流す。
布で拭く。
置く。
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何も言われない。
間違っているかも分からない。
でも、止められない。
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しばらくすると、女がちらっとこっちを見る。
小さくうなずく。
それだけだった。
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時間がどれくらい経ったのか分からない。
店の中はずっと同じだった。
客は入れ替わる。
でも、流れは止まらない。
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気づけば、自然にそこに立っていた。
少なくとも「迷っている状態」ではなくなる。
それが、
ここで働く理由なのかもしれなかった。




