The story’s 迷い街の運び屋 24
歩くのをやめる。
その場に立っているだけでも、少しずつ疲れがたまっていくのが分かった。
どれくらい歩いたのか分からない。
時間も分からない。
空気は変わらないのに、体だけが重くなっていく。
近くの壁に背を預ける。
ゆっくり座り込む。
床は少し冷たかった。
人は横を通っていく。
足音。
布の擦れる音。
笑い声。
全部が流れていく。
誰も止まらない。
誰も気にしない。
ここでは、立ち止まることの方が異質だった。
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視線を落とす。
床の模様がぼやける。
少しだけ目を閉じる。
開ける。
同じ光。
同じ音。
変わらない。
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そのとき。
視界の端で、誰かが止まった。
ゆっくり顔を上げる。
女だった。
年はよく分からない。
中年くらいにも見えるし、もっと上にも見える。
派手でも地味でもない服。
この街の人たちと同じような、でも少しだけ落ち着いた雰囲気。
女はこっちを見ていた。
少し首をかしげる。
何か言う。
やわらかい声だった。
でも、意味は分からない。
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少し間。
女はもう一度、何か言う。
今度は少しゆっくり。
聞き取ろうとする。
音は分かる。
でもやっぱり意味にはならない。
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口を開く。
「……迷ってます。」
少しだけ間が空く。
「ここから出られなくて。」
喉が少し乾いていた。
自分の声が、少しだけ遠くに聞こえる。
「さっきから、同じところを歩いてる気がして……」
視線を少し落とす。
「どこにいるのか、分からないんです。」
通じているかは分からない。
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女は少し目を細める。
それから、小さくうなずく。
何か言う。
さっきより少し長い。
声の調子は変わらない。
落ち着いたまま。
まるで、分かっているみたいだった。
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女は手を差し出す。
少しだけ躊躇する。
でも、そのまま見ていると、女は自然にその手で腕に触れた。
軽く。
強くはない。
引っ張るわけでもない。
ただ、「こっち」と示すような動き。
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立ち上がる。
足が少し重い。
女はそのまま歩き出す。
振り返らない。
でも、歩く速さは少しゆっくりだった。
ついてこれる速さ。
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人の流れの中を進む。
通路を曲がる。
また曲がる。
さっきまでとは違う道だった。
見たことがない店。
見たことがない光。
でも、それが「初めて」なのか「見逃していた」だけなのか分からない。
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女は何度か何かを話す。
後ろに向かって。
振り返らずに。
その声はやっぱり分からない。
でも、少しだけ安心する音だった。
意味は分からないのに、
言われていることが悪いものじゃないと分かる。
それだけを頼りに、歩き続ける。




