The story’s 迷い街の運び屋 20
次の日。
俺はいつものように職場で依頼票を確認していた。
同じランクCの配達。
同じ依頼。
ただ、一つだけ違っていた。
住所が変わっている。
俺は紙をもう一度見直す。
見慣れた部屋番号ではない。
別の街区の住所だった。
引っ越したのだろう。
配達の仕事をしていると、そういうことは珍しくない。
荷物は、住んでいる場所に届く。
それだけのことだ。
俺は箱を持ち、地図を確認して歩き始めた。
その場所は、前の住宅街から少し離れていた。
道路は少し広く、家と家の間にも余裕がある。
新しい住宅が並んでいる地区だった。
しばらく歩くと、目的の家が見えてくる。
一軒家だった。
白い外壁。
まだ新しい木の門。
庭には小さな木が植えられている。
葉が風に揺れていた。
俺は門を通り、玄関の前に立つ。
依頼票を見る。
間違いない。
ノックする。
コン、コン。
少しして、中から足音がする。
床を歩く音は落ち着いていた。
玄関の鍵が回る。
扉が開く。
そこに立っていたのは、彼女だった。
七年後の彼女。
もう、はっきりと四十代の女性だった。
髪は肩より少し下で整えられている。
以前の長い髪は、少し短くなっていた。
服も落ち着いた色のものだった。
部屋着ではあるが、柔らかく整っている。
顔立ちは穏やかで、少しだけ歳を重ねた線が目元にある。
彼女は俺を見る。
目を細める。
それから、ふっと笑った。
「……あ。」
静かな声だった。
「久しぶり。」
少し首をかしげる。
「七年後かね、」
その言い方は、今までと同じだった。
ただ声の落ち着きは、以前より深くなっている。
俺は箱を持ち上げる。
「配達です。」
彼女はうなずく。
「うん。」
箱を受け取る。
動きはゆっくりしているが、安定していた。
玄関の横の棚に箱を置く。
それから少し外を見る。
庭の木の葉が揺れている。
彼女は言う。
「ここに引っ越したの。」
静かな口調だった。
「前の部屋、ちょっと手狭になってきて。」
玄関の中を少し見回す。
靴棚や小さな棚がきれいに並んでいた。
「家って、広いと不思議ね。」
小さく笑う。
「最初は落ち着かなかった。」
玄関の奥から、家の空気が静かに流れてくる。
広い空間の静けさだった。
彼女は箱に手を置く。
「でも。」
少し考える。
「時間が経つと、ちゃんと家になる。」
それから俺を見る。
視線は穏やかだった。
「あなたは相変わらないね。」
少し笑う。
庭の方を見る。
風が葉を揺らす音が聞こえる。
彼女はゆっくり言う。
「まあ、いいか。」
箱を持ち上げる。
「また七年後ね。」
俺は軽く頭を下げる。
「それでは。」
彼女はうなずく。
「うん。」
扉をゆっくり閉める。
木の扉が静かに音を立てる。
庭の空気は穏やかだった。
俺は門を出る。
振り返ると、その家は静かにそこに立っていた。




