The story’s 迷い街の運び屋 19
次の日。
また同じ道を歩いていた。
住宅街は静かだった。
電柱の影が道の上に長く伸びている。
昨日より空は晴れていて、薄い雲がゆっくり流れていた。
この道も、もう何度も歩いている。
それでも、毎回少し違う空気がある。
アパートが見えてくる。
古い壁。
錆びた手すり。
階段の段差も、見慣れてきていた。
俺は二階へ上がる。
足音が金属の階段に小さく響く。
扉の前に立つ。
依頼票を見る。
部屋番号は同じだった。
ノックする。
コン、コン。
少しして、扉の向こうで足音がする。
鍵の音。
扉が開く。
そこに立っていたのは、昨日の彼女だった。
けれど、また七年の時間が流れていた。
髪は肩よりずっと長くなっている。
後ろで軽く束ねていた。
服は部屋着だったが、昨日よりずっと落ち着いた雰囲気だった。
年齢も、もうすっかり大人の女性に見える。
彼女は俺を見る。
目を細める。
少し考えるように首をかしげる。
「……あ。」
それから、静かに言う。
「久しぶり。」
小さく息を吐く。
「もう七年後か…」
その言い方は、特に驚いているわけでもなかった。
ただ、長く空いていた時間を思い出したような口調だった。
俺は箱を持ち上げる。
「配達です。」
彼女はうなずく。
「うん。」
箱を受け取る。
持ち方はとても慣れていた。
机の上に置く。
部屋の中を少し見る。
以前より本が増えていた。
本棚はいっぱいで、机の横にも小さな山ができている。
ノートも何冊も重なっている。
ペンや紙が机の上に散らばっていた。
彼女は箱のラベルを見ながら言う。
「今、ちょっと調べ物してるの。」
「荷物も、ちょうどいいタイミングだった。」
段ボールを机の上に置くと、彼女は軽く背筋を伸ばした。
本棚の方へ目を向ける。
棚には分厚い本が並んでいた。
机の横にも積み重なっている。
以前より、部屋の中は少し狭く見えた。
本や紙が増えているからだろう。
彼女は一冊のノートを手に取り、ぱらぱらとページをめくる。
「こういうのってさ。」
ページを止める。
「調べ始めると、終わらないのよね。」
小さく笑う。
「ひとつ分かると、また別のことが気になって。」
窓の外を見る。
昼の光が部屋の奥まで入っていた。
それから、ふと俺の方を見る。
視線が少し長く止まる。
「ねえ。」
少し考えるように言う。
「あなた、相変わらずね。」
俺は少し首をかしげる。
彼女は肩をすくめる。
「七年ぶりに会っても、全然変わってない。」
不思議そうな顔ではなかった。
ただ、観察するような落ち着いた目だった。
それから軽く笑う。
「まあ、いいけど。」
窓から入る風がカーテンを揺らす。
彼女は椅子に座る。
腕を机に乗せると、さっきの箱を見る。
「こっちはちゃんと進んでるわ。」
自分の髪を指で軽く触る。
「気づいたら、こんなに伸びてた。」
束ねている髪が背中で揺れた。
少し沈黙が落ちる。
部屋の時計が小さく音を立てていた。
彼女はまたノートを閉じる。
「まあ。」
落ち着いた声で言う。
「夢には時間がかかるしね」
それから俺を見る。
視線は穏やかだった。
「また七年後かな。」
軽く笑う。
「その頃には、もう少し分かってるかもしれない。」
俺は軽く頭を下げる。
「それでは。」
彼女はうなずく。
「うん。」
扉のところまで歩いてくる。
ドアノブに手をかけながら言う。
「来てくれてありがとう。」
静かな声だった。
扉がゆっくり閉まる。
廊下に、昼の光が残る。
階段を降りながら、ふと振り返る。
二階の廊下は、また静かになっていた。




