The story’s 迷い街の運び屋 17
次の日。
俺はまた同じ道を歩いていた。
朝の空気は昨日より少し冷えている。
住宅街は相変わらず静かで、電柱の影が道に細く伸びている。
小さなアパートが見えてくる。
壁の色も、階段の錆びた手すりも、昨日と同じだ。
階段を上がると、金属の足音が小さく響く。
扉の前に立つ。
依頼票を確認する。
部屋番号は変わっていない。
ノックする。
コン、コン。
中から足音が近づく。
扉が開く。
そこに立っていたのは、昨日の女の子だった。
けれど、少し違った。
髪は肩より少し下まで伸びている。
顔立ちは昨日より落ち着き、目元も少し大人びている。
服も、部屋着ではあるが昨日より整って見えた。
女の子――いや、少し年を重ねた彼女は、俺を見る。
目を細める。
それから、ふっと笑った。
「……あ。」
少し考えるような間。
「久しぶりだな。」
軽く首をかしげる。
「七年後かしら。」
その言い方は、特に驚いた様子でもなかった。
ただ、思い出したことを確認するような口調だった。
俺は箱を持ち上げる。
「配達です。」
彼女はうなずく。
「うん。」
扉を少し広く開ける。
部屋の中を見ると、机の上の本が増えている。
本棚も昨日より少し埋まっているように見える。
窓から入る光は同じだった。
彼女は箱を受け取る。
持ち方は昨日より慣れていた。
机に置く。
段ボールを見ながら言う。
「ちゃんと届くんだね。」
指で箱の端を軽く押す。
「こういうのって、途中で止まったりしないの?」
俺は答える。
「基本は届きます。」
彼女は小さくうなずく。
「そうなんだ。」
それから椅子に座る。
箱を眺めながら言う。
「七年って、けっこう長いんだよ。」
窓の外を見る。
空には薄い雲が流れている。
「いろんなことあるし。」
少し考える。
それから箱を軽く叩く。
「でも荷物は同じ感じで届くんだね。」
俺は特に何も言わない。
この街では珍しいことかもしれない
が、
この街にとっては珍しい事だけでおかしい事ではない。
彼女も、それ以上は触れなかった。
ただ箱を見ている。
部屋の中は静かだった。
外から遠くの車の音が聞こえる。
風がカーテンを少し動かす。
俺は軽く頭を下げる。
「それでは。」
彼女は顔を上げる。
「あ、うん。」
それから小さく言う。
「またね。」
扉がゆっくり閉まる。
廊下に静かな空気が残った。




