The story’s 迷い街の運び屋 16
その依頼を最初に見たのは、いつもの朝だった。
職場の壁に貼られた依頼票の中に、一枚だけ同じ紙が何枚も並んでいるものがあった。
ランクはC。
内容は単純だった。
配達。毎日。
それだけ。
報酬は普通。
特別高くも低くもない。
ただ、同じ住所が続いている。
俺は少し考えて、その依頼を取った。
毎日同じ場所へ行く配達は、珍しくない。
会社や店の荷物ならよくある。
それでも、その紙は少し静かだった。
理由は分からないが、なぜか気になった。
⸻
最初の日。
俺は住所の場所に向かって歩いていた。
街の外れにある古い住宅街だった。
道路は少し狭く、電柱が並び、古い家と小さなアパートが混ざっている。
昼の光は柔らかかった。
雲が薄く空を流れている。
目的の建物は、二階建ての小さなアパートだった。
壁は少し色あせている。
階段の鉄の手すりはところどころ塗装が剥がれている。
俺は二階へ上がる。
足音が静かに響く。
扉の前に立つ。
依頼票をもう一度見る。
部屋番号は間違っていない。
ノックする。
コン、コン。
少しして、足音が近づく。
ドアが開く。
出てきたのは、十代の女の子だった。
髪は肩の少し上で揺れている。
ゆるい部屋着のような服を着ていて、まだ外の世界に慣れていない雰囲気がある。
女の子は俺を見る。
少しだけ目を細める。
誰が来たのかを確かめるような、静かな視線だった。
それから言う。
「……配達?」
俺は箱を持ち上げて見せる。
「はい。」
女の子は扉をもう少し開ける。
部屋の中から昼の光が廊下にこぼれてくる。
カーテンは半分だけ閉まっていて、床の上に白い光の四角ができている。
女の子は箱を受け取る。
両手で抱えると、少し重そうだった。
それでもすぐに机の方へ運びながら言う。
「こういうの、ちゃんと届くんだね。」
机の上に箱を置く。
段ボールを指で軽く叩く。
「配達って、途中でなくなったりしないの?」
俺は少し考えて答える。
「普通はありません。」
女の子は「へえ」と小さく言う。
それから椅子に座る。
箱を前に置いたまま、少し眺めている。
「こういう箱ってさ。」
指で角をなぞる。
「誰かがどこかで出して。」
それを誰かが運んで。」
「それで、ちゃんとここまで来るんだよね。」
窓の外をちらっと見る。
「なんか不思議。」
少し沈黙があった。
部屋の中は静かで、外の風の音だけが遠くに聞こえる。
俺は軽く頭を下げる。
「それでは。」
女の子は顔を上げる。
「あ、うん。」
それから少し笑う。
「ありがとう。」
扉がゆっくり閉まる。




