The story’s 迷い街の運び屋 10
会社に戻る。
いつもの事務所だった。
古い机が並んでいて、配達員が何人か座っている。
誰かが椅子を傾けて寝ている。
誰かが濡れた靴を脱いでいる。
誰かがコーヒーを飲んでいる。
静かな場所だった。
俺は手に持っていた布を机の上に置いた。
十日間の配達の最後にもらった反物だった。
先輩がそれを見る。
少しだけ目を細める。
「……それ。」
「配達でもらいました。」
先輩は椅子を回して近づく。
布を少し触る。
指で生地をつまむ。
それから言った。
「……多分これ、高い奴だぞ。」
「そうなんですか。」
「知らんけど。」
先輩はすぐ椅子を戻す。
あまり興味なさそうだった。
「まあ。」
少し間。
「もらえるときは、もらっとけ。」
それだけだった。
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そのとき、入口のドアが開いた。
一人の配達員が入ってくる。
見たことない人だった。
服は古い。
砂がついている。
靴もかなり擦り減っている。
男はゆっくり歩いてくる。
事務所の机の前で止まる。
「……戻りました。」
事務員が紙を見る。
「ああ。」
それだけ言う。
「長かったですね。」
男は少し考えてから言う。
「……何年ですか。」
事務員は紙を見たまま答える。
「十五年。」
男は少し黙る。
それから小さくうなずく。
「そうですか。」
それだけだった。
周りの配達員は特に驚かない。
誰かがコーヒーを飲む。
誰かが椅子を引く。
普通の職場みたいだった。
でも少し違う。
濡れて帰る人がいる。
砂だらけで帰る人がいる。
雪を肩につけて帰る人もいる。
誰も理由を聞かない。
それが普通みたいだった。
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その日、俺は少し会社の中を歩いた。
この会社は広い。
倉庫がある。
休憩室もある。
奥には長い廊下がある。
昨日も歩いた場所だった。
特に何もなかった場所だった。
でも、その日。
そこに壁があった。
正確には、壁は前からある。
ただ、その壁に何かが貼られていた。
紙だった。
たくさんの紙。
昨日までは何もなかった。
ただの壁だった。
でも今日は違う。
紙が貼られている。
一枚や二枚じゃない。
何十枚も。
何百枚も。
壁いっぱいに貼られていた。
俺は近づく。
全部、同じ紙だった。
配達の依頼だった。
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ランク:C
配達場所:北地区住宅街
内容:普通の荷物
条件:特になし
報酬:普通
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隣の紙。
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ランク:B
配達場所:地下通路
内容:探して渡す
条件:渡す人にしゃべちゃダメ
報酬:やや高い
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もう一枚。
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ランク:A
配達場所:指定なし
内容:配達後、その場を早く離れること
報酬:高い
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さらに上。
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ランク:S
配達場所:未定
内容:依頼者と相談
報酬:非常に高い
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紙はまだある。
壁いっぱいに貼られている。
まるでゲームの掲示板みたいだった。
冒険者のギルドみたいに。
配達員がそこに来る。
紙を見る。
一枚取る。
そのまま出ていく。
まるで前からそうだったみたいに。
誰も不思議そうにしない。
俺は先輩を見る。
「……昨日、これありました?」
先輩は椅子に座ったまま言う。
「まあ。」
「依頼が増えたんだろ。」
それだけだった。
掲示板には、まだ見てない依頼が無数に貼られていた




