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第一部 起-2

「まだ来てないよ」


突然背後から違う声が聞こえて、ツバサは飛び上がりそうになった。


「もう気配が無くなった。向こうの世界からツバサの気配を辿って手を伸ばしてたみたいだね。もう時間の問題だろうけど」


声の主がツバサの横に立つ。ツバサが顔を上げると目が合った。


先程助けてくれた超絶美青年。


夏の海の様な色、吸い込まれてしまいそうなサファイアのような瞳は、もし本物なら破格の値段がついただろう。


あまりに美しく思わず見入ってしまっていると段々とその目線が下がってくる。


座っているツバサと同じ目線。


いつの間にか宝石のようだった瞳の明るい煌めきは消え、夜空のようにどこまでも続く黒い瞳がジッとツバサを見つめている。


輝く銀髪とサファイアの瞳を持つ美青年が、黒髪黒目の少年になっていた。


小学生3、4年生程度だろうか。


髪は美青年と同じ癖っ毛で、ショートカットより少し長い毛先は耳の下辺りでクルンと半回転し可愛らしさを強調している。


美青年の時と同じポロシャツと短パンだが丈が長く膝下になっている。


目の前で美青年から美少年に、いや、美少女かもしれない愛らしい存在へと変化したのだが、ツバサは驚きすぎてあんぐりと口を開けたまま動かない。


リアクションが物足りなかったのか、ツバサの顔を覗き込み、お人形さんのような顔が目の前にいる。


「・・・はっ!?なんで!?いったぁ!!」


やっと意識が戻ってきたが、思わず座ったまま後ろに飛んでしまい椅子から転げ落ちてしまった。


様子を見ていたミコトが笑い転げ、ユウトが小さなため息をつく。


「コイツはアキラ。前世では「連れだよ!ツレ!仲間!師匠の弟子で魔術師!」・・・だそうだ。」


大きな声でユウトの説明を遮るアキラ。


ユウトが小さくため息をついて何か言いだけな顔でアキラを見る。


何か隠したいのかな・・・?横目でチラリと見てみるが、ツバサの目線に気付き反対を向いてしまった為、表情は読めない。


つまり、さっきまで魔術を使っていたから前世の姿で、今は生まれ変わった姿という事なんだろう。


子供の姿も非常に愛らしいが、大人の姿が衝撃的過ぎたのでまだ緊張はせずに済みそうだ。


「とにかく!」


前を向いて大きな声でアキラが仕切り直す。


「もうアイツはツバサを見つけたしこの世界への道筋も覚えた。多分次は触手じゃなく本体が来る。早く対処法を決めよう」


「対処法?」


わからない事だらけだが、あの触手をどうにか出来るのだろうか。


「あたしら三人は記憶が戻った後すぐ連絡を取り合っててね・・・まぁ魔術も使えるから信じてもらいやすいし、色々ツテもあったから政府のお偉いさんと交渉して、アイツの襲来に備えてたのよ。

つっても実際にここいる魔術や前の世界の存在は認めても、魔物の襲来は半信半疑だったみたいだけど。いざって時にちゃんと動いてもらえて良かったわ」


とミコトが堤防の方をアゴで指し示す。堤防にはおそらく警察か何かそういう人達がいて、他の人を避難させているのだろう。


「まぁつまり前は死んじゃったけど今度こそやっつけようぜー!って事よ」


まだ手にしていた棒を振り回すものだから、ツバサは身体を反らせた。


「ちなみにその枝は・・・?」


「あぁコレ?杖は無くてもいいんだけどさ、あると魔術効率が良いし狙いも定めやすいのよ。気分さね、気分!雰囲気あるでしょ?あと、このシャボンバリアはツバサの存在を感知させない為のやつね」


シャボンバリア・・・と何とも言えずにいると、アキラが


「相変わらずダセェ名前」


と呟いて枝でポカリと叩かれた。


そのタイミングでスーツ姿の男性が海の家に顔を出し、ユウトとミコトは外に出て話を始めた。


おそらく警察か政府の人?というやつなんだろう。


疑問だらけのツバサは一人残ったアキラに話しかける。


「ねぇ、どうやって倒すの?」


「あぁ、物理攻撃はダメなんだ。エネルギー、つまり雷系の魔術攻撃だけが有効。火薬も使ってみたし本物の雷が当たってるのを見た事もあるけど、物理的なのは全く効かなかった。魔術での攻撃じゃないと効かないみたい。一応他の系統魔術も効くんだけど、回復するから決定打にはならなくて・・・あと水とか氷とかそういう系統魔術も効かないんだ、全部食べちゃうから。核爆弾とかは存在してなかったからわからないけど、多分食べちゃうんじゃないかな。だから、前は出来なかった大規模な攻撃をする為に政府に要請して電力を集めてもらって、その場で魔術に変換して攻撃したいんだけど・・・」


スラスラと説明しながらチラリと外にいる二人の方を見る。どうやら偉い人との交渉は二人の担当らしい。


改めて見ると、前世の姿ほどではないが非常に整った顔付きをしている。


自分も外見をよく褒められるが、所詮田舎町での事なのだなと思い知らされた気分だ。


まだ幼さの残るほんのり桃色の頬っぺたはふっくらとして可憐さもあるが、長いまつ毛に隠れる瞳からは溢れ出る強い意志が感じられる。


子供の姿なので難しい話をしている事に違和感はあるが、美青年の頃の記憶があるのだから中身は大人なのだろう。


ふと振り向いたアキラと目が合って思わずドキリとしてしまう。


「アキラ・・・?はいくつなの?この辺の町に生まれ変わったの?」


「この体の歳は今11歳。一応日本人で生まれたのは違う国だけど、師匠達がここに居たから、僕もこっちに来たんだ」


「え〜!違う国から!?一人で来たの?夏休み?」


話が脱線しそうになった所で、スーツ姿の男性がミコトらと戻ってきた。


後ろには迷彩服を着た屈強な男性も控えている。


明らかに高そうなスーツは身体にフィットし、短い髪を後ろに流してパッと見は出来る大人の男性に見えるが、面長でつり目に垂れ眉のせいか狐っぽい印象の方が強い。


「高野ツバサさん初めまして、今回の作戦の為に作られました政府直轄特殊情報処理室長の八尾泰也と申します。この度は何と言いますか・・・災難とでも言いましょうか・・・」


両手で名刺を渡され、慌てて受け取る。


笑顔で話してはいるが、疲れているのか目の下にはクマがある。


後ろの迷彩服の男性も口を開く。


「自衛隊の犬飼だ。今回の未確認生物確認作戦では陸海空の精鋭による特殊部隊を編成しており、その隊長を任されている。異世界や前世云々は信じ難いが、我々は自分達に課された仕事を全うするつもりだ」


八尾がさらに一歩前に出る。


「一応私の方が責任者となっておりますので、私の意見は政府の方針として受け取っていただきたいのですが・・・」


「ダメだってさぁ!」

とミコトが遮る。


「お役所サマは、餌を与えて大きくしてからじゃないと手伝わないんだってさ!」


椅子にドッカと座り、長い脚を隣の椅子に投げ出す。


「ですから、手順を踏んでからでないと難しいという話でして…」


長岡がミコトを宥めようとするも、


「フンッ」


とソッポを向かれてしまう。


「大量の電力を寄越せと簡単に言われますが、必要相当量の電力を集中させ一気に消費するとなると全国的に深刻な電力不足が生じてしまうので、それ相応の納得出来るだけの理由が必要なんですよぉ。何より現時点では未確認生物らしき存在が出現しただけなんです。各方面を説得出来るだけの材料が不足してまして・・・」


スーツ姿で夏の海にいるのが暑いのか、ミコトの態度に恐縮しているのか、ハンカチで汗を拭っている。


「とにかく、何の被害も出ていないのにリスクは負えないんですよぉ。その理由を説明するために、まず準備が出来ましたら一度そのええっと、シャボンバリアを解除?外して?いただいて、言い方は悪いですが高野さんを餌にしておびき出し、近くに来た所で自衛隊による攻撃を仕掛け・・・本来であればその影響をデータに取って、そこから専門家による解析という手順を踏まなければいけないのですが、今回は・・・」


「こっちを食おうとしてるやつを!目の前にして!まずはお偉いさんの話し合いってか?!世界が変わっても安全な場所でふんぞり返ってる奴は命張ってる兵士の話聞かないんだねぇ!?」


とキレ続ける。


頭を何度も小さく下げながら宥める八尾。


犬飼は上司にあたる八尾の許可がないからか黙って後ろに控えているが、ミコトのホットパンツから惜しげもなく投げ出された太ももに目線が行っては八尾の後頭部に戻して、を繰り返している。


すすす…とミコトの横に居たユウトがツバサの横に来る。


「止めなくていいの?」


「ああなると、とりあえず一旦発散させ終わってから話した方が早い」


数分間怒鳴り続けた後、ふぅ〜っと息を吐く。


「最初っから脅して要求呑ませるべきだったわ・・・下手に協力なんて求めるんじゃなかった」


「そう言うな」


いつの間にかミコトの横へと戻ったユウトの手が肩に置かれ、やっと落ち着いた様だ。


「で?結局どうなるの?」


アキラが慣れた様子で八尾に促す。


怒鳴られ続けたせいか、さっきより汗の量が増えている。


「まずはやはり我々の攻撃では歯が立たない、という証明が必要になりまして・・・力不足で申し訳ないです。先程言った通り、まずは自衛隊の特殊部隊による攻撃を仕掛けます。皆さんの言葉を借りると餌を与えてしまう事になりますが、最小限で済むよう数分間の攻撃の後すぐに撤退します。予想通り効果がなければ質量が増えている事が確認出来るので、一時間以内には全国の電力を集める事が出来るよう現在も準備を進めています。その間対象に動かれてしまうと被害が出てしまうかもしれませんので、おっしゃっていた通りミコトさんかアキラさん、もしくは両名に結界を張って?作って?足止めをしていただきます。その後、集めた電力を持って魔術変換した攻撃をしていただく、という流れですね。」


「仕方ないさね、そっちの協力がないとビーチに出てきた野次馬を守りながら戦う事になりかねない」


ミコトが納得したと見て八尾は後ろに控えていた犬飼に軽く指示を出す。


聞こえなかったが、おそらくミコトの許可を得たから準備を開始しろとでも言ったのだろう。


犬飼は踵を返し海の家を足早に出て行く。


「その場合、コチラの要望通りの電力総量を集めるのに必要な時間は・・・」


難しい話になって来た。


アキラと八尾らが話している声がツバサの耳の右から左へと流れて行く。


いつもの生活とかけ離れた事が次々に起こっていて理解が追いついていかない。


勉強の息抜きに海に来ただけだったのに・・・黒くて気持ち悪い手に襲われたと思ったらすぐ助けてもらって・・・


ん?ふと思考が立ち止まる。


なんですぐに駆けつけられたんだろう?


「ねぇ、もしかして、私の事監視とかしてたの?」


一瞬全員の目線だけがこちらに向いて、すぐ逸らされた。


その行動が肯定と同じ意味合いを持つことくらい赤点ばかりのツバサにも理解出来る。


「えぇっ!?いつから!?っていうかどこまで!?」


誰も目を合わせてくれないので、一番答えてくれそうなユウトに向かって問いただす。


「いや、監視と言うよりは見守ってた感じで・・・お前を襲いに来る可能性が高かったからすぐ助けに行けるようにだな・・・」


モゴモゴと話していて歯切れが悪い。


「っていうか、分かってたなら話してくれたら良かったのに。このバリアとか見せて説明されたら信じるだろうし!」


とそこまで言うと、皆の目がアキラを見ている事に気がつく。


ミコトが口の端を上げてニヤニヤと笑いながら


「アキラがさぁ、ツバサは覚えてないんだからわざわざ言わなくていいって言うからさぁ」


と言うと、


「ツバサが襲われない可能性もあるんだから、思い出させる必要はないらしい」


とユウト。


「先に事情を説明出来れば政府ももう少し対応の仕方があったんですけどねぇ・・・」


さめざめと泣き真似をしてみせる八尾。


政府の人間だというのに意外とノリがいい。


アキラの方を見ると、完全に背中を向けてしまっている。


が、耳は赤くなっているのが見て取れる。


そうだったんだ・・・仲間って言ってたし、仲良かったのかな?もしかしてミコトとユウトみたいに夫婦だったり?


「内密に接触も試みたんですがすぐ見つかって、政府の人間の性別を全員逆にするぞって脅してきたりして・・・内部からのアキラさんへの反発を抑えるのも大変だったんですよぉ」


八尾だけは段々と本気で愚痴り続けている。


「そんなに嫌だったの?思い出して欲しくない事があるって事?」


「いいんだよ!今は違う人間なんだから!」違う方向を向いたまま誤魔化すと「夜になる前に行動に移すぞ!」


と耳を赤くしたまま外に出て行ってしまった。

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