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第一部 結-3

砂浜にいる面々がその異様さに気が付いたのは、ずっと海上ではなく空を見上げているユキリンの


「始まった」


の呟きが聞こえてからだった。


離れた海の上での戦いは、近づいても足手まといにしかならない以上触手の動きやそれが斬られ霧散していく様子を見て予想するしかない状況だ。


インカムなどを準備していれば良かったのだが、一部の上層部が魔物の襲来を本気にしなかったせいで最低限の人員を割くのが精一杯だったのが悔やまれる。


その為、ユキリン以外の全員が望遠鏡や目を凝らして見守っていた。


だがユキリンの声で空を見ると、光る煙のような雲が吸い寄せられるように魔物の方へと流れて行っている。


空に集めていた精神エネルギーをアキラが集めている。


つまり、魔核を発見したのだ。


「よし!ここからが正念場・・・?ユキリンさん、何してるんですか?」


気を引き締めようとした八尾の横で、ユキリンが持ち込んだ自分の大きな機材バッグを漁っている。


中から取り出したのは手の平サイズのドローン。


「中にある石?が見つかったら出そうと思ってて!もしダメだったらすぐミサイルとか打つんですよね?自衛隊のオジサン達への合図にもなるし、今ならあのキモい手に邪魔されずに撮れるし!」


と折り畳まれたプロペラを開いて飛ばすと、隊員が持つカメラにスマホやコードを繋ぎ、生中継している放送に流せるようテキパキと接続し設定していく。


「こりゃワシらだけじゃ無理だったな」


ポツリと呟く田主に頷く八尾。


「こっちで出来る事はやるから、四人とも頑張ってね・・・」


ユキリンの声がマイクを通して世界中へ放送されていった。


アキラが両手を海岸の上空に向かって上げ、精神エネルギーを集めていく。


近付いてきた光の雲が細くなり、渦を巻くようにアキラの元へ吸い込まれていく。


静止画で見るとアキラの手から竜巻が生まれているようだ。


そのアキラの横で、周囲を警戒しながら稀に近付いてくる触手を切るツバサ。


不意に光の雲が途切れる。


「姉さん、僕の後ろに!」


素早く移動するツバサ。


青いローブに肩を付け、アキラの背中を支える。


キュルキュルキュルキュルと高い音が辺りに響く。


精神エネルギーを電気を帯びた魔力に変換し、自身の魔力でその周りを固め、電動ドリルのような形を作り高速で回転させているのだ。


そして、空中に留めていた魔術を解き高速回転のスピードのままに魔核へと突き刺した。


バリバリバリバリッ!!


どこか遠くに聞こえる轟音を不思議に感じたツバサは、アキラが二人を囲む防壁を作っている事に気が付いた。


しかもヒビが入っては修復し、壊れては修復している。


ホントに過保護なんだから・・・こんな状況でも笑ってしまう。


十数秒経って音が消え、アキラの後ろから出てきたツバサは横に立った。


まだ白煙が漂ってはいるものの、潮風に吹かれ段々とその姿が現れて来る。


真っ二つ、まではならずとも真ん中に大きなヒビが入っているのが見て取れる。


「ここまでやってコレかよ・・・」


疲れた声が隣斜め上から聞こえてきた。


「次は私がやるね」


言い終わる前に、出来たヒビに向かって刀を正確に振り下ろす。


キィン!と弾かれ、金属の高音がする。

それなら・・・


胸の奥で感じる、燃えるような熱。


それを刀に纏わせてみる。


半白半黒の刀を赤い焔が包み、その熱で刀身が燃え、真っ赤な刀へと変化していく。


「姉さん、それ・・・」


アキラの声に驚きの色が混じっている。


それはそうだろう、ツバサ自身も初めて試してみたのだ。


これまでも感情が昂り髪や瞳が赤くなる事はあったが、その度に感情が爆発するような興奮状態だった。


今のように冷静で考える事が出来る状態を保てているのは初めての事。


自分の中の熱を感じる余裕があるのも初めてだ。


だが、考えている暇はない。


ガキィィン!


同じ場所へ寸分の狂いもなくぶつけると、先程よりも鈍い音が響き、刀が弾かれる事もない。


ダメだ。

助けなきゃ。

この魔物を、魔核になったこの子を、助けたい。


「あぁぁぁぁぁ!」


そのまま、心と身体に力を込める。


胸の奥底から熱いモノが溢れ、腕を通って刀に、そそて魔核へと伝わっていく。


ブシュウゥゥゥゥ・・・!


刀が当たっていた場所が徐々に溶け、その隙間から真っ黒な煙が吹き出した。


「姉さん!」


アキラが飛び出しツバサを抱えて引き戻す。


「ゲホッ・・・いや、大丈夫、何ともない」


驚きはしたが、本当に異常は無い。


だが、切り込まれた魔核の隙間からは止まる事なく黒煙が出続ける。


「これ、何だろう」


「・・・魔素だ」


「マソ?あ、魔素か!え、魔素!?」


素っ頓狂な声が出る。


前世で空気中に存在していた、魔力の元となる魔素。


それが詰まっているというのか。


「そうか、だからか、わかった」


一人で納得するアキラを見上げ説明を求める。


「前世で最後に見た姿よりも異常に大きくなってるって言ったでしょ?あれは、人や魔物を食べ尽くして空気中の魔素や木や土に含まれる魔素も全て食べてたんだ。だから身体が大きくなっていたし、こっちの世界に来るまでに何年もかかったんだ」


なるほど、そう考えると筋が通っているような気がする。


難しい事はわからないけど、アキラがそう言うならそうなんだろう。


「これ、このまま出しちゃって大丈夫なのかな?」


刀で煙の根本を指す。


「この世界に魔素が広がるって事は、この世界でも魔術が使えるようになるって事だよね?」


「それは・・・そう、だね」


アキラが顎に指を置き思案する。


「こっちの世界で誰もが魔術が使えるようになってしまうと・・・政治的なバランスや世界情勢も変わってしまうし、これまでの世界が一変してしまうかもしれない」


黙り込んで考え続けるアキラをしばらく待っていたが、答えは出なさそうだ。


「よし!まぁいいや!」


思いっきり刀を振り上げると、黒煙の根元に叩きつけた。


ブワァァァ・・・


黒い煙、改め濃密な魔素の煙を浴びる二人。真っ黒な視界の中で、


「もう!姉さん!」


とアキラの声が聞こえる。


「だって考えたって仕方ないでしょ?もう既に出てたんだし、倒さなきゃどっちにしろ全部食べられてこっちの世界も終わっちゃうじゃん。それに、あの子を早く助けてあげたかったから」


ツバサの話を聞いているのか、アキラの返事はない。

やがて潮風で魔素が薄れると、お互いの姿が見えてきた。


困ったような、でも嬉しそうな顔のアキラ。


そして、腰に手を当て満足げな笑顔で胸を張るツバサ。


「全く・・・姉さんらしいや。いいよ。姉さんに何があっても、僕が全部守るから」


「んまっ!生意気言ってぇ。弟に守られるほどお姉ちゃん弱くはないわよぉ」


とおどけて、ミコトとユウトがいる方向へ歩き始め、後ろを歩くアキラ。


「姉さん・・・そっか、僕が姉さんって呼ぶのも悪いのか」


最後の方が小声になる。


「え、なんて?」


剣魔術を解き、現世の姿に戻ろうとしているツバサが聞き返す。


ずっと発動させていた浮遊魔術を解き魔物の肉に足を下ろし、身長が縮んでいくアキラが声を発した。


「ツバサ」


振り向いたツバサの目の前には、黒髪黒目の可愛い少年・・・


ではなく、金髪に黒髪が混じり、青みがかかった黒目の少年がいた。


顔付きは前世の少年時代と現世姿のちょうど間くらいか。


どちらにせよ、まだ幼さが残っていて愛らしい。


「ええええええええ!?」


「えっ!?姉さ・・・ツバサ!髪!と眼の色!」


耳の下辺りの髪の毛を引っ張って見てみると、銀色と黒髪に、数本だけ赤色が混じっている。


恐る恐る襟元を持って服の下を覗くと、現世で着ていたブラは胸を収まりきれずに浮いている。


「んなっなっ・・・なんでっ!?」


「うーん・・・転生魔術って、普通は成長すると元の姿になるように生まれるんだけど、こっちの世界は魔素が無かったから無関係な姿になって、でも今は魔素があるから前世の姿に戻ろうとしてる、って感じなのかな?まだ推測だから検証が必要だけど・・・」


「そ、そんなぁ・・・この姿じゃ学校行ってなんて言われるか・・・」


「もう遅いんじゃない?」


アキラが左手と顎で空中を指し示す。


そちらに目を向けると、小さな虫、いや、ドローンが飛んでいる。


「多分あれ撮って流してるでしょ」


「えぇぇぇぇぇぇ!?」


膝から崩れ落ちる。


「ま、仕方ないよ。世界を救ったって事で許してもらおう」


ニコニコしながらアキラがツバサの手を引っ張り起こし、並んで歩き出す。


「それに・・・僕の大人の姿、結構好きでしょ?」


悪戯っぽい笑い方でツバサを見上げる。


「はっ!?」


違うと言えば嘘になるし、そうだと言うのも何か負けた気がする。


結果、何も言えずにほぼ肯定の意を示してしまう。


「これからどんどん成長するからね。今度は正真正銘、弟じゃないんだから、ちゃんと男として見てもらうから!ね、ツバサ!」


ニコニコしながら手を繋がれる。


身長差で言うと子供と大人なのに、どうしようもなく顔は耳まで熱いし繋いだ手は振り解けない。


反対の手で顔を覆いながら、二人はミコトとユウトの元へと歩いて行った。

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