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第一部 転-4

壊れていく結界の向こうには大きな黒い球体。


さっきよりも、身体が大きくなっている・・・?


いや、大きくなったんじゃない、これまでにない程の量の触手がこちらに向かっているのだ。


「退避〜!退避〜!」


犬飼の声で全員が陸地の方へと走り出す。


が、まださっきの人を助けてない。


「た・・・助けて・・・」


砂を掴み半分海に入りながら抵抗している隊員の元へ飛ぶように駆けつけると、細腕の触手を叩き切った。


「ありが」


とう、まで聞く事は出来なかった。


ツバサの目に映るのは助けたはずの隊員が海中に伸ばされた太い手に捕まれ海に呑まれていく姿。



「ああああああ!」


その瞬間、ツバサの身体に流れる血液が沸騰する。


アキラが言っていた、自己の精神エネルギー変換。


ツバサのそれは国の精鋭が集まる騎士団においても異質であった。


通常は必要なエネルギーだけを魔力へと変換する魔術。


それまで使っていた魔力がそのまま継続されるので、戦いの最中では相手は精神エネルギーを使っている事にも気が付かないのが通常である。


たが、ツバサの持ちうる気持ちの強さの現れか、アキラが無意識領域に術式を書き込んだせいか、もしくは違う要因か・・・ツバサが変換魔術を使うと、誰もがその変化に気が付くのだ。


インナーカラーの銀髪はそのまま、黒髪は肩の下の毛先まで一瞬で燃えるような赤色に。黒かった瞳はその全てが瞳孔と同じ血の色に。


激昂したのが見てわかるほどの変貌だが、叫び声に振り向いた八尾ら現世の人間がその変貌を認識した次の瞬間にはツバサは海の中に立ち、片腕に先程の隊員が抱えられていた。


浮遊すると言うよりはジャンプをして犬飼らの元へ片手に抱いた隊員を届ける。


「ツバサ、さん・・・?ですよね・・・?」


八尾が恐る恐る聞くとチラリと一瞥し、


「早く逃げて」


と言い放つとすぐに背を向けまた海へと飛んで行く。


姿が変わってもミコトらは言動が変わらない為もう慣れていたつもりだったが、戦闘モードへと切り替わったツバサは人が変わったようだ。


言葉を失う八尾。


その後ろで


「かぁっ・・・こいぃぃぃ!今の!撮ってた!?」


「バッチリです!」


とはしゃぎ始めたのはユキリンとカメラ係の隊員だ。


「あ・・・撮ってるんですか・・・?」


力無く聞いた八尾に


「はい!この状況を全国の皆さんに伝えないと!」


と強く拳を握るユキリン。


クルリとカメラの方へ向き直すと


「皆さん、今起きている事が信じられないのはわかります!でも、ここにいる人達も、私達の事も、そして皆さんの事も!あの人達は危険な目に遭いながら守ってくれているんです!あんな気持ちが悪い怪物に立ち向かってくれてるんです!私達には倒す力が無いけど、一緒に戦う事は出来ないけど、ちょっとでいいから、力を貸して下さい!信じて!」


最後は目に涙を浮かべながら、レンズを真っ直ぐに見て伝える。


海で戦っている四人を指差す。


「逃げてって言われたけど、逃げません!あの人達に力を分けられるのなら、この映像を皆さんに届け続けます!どうせあの人達がダメなら、何しても無駄なんでしょ!?」


突然カメラを向けられた八尾が飛び上がるが、咳を一つ吐くと


「はい。私は政府の代理としてこちらに来ております八尾と申します。私がこの方の言っている事、今の状況が嘘ではないと保証致します」


と淀みなく答える。


「現在わかっている情報全てを精査しても、例えば世界中の兵器をここに全て集結させてもあの生物を倒す事は出来ないでしょう。別の世界から来ている為、その世界の力を用いる事でしか傷を付ける事すら叶わないのです。お願いします。皆様のお力添えをお願いします」


カメラに向かって深々と頭を下げた。


ドォォン・・・


すぐ近くで重低音と地響きがする。


足元が揺れ、カメラがその原因の方を向くとユウトが切り落としミコトに飛ばされた太い触手がレンズに映る。


その指はまだ蠢いているが、やがて動きが止まった。


「あっ!危ない!うわぁ!あ〜良かった・・・あっち!ほら、今魔法ぶつけた!え、魔術だって?別にどっちでもい・・・あっ!お見事!」


握りしめた手にマイクを持っているのだが振り回しながら応援しているのでカメラには声が大きくなったり小さくなったりして聞こえている。


「アキラ!もう一回結界張れるかい!?」


空を飛ぶミコトが両手で触手を掴み霧散させながら聞く。


「いけるけど、魔核の破壊の為にはまだ魔力温存しときたい所だね」


空中で戦う二人と、海上で戦うユウトとツバサ。


「おぁぁぁぁ!」


中でもツバサは鬼神のような戦いぶりを見せている。


自ら触手が多い場所に突っ込んで行き、周囲の触手を切り落とし続け、手が届く範囲の触手が無くなればまた触手の巣へと移動。


そのおかげか目に見える数は減っているように見えるが・・・


「このままじゃ前の二の舞だ。ジリ貧さね」


ミコトが言うように、切られた触手はトカゲの尻尾が復活するかの如くその腕はゆっくりと再生し、指がまた生えてきている。


どうしたらいいのか・・・アキラが思案し始めた時。


「総員、発射!!」


大きな声が響き、同時に四人から離れた場所にある触手へと弾丸雨注の攻撃。


「四人には絶対に当てるな!倒せなくていい、押し戻せー!」


犬飼が自衛隊員を鼓舞し、海岸に並んだ隊員達が連射を続ける。


「四人だけに戦わせるな!意地を見せろ!」


ズドドドドド・・・


撃ち続けられる銃弾が触手に当たり、物理的に動きづらいせいでこちらへの攻撃が減っている。


隊員の中には「女神ー!」と叫んでいる者もいるようだが、気のせいかもしれない。


自衛隊の援護もあり、戦線は波打ち際から後退してきている。


それを見たアキラが


「皆!壁を作る!一旦引いて、さっきのエネルギーと電力を使って攻撃するしかない!」


言うのと同時に金色に輝く数キロ程はありそうな長さの壁が上空に現れ、ユウトとツバサの目前に落とされる。


壁は海中の砂の中まで沈み、深々と突き刺さった。


だが昂った気持ちが抑えきれないのか、ツバサはまだ壁に押しつぶされ消えそうになっている触手を攻撃している。


「もうやめろ!引くぞ!」


ツバサの腰を抱え、ユウトが砂浜へと海上を走って戻って行く。


「皆さん!大丈夫ですか!?」


砂浜にたどり着き、肩で息をする四人の元へと八尾が駆け寄ってきた。


ツバサの髪色が元に戻り、瞳の色も黒色に戻っている。


「団長、ごめん」


「お前は相変わらず熱くなると周りが見えなくなるな・・・気を付けろ」


と騎士団二人。


「アレもそう長くは持たない。どこまでやれるかわからないが、今のエネルギーでやるしかないさね」


ミコトが息を整えながら答える。


ふーっと息を吐いたアキラが、エネルギーを集めるべく先程と同じく目を瞑り両手を前に出すと・・・


「あれ!?」


大きな声を出し、目を見開いた。


「どうしたの!?」


すぐにアキラの元へ走るツバサ。


「すごい、増えてる。いや、増え続けてる・・・?それにコレ、この国だけじゃなく他の国からのもある・・・?」


「良かった、多少は効果あったようだの」


ハァハァと滝のような汗をかいた田主が堤防の方から歩くようなスピードで走って来た。


「昔世話したり世話になったりした奴らが各国に居るからな、ちょっと電話かけて向こうにも映像を流させとる。もし倒せなんだら、次はそっちに行くかもしれんぞと言ったら快諾してくれたわい!」


胸じゃなくお腹を張って威張っている。


「何とかいう賞取った怪獣映画のおかげかのう!日本に魔物が現れたと言ったら「ついに!」と言う奴らも多かったぞ」


と笑う。


「すごい!ずっとカメラ回してたんですけど、ネットの反応もさっきと全然違いますよ!「この人達の為にならちょっとくらい力あげていい」「この戦いっぷりを見られただけで価値がある」「偽物でもいい、お金出せるわ」とか、殆どが好印象です!あと「顔面が良いのは正義」ってのも結構いますね」


嬉しそうに説明するユキリン。


海の壁の向こうではまだ触手が蠢いているが、ワイワイとした雰囲気になってきた。


「一緒に戦ってくれる人がいるって、いいね」


他の人には聞こえない程の、ポツリと溢れた呟きに、ツバサはアキラを見上げた。


気のせいだろうか、その目が潤んでるようにも見える。


そうか、アキラはずっと一人で何年も戦ってたんだ。


家族も友人も失って行く世界で一人きりで・・・


「アキラ、大丈夫だよ。皆も、私もいるからね」


アキラの顔に優しく触れる。


浮かんだ涙を隠すように目を瞑り、ツバサの手に頬を擦り寄せると、すうっと息を吸って声を出した。


「これならイケる!師匠!電力の方の準備を!」


「あたしゃいつでも行けるよ!」


息が上がって膝に手を付き満身創痍の状態に見えたが、師匠としての矜持がそうさせるのか、返事と同時に背筋を伸ばし蓄電池に両手を付く。


「今度こそ、今度こそ倒してやる!」


アキラが高らかに叫んだ。

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