5話 ルイは友を呼ぶ
カチッ…カチッ…カチッ…
「……………」
式が終わったあと、呆然としていた私たち入隊者は、先に扉へと動き出した軍家の列を先頭に扉に入って行った。今は、その扉の中にいくつかあった部屋でそれぞれ次の指示を待っている。
ついさっきあの言葉を受けたせいか、みんなの空気はかなり重く、誰も口を開こうとしない。そのせいで、無駄に広い部屋の中で、時計が時を刻む音だけが静かに響き続けていた。
(やっぱり軍家も知らなかったのかな…あれ。)
『世界は平和では無い』
あの時白河明里が放った一言は、私たち一般人だけじゃなく軍家の常識すらも覆すものだったことは、集まったみんなの様子を見れば明らかだ。
そんな状況で、これから軍でどうするのか改めて凛と話したかったのに、人の波に飲まれてはぐれちゃったし。今日はもう散々だ。
「はぁ…」
「ねぇ、そこのあんた。あんたって一般募集の子?」
「…え?私?」
話しかけられたことに気づいて横を向く。そして目線を少し下に移すと、小柄で金髪の女の子がこちらをじっと見つめてきていた。
「そうそう、青髪のあんたよ。」
この静寂の中で急に話しかけられて、なんだか少し恥ずかしくなる。パッと外見を見る限り、私のような格好ではなく、制服に近いものを羽織っている所から、おそらく軍家の出身の子だろう。
「一応一般募集で入ったけど…」
「…ふーん、やっぱり一般か。でもあんた、一般にしては元々のセンスが結構高そうね。ちょっと見て軍家の出身かとも思ったけど、着てる服見たらいかにも普通の女の子~って感じでびっくりした。」
初対面にも関わらず結構グイグイ来る言葉に驚きく一方、言い回しの感じがどことなく凛に似ていて少し安心感を覚える。最初はいきなりでびっくりしたけど、結構な時間変化がなくて飽き飽きしてたし、話し相手になってくれるならなってもらおう。
「そういうあなたは軍家の子?私の格好が普通の女の子なら、あなたの格好は少しだけ軍の制服に似てて軍人みたい。」
「うーん、それは正解に近い不正解ってとこ。まあいいか、自己紹介がまだだったわね。あたしはルイ、ただのルイよ。」
表情を変えずにルイはそう続けた。「ルイ」この国じゃあまり聞かないタイプの名前に少しだけ違和感を感じるけど、それは後で聞けばいいかな。
「私は鏡、佐倉鏡。それで、私に何か用?」
まずは目的を聞くために一旦そう尋ねると、ルイは少し黙ってから表情を変えずに言った。
「単刀直入に言うわ。あんた、これからあたしと寮部屋一緒だから。とりあえずよろしく。」
「は?」
言われたことが分からなくて、思わず聞き返してしまう。だって、まだ白河明里から集合がかかっていない。だから、今の時点では部屋がどうとか分かるわけないはずなんだ。
「待って、なんでそんなこと知ってるの?」
「それは内緒。まあ、そんなに知りたいなら後で部屋に入った時教えてあげる。」
「え、なんで?普通に今教えて欲しい。」
ここまでズバズバ色んなことを行ってきておいて、今更もったいぶらないで欲しい。そう思ってルイを見つめていると、ふいにルイはドアの方を見ながら言った。
「いや、今は無理よ。だって、今から集合の号令が…」
「入隊者諸君、白河隊長が本部ホールでお待ちだ。直ちに集合するように。」
ルイがそう言いかけると、本当に軍人が入って来て集合を告げる。私は驚いてドアの方を見てから、再びルイを見つめ直す。するとルイは、ほれ見た事かと言わんばかりのドヤ顔をしていた。初めて変えて見せた表情がそれなのかとちょっと複雑になる。
「そういうことだから。まあ三人部屋の同室なんだし、どうせあんたも、お友達のウルフちゃんにも後で会える、その時にまたね。」
「!?、ちょっと待って、凛を知ってるの?」
別れの言葉かと思ったら唐突に凛の特徴が出てくる。本当にどういうことなんだ、この子。投げかけた質問に対して、ルイは少し不快そうにこっちを向いて答えた。
「後でって言ってるでしょ。少しくらい待ちなさいよ。さっきも言ったけど、部屋で教えてあげるから。」
そう言って、ルイは手を振りながら動き出した人の波に消えていった。しばらく不可解な出来事の連続に呆然としていたけど、私の周りの人も動き出したのを見て慌てて動き出す。
動く人の流れに沿って歩きながら、さっきのことについてもう一度考えてはみたが、分からないことが増えるばかりでうんざりしてくるだけだった。
(さっきの子…なんだったんだろ…)
「おーい、鏡!。良かった~、やっと見つけたよ。」
「え、凛!?まさかこの人混みの中待ってたの!?」
暫く歩いて、本部のホールに入ったところでところで凛に手を掴まれた。確かに、ずっとここで待ってたら確かに会うことは出来なくはない。でも、凛の性格上そういうことはしたがらなさそうだし、何より私が来てもこの人混みの中どうやって見つけたのか分からなかった。
「うん、でもまあ実はさっきまで、僕も結局鏡に会えなかったしこのまま一人で寮の説明聞いて後で合流しようと思ってたんだけどね。」
「そしたらさっき金髪の女の子に、『ねえあんた、佐倉鏡ならあと少しで左から二列目に並んで来るからここで待ってなさい。』って言われたからちょっと待ってたんだよ~。」
「そしたらほんとに鏡来ちゃうんだもん、びっくり。」
その特徴に口調、間違いないルイだ。でもほんとになんでこんな不思議なことが次々にできるんだろ。まるで未来が見えてるみたいに。
「…凛、さっき本人から聞いたんだけど、私と凛とその金髪の子が同じ寮部屋になるらしいよ。」
「えぇ?急に何言ってるの鏡。僕たち今から部屋割りを聞きに行くんだよ?それにそもそもまだ三人部屋とかすら知らないし~。」
本当に凛の言う通りだ。私だってそう思う。
でも、確かにルイはさっき、私とウルフのお友達、つまり凛が同じ部屋になるって言い切ったんだ。
どうやってるのかわかんないけど、あいつは今のところ言ったこと全部を当ててる。だから、これも当たると見るのが妥当だろう。
「私もよくわかんないけど、多分そうなる。あいつ、今まで言ったこと当たってるし。」
「…まあ、入隊式であんなこと言われたあとだし。ここでまだ何かあってもそんな不思議じゃないか。」
あの女の子、ルイ。何者なのかはまだ分からないけど、この世界はまだ、知らないことが多そうだ。
ルイの身長は結構低めです。146cmくらい