91話 逆鱗
「ほら! こいよ!」
「ガアアアアアアァ!」
俺がこれ見よがしに水を浮かせて見せると、デザートドラゴンが唸り声を上げた。知能がある程度高いからこそ、自分が馬鹿にされているとしっかり理解しているのだろう。
その状態であえて攻撃せず、撃つ振りをしながらドラゴンを挑発する。
「グルルル……」
唸り声を上げるデザートドラゴンの体内で、強い魔力が発せられた。その魔力が喉へと上ってくるのが見える。
「やべ! 壁よ!」
咄嗟に土壁の術を使用したが、俺の前にせり上がった壁は一瞬で粉砕されていた。ドラゴンブレスの直撃を受けたのだ。
嫌な予感がしていた俺は、土壁に続いて鉄壁の術を連続で発動していた。しかも、魔力をかなり多めに込めた特別製だ。だが、ドラゴンのブレスは俺の想像をはるかに超えて強かったらしい。
「これでも、ダメか!」
鉄の壁は僅かな時間、ドラゴンのブレスを防いでくれていた。だが、あっという間に削れ、小さくなっていくのが分かる。俺はこのままではまずいと悟り、そのまま横に跳んだ。
直後、それまで俺がいた場所をブレスが粉砕する。鉄の壁を物ともしないとは……。さらに魔力を込めたとしても、防ぎきるのは無理だろう。
どうやら、大量の砂と魔力を超高速でぶつけられたようだ。サンドブレスってことかな? 周囲に砂なんかないし、魔法で生み出しているのだろう。
「グルルル……」
またかよ!
デザートドラゴンの体内で再び強い魔力が感じられる。なんと、アレだけの攻撃を連発できるようだ。
鉄壁を使えばなんとか回避できるだろうが、このままじゃあっという間に魔力が枯渇するだろう。
だが、デザートドラゴンが2度目のブレスを吐き出すことはなかった。
「にゃぁぁ! 白閃刃!」
「わう! 闇天槍!」
シロとクロが絶妙なタイミングで、攻撃を仕掛けたのだ。しかも、俺が見たことのない魔法である。迷宮で戦い続けた結果、新しく覚えたのだろう。
俺が見守る前で、シロがデザートドラゴンに向かって突っ込んだ。真横から頭部に接近し、下から短剣を繰り出す。
魔法じゃない? いや、よく見るとシロの短剣が白い光に包まれている。武器に纏わせて使うタイプの魔法ってことらしい。
「にゃぁぁぁぁぁぁ!」
シロの短剣がデザートドラゴンの顎を跳ね上げた。シロのパワーというよりは、あの魔法の威力なんだろう。
まるで巨大な拳でアッパーカットを食らったかのように、デザートドラゴンの顎が浮き上がり、喉を無防備に晒す。
その直後、地面から黒い槍が生え、デザートドラゴンに襲い掛かった。これはクロの魔法だろう。
相手の影から闇の槍を生み出し、串刺しにする魔法であるようだ。その闇の槍が、喉にある1枚だけ赤い鱗に直撃した。
なるほど! シロが弱点の位置をクロに見えるようにし、クロが精度の高い魔法でそこを狙ったってわけか!
ちゃんと弱点の位置を考えて、上手く連携したな! 成長が実感できて、戦闘中なのに嬉しくなっちゃうぜ!
しかも、クロの攻撃はしっかりと逆鱗を捉えている。これはもしかして――。
「ギャオォォォォォォッ!」
「ダメか!」
確かにあの鱗は弱点だが、他の鱗よりもかなり硬いらしい。中位魔法の直撃にも耐え、傷がついた様子もなかった。
しかも、デザートドラゴンが明らかに怒っている。目が大きく見開かれ、角が赤く染まり出した。
文字通り、逆鱗に触れてしまったのだろう。赤い魔力が陽炎のようにユラユラと立ち上り、全身の鱗が開きかけの松ぼっくりのように逆立っている。
「シロ! 逃げろ!」
「ガアアアァァァ!」
「にゃっ!」
デザートドラゴンがその首を激しく振っただけで、近くにいたシロがぶっ飛ばされた! いや、自分から後ろに跳んだのか?
血が見えるが、大ダメージはないようだ。
しかし、デザートドラゴンの攻撃は終わらない。飛んでいくシロを無視して、今度はクロに向かって口を大きく開いた。
ブレスだ。しかも、俺に対して使った時とは比べ物にならないほどの量の魔力が、喉へとせり上がってくる。あれは、マズい!
「うぉぉぉぉ! こっち向け! デカ蜥蜴!」
俺は水魔法を連打したが、デザートドラゴンは完全に無視だ。逆鱗を攻撃した張本人に対して、最も怒りが向いているのだろう。
影から槍を生み出すという攻撃は使用者が分かりづらいと思うのだが、こいつにはしっかり理解できているようだ。魔力の流れなどを感知する能力も高いらしい。
「ガアアアァァァァァ!」
クロとその周辺を巻き込むように、デザートブレスが吐き出される。クロは逃げようともしない。もしかして、魔力の使い過ぎで動けないのか?
俺は土の壁をなんとか生み出すが、一瞬でブレスに破壊されてしまっていた。そのまま砂の濁流がクロを呑み込む。
「クロォォォォ!」
「よんだ?」
「は?」
え? なんで? クロが俺の後ろにいるんだけど!
「影転移つかった」
「な、なるほど」
名前からして、影から影へと転移できる魔法なんだろう。それで、一瞬で逃げたらしい。
「クロ! 無事です?」
「だいじょーぶ」
「よかったです!」
駆け寄ってきたシロも安堵した表情である。
「逆鱗ちょー硬い」
「うーむ、弱点のはずなんだがな……」




