88話 黄水晶
黒い魔力の柱が立ち上ってから数分後。
ミレーネが、立ち止まった。何やら、頷いている。どうやら、遠距離通話が可能な魔法で、誰かと連絡を取っているらしい。
その顔には、笑みが浮かんでいる。ということは――。
「領主を倒したそうです!」
「うおー、すごー」
「すごいです!」
本当にあの化け物に勝ってしまうとは……。
俺たちはとりあえずジオスと合流することにした。ミレーネの先導で、深層を進む。カロリナの容態を優先して、ゆっくりとだ。
「一度地上に戻ったら、改めてこの迷宮の攻略をしましょう。ジオス様がいれば、大丈夫です! あなたたちの呪い、絶対に解きますから」
「ありがとうございます」
ミレーネのことは、もう信用している。それに、ジオスの強さも。この2人が手伝ってくれるなら、攻略できる確率が跳ね上がるだろう。
光明が見えてきたんじゃないか?
話しながら歩いていると、ミレーネが不意に足を止めた。同時に、俺たちも周囲を警戒しながら身構える。
「……あっちです!」
ミレーネに釣られて森の奥を見ると、そこには巨大な犀の姿があった。
全長10メートルはありそうな巨大魔獣の名前は、デッドリーホーン。鋼鉄のように硬く分厚い皮膚を持ち、角には猛毒まで備えるという上位の魔獣だ。多分、1対1であればヘルキマイラよりも強い。
この巨体で長距離を走るスタミナもあり、見通しの良い草原地帯などでは死神と怖れられる相手だった。遠くからでも獲物を発見し、延々追われるらしい。
そのまま町へと誘引してしまい、大きな被害が出ることもあるそうだ。
俺やシロクロだけであれば、確かに危険な相手だっただろう。魔法も物理も効きづらく、その突進は俺たちの障壁程度ではどうにもならない。
恐ろし過ぎる相手だ。
だが、今の俺たちには心強い味方がいた。ミレーネは風と雷の魔法を得意とするらしく、遠距離狙撃に秀でている。
「ブオオオオォォ!」
「風雷砲! 雷霆王壁!」
突進の前兆を感じ取ったミレーネが、先制攻撃をかました。雷を帯びた風の砲弾がデッドリーホーンと衝突し、その突進の威力を大きく弱める。
そう、デッドリーホーンは雷魔法が弱点なのだ。まさに、ミレーネがいてくれたことが奇跡だった。
そのまま雷鳴魔法によって生み出された壁に突っ込み、全身を雷に包まれる巨獣。その体から煙を噴き出して、ドスンと倒れ込んだ。
意識はあるようだが、全身が麻痺しているらしい。強力な皮膚を持つが故に、そこを貫通してダメージを与えられると脆いのだそうだ。
「止め刺すぞ!」
「にゃ!」
「わう!」
いくら高位の魔獣であっても、この状態では何もできない。最後は俺たちの魔法が首を斬り裂き、その命を奪ったのであった。
「はぁ……はぁ……このレベルの魔獣が出るのですね」
ミレーネもかなり魔力を消費したようだ。弱点属性を持っていても、簡単ではなかったってことか。
「ああ、素材や魔石がほしいならいくらでも持って行っていいですよ」
「いいんですか……?」
「持ち帰るのも解体するのも手間なので、全部あげます」
「じゃあ――」
デッドリーホーンを保存庫に仕舞い込む。ミレーネには既に教えてあるので、彼女は驚かない。むしろ、驚いたのは俺の方だった。
「あれ?」
どんな部位に分割できたか保存庫を確認してみると、おかしなものが入っていたのだ。宝箱と、黄水晶というアイテムがいつの間にか表示されている。
多分、デッドリーホーンの体内に宝箱が存在していて、一緒に保存庫に仕舞ってしまったのだろう。
「黄水晶ね……」
「にゃ! それ!」
「すいしょーだ」
やはり、攻略のキーアイテムである色水晶で間違いなかった。色々な場所に隠されていて、それを発見しなきゃいけないってことかね?
デッドリーホーンや、トータス・トレント、メタルゴーレムなど、一筋縄ではいかない魔獣が相手じゃ、そりゃあ見つからないだろう。
傭兵たちは魔獣を避けて攻略を進めているらしいしね。
「これで4つだけど――え?」
「にゃ!」
「わう!」
何気なく、緑、青、黒の水晶も取り出してシロとクロにも手渡してみると、手に持っている水晶が激しく光を放ち始めた。
その光が混ざり合い、周囲を包み込む。慌てて自分が持っていた黒水晶を保存庫に仕舞ったが、光は収まらなかった。
「シロちゃん! クロちゃ――」
ミレーネの焦った声と表情。そして、放たれた強烈な閃光に思わず目を瞑ると――。
「ここは……」
深い森の中にいたはずの俺たちは、石造りの部屋の中にいた。
「ここは……」
「どこです?」
「てんいしたー」
クロが言う通り、俺たちは強制的に転移させられたらしい。そこは転移部屋とよく似た、だが少し広めの部屋だった。
ミレーネとカロリナの姿はない。水晶を持っていたからか、水晶をコンプしたメンバーだからか。
ともかく、俺たちだけが跳ばされたようだった。足元には、魔法陣はない。つまり、同じ場所から戻ることはできないってことだった。
「一方通行かよ! 次から次へと……」




