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82話 Sideアレス&ミレーネ

Side アレス


「ぐうぅ……」

「アレス! もう少しだ! 頑張れ!」


 転移で逃げ帰った僕は、ガイランドさんの助けを借りて何とか傷を癒すことに成功していた。聖魔法連打に加え、上級のポーションをがぶ飲みしたのだ。


 ガイランドさんには着替えや食事の用意に、他の傭兵への言い訳なんかをお願いした。正直、ガイランドさん以外は信用できないからね。


 目覚めたときには身ぐるみ剥がされていても、おかしくはない。まあ、ここまでどうやって逃げてきたのかっていう言い訳を考えなきゃいけないけど。


「はぁ……はぁ……」

「すげぇ。腕が生えるようなポーション、良く持ってたな」

「は、はは……迷宮産の、やつです……」

「なるほどな」


 嘘だ。いや、このポーションが迷宮産の上級品であることは間違いない。でも、四肢の欠損を治すほどの品物ではなかったはずだ。


 それが、時間がかかったとは言え、腕が再生した? ポーションと聖魔法の合わせ技だとしても、効果があり過ぎる。


 ワーウルフの魔王から得た再生能力も合わさったおかげなのか?


 ともかく、失った腕を取り戻せたことは大きいだろう。ただ、やはり血が足りない。


「ぅ……」

「無理するな。少し眠った方がいい。俺が見ていてやるからよ」

「は、い……」


 すぐにでも迷宮へと戻りたかったが、今行ったところで命を失うだけだ。少年たちとどう向き合えばいいかも分からないし……。


 とりあえず眠ろう。そうすれば頭もスッキリして、何かいい案が思い浮かぶかもしれない。



 そうして意識を失うように眠りに落ちた僕は、なんと4日間も眠り続けていた。その間、世話をしてくれたガイランドさんには本当に感謝しかない。


「ふぅぅ……」


 気怠さの抜けた頭で、考える。少年たちのことを。彼は、本当にあの人なのか? 竜核の力を感じたが、なぜだろうか? 本当に、彼らが盗んだ? だとしたら、なぜ? そもそも、少年少女の関係は?


 湧き上がった衝動のままに、襲い掛かったことが心底悔やまれる。あの時、僕を呑み込んだ黒い魔力はなんだったのか?


「……魔王の、魔力か?」


 思い返してみるとあれは、ワーウルフの魔王の纏っていた魔力によく似ていた。僕が得たチート能力『魔王殺し』は、魔王の核と魔石から力を得るというものだが……。


 僕が思っている以上に、得られる力は強大だったのかもしれない。なにせ魔王の力なんだ。それこそ使いこなせなければ、精神を呑み込まれてしまってもおかしくはなかった。


 まあ、力の制御に関しては今後の課題だ。無理じゃないという確信がある。多分、訓練すれば自分の意思で使えるようになると思う。


 それよりも、今は少年たちについてだ。思い出したのは、彼らの体に刻まれた、不吉さを感じさせる黒い模様である。


 あれって、話に聞いた迷宮の悪意の呪いという奴じゃないのか? 僕も見たことがあるわけじゃないけど、他に思い当たらないし……。


 突如出現し、攻略者に最低の呪いを刻むという、迷宮の悪意。迷宮で最も気を付けねばならぬ存在として、ガイランドさんに最初に教えられた。


 少年たちの胸に刻まれていた黒い模様は、その時に聞いた呪いの紋様にそっくりだった。


 なるほど、彼らが子供ながらに迷宮に挑む理由が分かった。そして、僕が彼らの必死の足掻きを邪魔したということも。


「……!」


 拳に、力が入る。


 僕は、何をやっている? もう、殺意は消えてしまった。感情のしこりはある。彼らの竜の肉体は、どう考えても天竜由来のものだった。やはり、核の力を盗んだのは、彼らの可能性が高いのだ。


 それを、許せるとはまだ言えない。でも、それ以上の申し訳なさが僕の胸の内を支配していた。


 あの少年は、転生者であることは間違いない。自分で言っていた。


 彼はいったい、どんな人生を歩んできたんだ? 呪いを刻まれ、希少な獣人の違法奴隷を保護して、死にかけて……。


 彼自身、転生してからさほどの時は経っていないだろう。それで、どれだけ波乱万丈な事態に巻き込まれているんだ? 彼は、今後どうするつもりなのだろうか?


 そして、僕はこれからどうしたらいいんだ?


 迷宮攻略を手助けする? どの面下げて? いや、そもそも彼らは生きているのか? 相当なダメージを与えてしまったが――。


「!」


 そうだ! 何を暢気にしているんだ! まずは彼らの安否を確かめなくては!


「いかなくちゃ……!」



Side ミレーネ



 迷宮深層を歩きながら、前を歩くジオス様の背を見つめる。


 領主から下された子供を捕縛せよという命令に従い、こんな場所にやってきた私たち。これは、騎士の仕事だろうか?


 ジオス様は「犬の仕事はご主人様の命令を聞く事だろ?」なんて言っていたけど、それが本心でないことは分かる。いえ、本心だと勘違いしているのだろう。


 何も考えずに、人に従っていれば責任を感じずに済むから。自分の意志で行動しなければ、自分のせいだと苦しまずに済むから。裏切られた時に、悲しまずに済むから。


 昨日のことが思い返される。迷宮へと向かう途中、すれ違った黒髪の傭兵に、何故領主に従っているのかと問いかけられたのです。ジオス様は、いつも通りの調子で返していました。


「剣が多少うまく振れたところで、人なんか救えんよ。結局、何も考えずに偉い人の言いなりで生きてるのが一番賢い選択なのさ」

「あなたほどの力があれば、色々な人が救えるはずでは?」

「でも、お前さんも強いくせに、仲間を死なせただろう?」

「!」

「そういうことさ」


 悔し気に立ちつくす青年を置いて、ジオス様は歩き出します。その顔には、うっすらと笑みが浮かんでいるように見えました。


「彼……変わったねぇ」

「どういうことですか?」

「今の彼なら、案内を頼めるかな」


 以前、あの青年は信用できないと語っていたジオス様ですが……。短い期間で、彼に何かあったということでしょうか?


 ですが、すでに傭兵は雇っていますし、彼の力を借りるまでもありません。そのまま歩いていると、前方に見覚えのある少年がいました。


「ひっ!」


 以前、ジオス様が痛めつけた少年です。こちらから声をかけるまでもなく、ジオス様の顔を見た瞬間怯えた様子で逃げていきました。


 それを見たジオス様は、頷いています。本人は気づいていないかもしれませんが、満足げな表情で。


「いいのですか?」

「何がだい?」

「いえ……」


 あの少年は竜騒ぎで親や家を失い、スラムに落ちた子でしょう。何もしてくれない領主やその配下を恨んでいます。


 その怒りを我慢しきれなくなったのか、巡回中の私たちに石を投げてきました。その時にジオス様に捕まり、痛い目を見ることになったのです。


 しかし、それには理由がありました。


 私とジオス様はともかく、他の騎士や兵士に同じことをすれば、問答無用で殺されてもおかしくはありません。


 騎士に目を付けられることの恐ろしさを教え込み、二度と馬鹿な真似をさせないようにする。同時に、彼を見せしめとすることで他の子供たちにも、馬鹿な真似をするなという警告を与えたのです。


 元々、派手に見えてさほど痛くはしていませんでしたし、最後は私に命じてポーションを与えました。多少の打ち身はあっても、骨などには異常はなかったはずです。


 同じようなことを何度か繰り返していたら、悪い噂が立ってしまいましたが……。ジオス様は興味なさそうに聞き流すだけでした。


「……ジオス様」

「なんだい?」

「私は、ジオス様がどんな判断を下されても、それに従います」

「ふーん? そうかい」

「はい」


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― 新着の感想 ―
[気になる点] アレスの特性は核を取り込める事じゃなくて、複数取り込んでも支障をきたさない耐性にこそ真価があると思います。 幾つもの核を取り込んで、強くなることが出来るだけでない。 『魔王殺し』とは…
[一言] 悪い噂の元となった行動もジオスなりの考えがあってって事ね。 アレスはとにかく現場に駆けつけて真実を知る事からかな。 そうすれば本当の盗人が誰か分かるだろうし、しこりもなくなって心から謝れる…
[気になる点] ジオスって色々噂を耳になっていたけれど、芯まで腐っている訳じゃなかったみたいで少し安心しました。 後、アレスの話で初めてトール達の現状に同情してくれる人物が現れた事が素直に嬉しかった…
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