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75話 兵士たち

 転移陣で深層に入る前に、腹ごしらえをすることにした。今回は万全の状態でヘルキマイラを倒せたので、肉も十分確保できているし。


 首から尻まで真っ二つになったヘルキマイラは保管庫へと仕舞い込み、既に解体済みなのだ。そこからカルビ肉を取り出して、特製焼肉を作った。


 醤油をゲットして以降、何度か焼き肉をしてきたのでタレも改良を重ねている。今回はニンニクモドキの匂いがガツンとくる、濃いめの味付けだ。


「うまうまです!」

「うーまーいー」


 モリモリと肉を食い、魔力を回復させる俺たち。


「お次はこいつだ」

「なんこれー」

「不気味です! でもいい匂いです!」


 俺が取り出したのは、赤黒いヌメッとした感じの肉片だ。ハードシェルバグの酸袋である。既に洗浄、解毒、解体を済ませ、あとは焼くだけになっている。


 見た目は内臓っぽいだろう。人によっては気持ち悪いと感じるだろうが、クロもシロも待ちきれない様子で匂いを嗅いでいる。


〈『鋼殻堅蟲の酸袋の焼き肉、異世界風』、魔法効果:生命力回復・小、体力回復・小、魔力回復・中、生命力強化・微、体力強化・微、魔力強化・中〉


「コリコリウマウマです!」

「クセになる」

「あー、これは美味しいなー」


 ビールが飲みたい! そんな味と食感だった。確かにこれはホヤだ。まさに珍味。ただ、シロもクロもコリコリとした食感が気に入ったらしい。


 あと、魔力の回復量が高い。あの物理極振りの魔獣から取れた食材なのに。魔獣って不思議だ。まあ、魔力をかなり使ってしまった俺には有難いけどさ。


 それにしても、上位魔法はヤバかったな。まず、消耗が大きすぎる。発動と制御で魔力が半分以上持っていかれた。竜の力を使うので、空腹も凄まじい。


 それに、威力も高すぎる。正直、ヘルキマイラ相手ですらオーバーキルだったのだ。弱点とか関係なく、真っ二つで即死だからな。


 中位魔法に魔力を多めに込める方が、コスパ的にもよかっただろう。


「さて、腹も一杯になったし、そろそろ先へと進むか」

「にゃ!」

「わう」


 食後のメルムジュースも堪能して、元気満タンだ。


 そして、俺たちは再び深層へと足を踏み入れた。ここからは気を抜けない領域だ。魔獣以上に、傭兵に見つからないように移動しなくてはならない。


 アレスがどこまで情報を拡散しているか分からないが、場合によっては傭兵全員が俺たちを狙っているかもしれなかった。


 ただ、深層の攻略は俺たちの想像以上に、順調に進んだ。シロの目とクロの鼻が冴えているお陰で、この3日間、1度も傭兵に出会っていないのである。


 素材や食材も見つけられるし、食べられる魔獣だけを狙うこともできていた。想像以上に、シロとクロが成長していたのだ。


 その分、燃費の悪さがより上昇していたけどね! 俺もシロもクロも、すぐに腹が減ってしまう。今では、おやつの量が増えて1日4食みたいなものになっていた。1回で食う量も倍になったし。


 ただ、出発した日にヘルキマイラを仕留めたおかげで、肉には余裕がある。むしろ、日々魔法効果の高い食事をとっているお陰で、体内魔力は増え続けていた。


 しかし、突如として俺たちの迷宮探索に暗雲が立ち込める事態となってしまう。


「いったか?」

「いったです」

「いったー」


 去っていく兵士の集団を見送り、俺たちは地下から這い出す。これで3回目であった。


 明らかに傭兵ではなく、領主の手の者と思われる騎士や兵士が深層に入り込んでいる。1人1人はさほど強くはないのだろうが、人数が多いため深層でもなんとかなっているらしい。


 まあ、結構魔獣に襲われているようで、死体を何度か目撃しているが。


 だがその後、俺たちはミスを犯してしまう。上手く隠れていると思ったんだが、兵士たちの道案内役である傭兵を甘く見てしまっていたのだ。


 斥候能力に特化した傭兵の探知能力は、地面に隠れる俺たちを見つけ出すレベルだった。


 隠れている場所に魔法を撃ち込まれ、包囲されてしまう。何とか土魔法で横穴を掘って、兵士の包囲外へと逃れたが……。


「やはり例の種族だ!」

「あの子供たちで間違いないぞ!」


 まあ、包囲を脱出しただけで、遠くに離れたわけじゃないからな。傭兵に即座に探知され、兵士に接近されていた。


 完全に、シロとクロが見つかったのだ。


「でも、年齢が違うんじゃないか?」

「領主様がご所望なのは、虎と狼の生贄だ。逃げ出した娘たちでなくとも構わん!」

「じゃあ、とりあえず捕まえるぞ!」


 生贄? ろくなことに使われないだろうとは思っていたが、最悪だな! 絶対にこいつらに捕まるわけにはいかなくなった。


 まあ、元々傭兵には何度も目撃されていたし、いつかこうなるんじゃないかという恐怖は常にあったのだ。アレスからの情報が、ダメ押しになったんだろうな。


 そして、シロとクロの存在を知られてしまった。いや、待てよ? ここで兵士を皆殺しにしてしまえば――。


「トール、近づいてくるやつらいるです!」

「たくさん」

「ちっ。仲間を呼んでいたか……」


 皆殺しはもう無理だな。そもそも、相手がどれだけ強いかも分からんし。


「逃げるぞ!」

「にゃ!」

「わん」


 竜の力全開で、深層を駆け抜ける! もう目撃されるとか気にしていられん。深層の奥へと入ってしまえば、凶悪な魔獣が壁となってくれるかもしれないしな!

次回は8/27更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 虎と狼の生け贄の為に獣人の娘を何年も追いかける? と言うのは仮の説明で何らかの隠された理由があるのかな
[一言] 迷宮攻略の前に 領主との因縁に決着を ・・・ ですね。
[一言] 「虎と狼の獣人?なら違うな」 「にゃあ。シロは猫です」 「わん。クロはいぬー」 「な?ほら帰った帰った」 「ちぃっ!紛らわしいんだよ!他を当たるぞ!」 とはならんか。
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