71話 無事?
「!」
不意に、目が覚めた。周辺は薄暗く、天井がギリギリ目に入る程度だ。
「っ!」
全身が痛い。いったい、俺は――。
「すーすー」
「くーくー」
「シロ、クロ……」
俺の左右には、シロとクロが寝ている。地面に雑に敷かれた寝具の上で、安らかに寝息を立ていた。
ここは……? そもそも、なんでここに?
「そうだ……。俺たちは、黒い魔獣にいきなり襲われて……!」
激闘の記憶が、フラッシュバックする。すべてを覚えているわけじゃない。むしろ、曖昧な部分のほうが多い。しかし、憶えている部分もあった。
シロとクロが黒い魔獣相手に攻撃を仕掛け、ダメージを与えた。俺も、湧き上がる力のままに炎を叩きつけた。
だが、倒しきることはできず、最後には転移で逃げられ……。
「結局、勝てなかったのか……」
そう理解した瞬間、様々な感情が溢れ出してきた。感情がグチャグチャだ。膝を抱え、顔をうずめる。喉が熱い。俺の激情に、竜の力が反応しているんだろう。
「……くそ!」
まただ!
また、シロとクロを守りきれなかった!
あの時――迷宮の悪意に殺されかけた時と、全く変わっていない! 成長した? 竜の力を手に入れて強くなった? どこがだ! 弱いままだったじゃないか!
シロとクロを守ると誓ったのに、また死にかけの大怪我させて! 口先だけの馬鹿野郎が!
クロとシロが、血溜まりに弱々しく倒れ伏す光景がまざまざと思い返される。最悪の光景だった。
「そうだ、怪我は……!」
寝ている2人に近づいて、傷を受けたであろう場所を確認するがほとんど癒えていた。
薄っすらと傷跡が残っている程度だ。俺が、癒したのか?
「えーっと、噛みついて、炎を吐いて――」
結構効いているように見えた。そうだ! あいつの動きが鈍ったから、ぶん殴ってやったんだ! そしたら顔の黒い闇が剥がれて、その顔がはっきりと見えた!
黒い魔獣の正体は、黒髪の青年アレスだった! 間違いない!
倒すつもりで攻撃を放ったが、それも結局はトドメにはならなかった。大怪我を負わせたと思うが、アレスはいきなりその姿を消したのだ。多分、転移系の魔法やアイテムを使ったんだろう。
その後、俺は自分とシロクロを全力で回復しながら、土魔法で身を隠したんだ。それが、今俺たちがいる地下室だろう。
上手く地下室を作れるように、練習しておいてよかった。半ば無意識でも、しっかりとした地下室を作り出せている。で、最後は寝具を地面に放り出して、シロとクロを寝かせて意識を失ったのだ。
魔獣や傭兵に発見されずに済んだらしい。
「はぁぁぁぁ……」
アレスは、いきなり敵対するような相手には見えなかったんだけどな……。暴走して理性を失っているようにも見えたが、最後に見た顔は理性があるように見えた。
だとしたら、あの攻撃はアレスの意志? 狂化とか、そう言った系統の能力があるのかもしれない。
俺たちに近づいたのは、最初から捕まえることが目的だったのか?
自分の、人を見る目のなさに嫌気がする。なにが敵対せずに済みそうな良い人だ! ばっちり襲われたじゃないか!
アレスが敵だったとすると、ガイランドもか? 何度か会っただけで、信じてしまっていた自分に腹が立つ。完全に向こうの掌の上だったらしい。結局、傭兵なんて信じるべきじゃなかったんだろう。
俺たちを泳がせておいて、手がかりを掠め取るつもりだったのかもしれない。もしくは――領主に引き渡すつもりか?
獣人の少女2人を探しているという領主。こいつがシロとクロを捕まえていた黒幕で間違いないと思う。傭兵たちが、賞金首である獣人の情報を知らないわけがなかった。
出会ったときに捕まえようとしなかった理由は分からないが、情報の裏取りをしていたのかもしれない。
ともかく、実行犯がアレスだったのは間違いなかった。だったら、ガイランドが協力者である可能性は高いだろう。
「俺たちの体も、間違いなく見られたな」
竜の喉、腕、眼。どれも普通ではないはずだ。奴隷として価値が付くかもしれない。強欲な人間なら、そう考えるだろう。
アレスに逃げられてしまったのは、本当にまずいんじゃないか? せめてこの場を離れないと!
どれだけ寝ていたか分からないが、アレスやガイランドが戻ってくる前に移動をせねば。アレスに襲われる前に見つけていた脱出の転移陣、あれを目指す。
「シロ、クロ、起きろ」
「にゃむ~」
「わう~」
ダメだ。全く起きない!
「仕方ない……」
魔力はかなり回復していた。魔法でシロとクロを担ぐくらいはできるだろう。
「よいしょ……!」
まだ体がギシギシと痛むが、大きな外傷は残っていない。気を失う直前に使った回復の術で、ここまで回復した? いや、竜の力が再生力を高めているのかね?
全快ではないので聖魔法を使いたいが、移動中の魔力も残しておかないとならない。ここは我慢しよう。
「無事に、帰るんだ……」




