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68話 黒い闇を纏った魔獣


「オオオォッ!」


 トータス・トレントを倒して喜んでいると、いきなり人型の魔獣が飛び出してきた。全身が黒い闇に包まれた、不気味な相手だ。


 こちらに敵意丸出しのそいつを見て、俺はある相手を思い出していた。それは、シロとクロも同じであるらしい。


「にゃ! あの時の……!」

「わぅ。黒いのです……」


 シロは自身の左目を覆う革製の眼帯を軽く押さえ、クロは包帯の巻かれた右腕をギュッと掴んでいる。


 俺も、無意識に自身の喉を撫でていた。


 それ以上は体が動かない。完全に、あの時の恐怖が俺たちの体を縛っている。


 それが分かっていながら、それでも俺たちは動けない。


 俺たちの肉体を奪い、呪印を刻んでいった黒い宿敵――迷宮の悪意。


 目の前に出現した魔獣は、迷宮の悪意にそっくりだった。その凄まじい威圧感も変わらないレベルだ。


 勿論違う点もある。俺たちを殺しかけた迷宮の悪意は、女性型だった。まあ、闇に包まれた迷宮の悪意という存在に、性別なんて本当にあるのかは分からんが。


 対して、今俺たちの目の前に飛び出してきた魔獣は、男性型に見える。


 それに、その行動だ。


「オオォォォ……オオォォォォ!」


 何故か自身の頭を両手で抱えるようにして、その場から動かない。まるで苦しんでいるかのようだ。


 また、放つ魔力の質も違っているように思えた。


 最初に出会った迷宮の悪意は、見ただけで絶望を覚えるような、暗く深く悍ましい魔力を放っていた。それこそ、迷宮の悪意という名前以外は考えられないというほどに、強烈な悪意の塊りであったのだ。


 それに対し、今目の前にいる魔獣は、もっと強い感情を放っていた。明らかに、怒っている。まさに激怒している状態だ。


 だが、迷宮の悪意ほどの絶望は感じさせない。どちらかというと、怒りをぶつけられることによる恐怖や委縮という感じだろう。


「オォォォォ! カエセェェェェェェ!」


 かえせ? 返せってことか? 何を?


 ただ、これで確信した。こいつは、違う。迷宮の悪意じゃない。似ているが、俺たちが以前出会ったやつとは、違う。


 そう思ったら、いつの間にか体が動くようになっていた。おかげで、魔獣の初撃を回避することができたのである。


「オオォォォォ!」

「がっ!」


 いや、完全回避は無理だった! やつの放った闇刃に似た遠距離攻撃は、想像を遥かに超えて速かったのだ!


 しかし、直撃は避けた。左肩をかなり深く斬られたが、それだけだ!


 俺は回復の術で傷を癒しながら、反撃を試みる。


 違う個体とは言え、迷宮の悪意と同種と思われる相手だ。万全の状態でも勝てるか怪しいのに、今は直前の戦いで消耗している。


 だったら、魔獣の注意を俺に引きつけ、この間にクロたちを逃がす。そして、俺も何とか逃げる! そのくらいしかこの事態を切り抜ける方法が思い浮かばなかった。


「お返しだ!」


 あの時に持っていなかった、竜の力。それを上乗せして、黒い炎を撃ち出す。


 やつは反応できていない! 当たる! そう確信したが、黒炎の弾丸は魔獣の纏う闇に触れた瞬間、弾け飛ぶように消滅していた。


 反応できなかったのではなく、反応する価値もなかったってことかよ! 同時に、やつの反撃が俺を捉えていた。


「オォ!」

「ぐぁっ!」


 風の障壁も全くの無意味だったのだ。俺の防御をぶち抜いた闇の槍が、俺の胴体を貫く。腹が熱い……!


「にゃあああぁぁぁぁ! トール助けるです!」

「わうぅぅ! しね!」


 シロもクロも、トラウマを刺激する漆黒の魔獣を前にして、完全に頭に血が上ってしまっていた。激高した様子で、魔法を放っている。


 やめろ! 逃げるんだっ! そう言いたくても声が出ない。聖魔法で傷を癒しているが、全快には程遠いのだ。


「オオオオオ!」


 どちらの攻撃も纏う闇に防がれ、全く効いていない。


 しかし、シロもクロも逃げ出そうとはしなかった!


「にゃぅぅ!」

「がるぅ!」


 2人の目は、俺を見ている。その顔には、絶対に俺を見捨てないという覚悟の色があった。俺のせいで……2人が!


「にゃあああああああああああ!」

「わううううううううううう!」


 2人が飛び出す。


 正面から突撃したクロの竜腕には、対する魔獣と似た黒い揺らめきが纏われていた。燃える闇だ。先端が赤く揺らめく闇が、竜の腕を覆っている。


 どうやっても再現できなかった燃える闇を、無意識に操っているらしい。怒りがクロに限界を超えさせたのだろう。


 クロが闇を纏った竜腕を魔獣へと叩きつけたその瞬間、やつの背後で白い光が閃く。


 いつの間にか回り込んでいたシロが、輝きを纏った短剣を突き出していたのだ。シロもまた、限界を超えていた。


 短剣の輝きの正体は、光る風だったのだ。いや、光る風が覆っているのは短剣だけではない。シロの全身が輝いている。


 シロの凄まじい速度は、光る風のお陰だろう。


 俺にできることは、せめて奴の足を……! 


 俺の土魔法が発動し、大地が魔獣の足に絡みついた。これで、逃げられないだろっ!


「がぅぅぅぅぅ!」

「にゃあぁぁぁぁぁぁぁ!」

「オオォォォォォ!」


 闇と光が、魔獣を呑み込んでいた。


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― 新着の感想 ―
[一言] アレス君、二人にヤラれてしまうのかw
[一言] 倒したところ呪詛が晴れて人間に戻り、「え?は?」と戸惑っているところを目撃されて、人殺し認定されると妄想。
[一言] よく言われる言葉です! 『殺してよいのは、 殺される覚悟を持った者だけだ!』 どの様な理由があるとしても 殺意を持って襲ってきたのです。 殺されても、文句を言う資格は無いと思います。
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