60話 懐かしい色
スケルトンとの不意の激闘から5日。
魔法料理のお陰もあって、翌日には魔力も疲れも完全回復し、活動を再開できている。
ここ数日で様々な食材をゲットできており、体内魔力もさらに増えた。傭兵たちにも出会わないように行動することも心掛けている。
探索はある意味順調と言えるだろう。まあ、最も重要な、先へと進むための手掛かりは全くないのだが。
もっと長期間森林に滞在し、腰を据えて手掛かりを探すしかないだろうか? 正直、迷宮で夜を明かすのは怖いんだが……。
ま、今日のところは準備もないし、帰るしかないけどね。その帰りの道中でポイズンラットを発見し、とりあえず仕留めようとしていると――。
「おいおい! ちょっと待て! お前ら、そいつは食えねぇぞ!」
「にゃぅ!」
「わう?」
突如として大きな声が響き渡った。シロとクロが動きを止め、鼠には逃げられてしまう。
「ああ~……」
「坊主、残念がってるがあのネズミは毒持ちだ。食えん!」
声の主は一見山賊みたいだけど実は善い人疑惑のある傭兵、ガイランドだった。というか、善人で間違いないと思うけどね。
驚きなのは、全く気配も魔力も感じなかったことである。この巨体で、恐るべき隠密能力であった。よく観察すると、黒い外套を着こんでいる。
この外套が魔法道具っぽいか? 発見されるまで、気配を遮断するようなアイテムなのかもしれない。面と向かって会話をしていると、普通に魔力が感じ取れるからな。
「えーっと、魔石狙ってたです」
ポイズンラットを食べられるということは明かさない方がいいだろう。カロリナに聞いた感じ、聖魔法はかなり珍しいようだし。
事前にそのことは話してあったので、シロが上手く対応してくれた。俺は相変わらず普通の子供のフリだ。
「そんな小物の魔石、どこも買い取っちゃくれんだろう?」
「じ、自分たちで使うです」
「なに? そうか、魔法が使えるならそういうのもありだよな。すまん、俺のせいで逃がしちまったな」
ガイランドは気まずそうに謝ると、懐から何かを取り出した。それは、中くらいのサイズの魔石である。
「これは詫びだ」
「え?」
ガイランドが投げてよこした魔石を、シロが思わず掴む。そこそこのサイズの魔石だ。だが、これについて質問をする前に、新たに何者かの気配が出現していた。
ガサガサと茂みを鳴らしながら、こちらに向かって近づいてくる。俺たちが身構える中姿を現わしたのは、傭兵らしい青年だった。
「ガイランドさん、ここにいたんですか! 合流地点にいないから心配しましたよ!」
「おお、そりゃぁ済まなかったな。ちょっと気になることがあったんでよ」
「気になることって、この子たちですか?」
「ああ」
既視感というか、妙な懐かしさのある青年である。こっちの世界では非常に珍しい、黒目黒髪であった。その日本人風の風貌のせいで、懐かしく感じたんだろう。
少し影があるというか、なんか元気がない感じ? 陽キャか陰キャでいえば、確実に後者だろう。
傭兵ってイメージからは程遠い雰囲気だが、深層に潜っているってことはそれなりの腕であるはずだ。
「というか、大丈夫なんですか? 子供だけでこんなところに……? き、君たち、大丈夫なのかい? 迷子? 迷宮から出れなくなっているなら、僕たちが連れて行ってあげるよ? この人も顔は怖いけど、面倒見が良いって評判なんだ」
「顔が怖いは余計だ! それに、この子たちは大丈夫だよ。前にも会ったことがある」
「そう、なんですか?」
青年が確認するようにこちらを見た。それに対し、シロとクロがコクコクと頷き返す。
「大丈夫です」
「だいじょぶー」
「そ、そうか……。嘘ついてるようにも見えないしなぁ」
青年は俺たちの素性が想像できないのか、首を捻っている。
「この子たち、さすがに傭兵じゃないですよね?」
「だろうな。見たことねーし」
「じゃあ、どっからきたんでしょう?」
「分からん。だが、最近は迷宮が成長期に入ったみたいだし、新しい入り口がどっかにできていても不思議じゃねーだろ」
迷宮の成長期ね。俺たちが見つけた下水の出入り口は、それによって生み出された新しい物なんだろうな。
「傭兵でも兵士でもない子が入って、いいんですか?」
「別に、迷宮は俺たち傭兵の物ってわけじゃねーしなぁ。傭兵以外が入っちゃいけないなんて法律はないと思うぜ?」
「それは、そうですね……」
青年はそう言って、こちらに向き直った。
「迷宮はとても恐ろしいところだよ? 魔獣も罠も人も、全部が恐ろしい。死ぬ覚悟がないなら、深入りしない方がいいよ?」
青年が俺たちのことを心配してくれているのは解るが、はいそうですかと頷くわけにもいかない。
「大丈夫です」
「だいじょーぶ」
結局、先程と同じ返答をすることしかできなかった。
「……そう、かい」
「ほら、もう行くぞ。この子たちはここまで来れるだけの実力があるんだ。俺たちが干渉し過ぎるのはよくない。ここから連れ出したとして、お前が育ててやれるのか?」
「……無理です」
「だったら、俺たちにできることはこれ以上無駄な時間を使わせないことだけだ。済まなかったな嬢ちゃんたち。坊主も怖がらせてごめんなぁ。じゃあな!」
ガイランドは真摯な表情で頭を下げてると、青年を連れて去っていった。その後ろ姿を見送ると、シロがポツリと呟く。
「あの黒い髪の人、なんか強そうだったです」
「わう」
「え? そうか? あの人が? ガイランドさんよりも?」
「はいです」
「なんかこわーって感じ」
「へぇ?」
感覚の鋭い2人にだけ感じ取れる、何かがあったのだろうか? 以前ガイランドが漏らしていた、深層に挑戦している知人というのは彼のことかもしれない。
だとしたら、やはり実力者だったんだろう。
「まあ、敵にはならなさそうでよかった」
「にゃー」
「わふ」




