57話 宝箱と強敵
大森林の探索を始めてもう10日になる。木に登って方角を確認するやり方にも最近は慣れてきたので、迷うことはほぼなくなった。
だが、相変わらず先行きは不透明だ。かなり広い範囲を探索できていると思うが、それがこの森林においてどれほどの割合なのかも分かっていない。
もしかしたら1%に満たない可能性だってあるのだ。
だが、今日はいつもと違う。目に見える成果があったのだ。
食料ではない。食料も大事だが、俺たちが発見したのは1つの宝箱であった。なんと、ある大きな木の根元に、宝箱が埋まっているのを発見したのだ。
宝箱は半分ほどが地面に埋まり、上半分は木の根に覆われている。
子供の俺の視線が低いお陰で見つけたが、普通なら中々発見できないんじゃないか? いや、他の木々よりもかなり大きな木だし、誰だって調べるかな?
俺は土魔法を使って周囲を掘ると、慎重に宝箱を移動させた。ああ、これも魔法で土を操って、手を触れていないぞ? どんな罠があるか分からないからね。
途中で襲い掛かってきたポイズンラットの群を倒して、一息ついたところまではよかったんだが――。
「おい! 何やってるガキィィ! それ開けるんじゃねぇぞ!」
「俺たちの縄張り荒らしやがって! 誰かの奴隷か?」
ポイズンラットに気を取られていて、傭兵たちの接近を許してしまっていた。どうやらこいつらはこの宝箱の場所を知っていて、定期的に復活していないかどうかを確かめにきているようだ。
薄汚れた革鎧に、剣や槍などの武器。見た目に気を使っている様子が皆無の容姿に、善人からは程遠い表情。典型的な傭兵って感じの男たちだが、今まで見た傭兵とは違う点もある。
まあ、俺が見たことがあるのは、俺が殺したギズメルトや、落とし穴にかかった死体ばかりだが。
こいつら、明らかに荷物が多いのだ。背中には背嚢を背負い。腰にも水袋を提げている。多分、この階層での野営も視野に入れている格好だった。
日帰りばかりの傭兵とは荷物の量が違う。それに、ギズメルトとは比べ物にならないほどに強い魔力を纏っている。多分、この深層に長く潜り、体内魔力を鍛えているんだろう。
つまり、傭兵の中でも強い相手ということだった。
それでいながら、典型的な傭兵だ。つまり、クズである。
男たちは最初は俺たちのことを、他の傭兵の奴隷とでも思っていたらしい。だが、周囲に他の人間がいないことを悟ると、すぐに下卑た表情を浮かべる。
「おいおい、捨て駒の囮にでもされたか? くくく、運が良かったのか悪かったのか分からねぇなぁ! まあ、俺たちにゃ幸運だがよぉ!」
「がははは! 獣人は欠損していたって、売り飛ばせばいい値が付くぜぇ!」
「俺たちにも運が向いてきたなぁ!」
男たちは俺に負けるはずがないと思い込んでいるのか、明らかに無防備な様子で近づいてくる。
どうする? 戦って勝てる相手なのか? それとも逃げるべきか? 黙って捕まるつもりはないが……。
問題は、シロとクロの怯えようだ。
「にゃぅ……」
「わふ……」
やはり大人の男が怖いらしい。逃げを選択しても、まともに動けるか分からなかった。まあ、戦闘でも同じだが。
だが、やるしかない。俺1人で3人を倒すのだ。
「へっへっへ、メスガキは売り飛ばして。そっちのチビは適当にいたぶるかぁ? まずは爪を全部剥いで、どんだけ泣くか実験しようぜ!」
男の1人が俺を見て、嗜虐的な表情を浮かべる。そして、俺を怖がらせるためになのか、脅し文句を口にしたその瞬間であった。
「わううぅぅぅぅぅ! ト、トールは虐めさせなぃっ! お、お前らなんかぁぁぁ!」
「は?」
クロの竜の腕から、黒い炎が噴き出した。腕に巻き付けてあった布が一瞬で燃え尽き、荒れ狂う炎が噴き出す。
火魔法で生み出す黒炎にも似ているが、そうではない。黒い炎と言ったが、あれは火ではない。
「ぎいいやぁぁぁぁぁ!」
男の全身を包むのは、闇だ。燃える闇が男に絡みつき、その体を蝕んでいく。火であり、闇でもある。そんな存在に思えた。
「うがあぁ! くそ! きえ、消えねぇぇ!」
男は必死に火を消そうとはたいたり、転がったりしたが、どうにもならない。やはりただの黒炎とは違うんだろう。
しかし、男の体を覆っていた燃える闇が、唐突に消え去った。
「クロ!」
「うぐぅ……」
魔力切れだ。たった十秒弱使っただけで、クロは魔力を使い切ってしまったらしい。
「ぢぐしょぉぉがぁぁ!」
全身に火傷を負った傭兵は、生きていた。相当な重症だが、憎悪に燃えた目でこちらを睨んでいる。そんな男が、震えながら右手を突き出した。
「じねぇぇ! あああああああ!」
魔法ではない。魔力を練ってタダ飛ばすだけの攻撃である。殴る程度の威力しかないだろう。しかも、狙いが付けられていないのか、見当違いの方へと飛んでいった。
その攻撃は宝箱にぶつかり、数メートルほど吹き飛ばしただけである。いや、宝箱が何か光ったか?
最後の力を振り絞った攻撃が失敗したのだ。さぞ悔しがるかと思いきや、男の反応は想像と違っていた。むしろ喜悦に満ちた表情をしているのだ。
「ぎゃははは! みんなじねぇ!」
「ば、馬鹿野郎! 召喚トラップ解除してねぇんだぞ!」
「や、やべぇ! やつが来る!」
対して、男の仲間2人は狼狽の表情だ。召喚トラップ? 名前からして、モンスターが召喚される――。
「カタカタカタカタ!」
「がぁっ?」
それは、突然現れた。空中に魔力が溢れ出したかと思うと、突如降ってきたのだ。
白い何か。それが振るった剣が、火傷の傭兵を切り裂いた。胴体を斬られた傭兵から、血や内臓が溢れ出す。どう見ても即死だろう。
「スケルトン……?」
「カタカタカタカタ!」
俺の呟きに反応するかのように、襲撃者がその歯を打ち鳴らす。動く骸骨。それが、宝箱の召喚トラップによって出現した敵の正体であった。




