56話 傭兵と遭遇
森林で大型の魔獣を狩り、食料の余裕が出てきた今日この頃。先日倒した蛇の焼き肉もすさまじく美味しかったね。あれから、シロもクロも蛇を探すようになってしまったのだ。
ただ、全て上手くいくというわけではない。先へ進む道を探してより森林の奥地へと踏み込んだ俺たちは、突如降りかかった緊急事態に身を固くしていた。
「な、なんでガキがいるんだよ」
「待って! 魔獣の作り出した幻影かもしれない! 不用意に近づかないで!」
俺たちの前には、3人組の傭兵が立っている。その遭遇は、本当に突発的であった。
遠くで爆発音のようなものが響いた数分後。彼らが俺たちのいる方へと大急ぎで走ってきたのだ。どうやら、強い魔獣から逃げてきたらしい。
慌てて隠れようとしたんだが、3人で隠れられる場所がない。
とりあえず木の後ろに隠れたんだが、相手の斥候に俺たちの気配を察知されてしまった。魔獣と間違われて攻撃されてはたまらないので、仕方なく姿を現したんだが……。
相手の警戒は全く解けなかった。こんな場所に子供がいるはずもなく、魔獣の幻影だと思ったようだ。
しかし、ここで足を止めている暇などないと思い出したのだろう。
「おい! 早くいくぞ!」
「だ、だが……」
「囮になってくれるっていうんならそれでいいわよ! ほら!」
魔獣の作った幻影なら無視が一番だし、本当に人間の子供なら囮になる。そう判断したらしい。
一番若い戦士風の男は少しはまともっぽかったが、他の2人はギルティだな。それに、結局その2人の意見に従って逃げていったのだから、戦士君もアウトだろう。
ともかく、俺たちも移動しなければ。未だに固まってしまっているシロとクロを促して、その場を移動する。いや、移動したかったのだが、無理だった。
「シロ、クロ。俺たちもいくぞ」
「にゃー」
「わぅ」
奴隷として捕まっていた時のトラウマなのか、魔獣に出会っても全くビビらなくなった2人が恐怖に縮こまってしまっている。
いずれ傭兵に出会うと覚悟はしていたが、本当に急だったしな。
そして、ようやく2人の震えが収まった時、俺たちは奴らがトレインしてきた魔獣に発見されてしまったのだった。
「オォォォ!」
木立の間から姿を現したのは、無数の根っこを動かして高速で移動する、人面が不気味な一本の木だ。
「きー?」
「あの人たち、トレントから逃げてたです?」
シロとクロの緊張感が薄れ、困惑した顔で首を傾げる。たった1体のトレント相手に大人3人が逃げたのかと、疑問に思ったのだろう。
だが、こいつはただのトレントではなかった。
「こいつ、キラートレントだ! 上位種だぞ!」
見た目はほとんどトレントなのだが、数段強い上位種であった。あの傭兵たちもトレントだと思って攻撃をしかけ、返り討ちに会ったのだろう。
普通に戦えば、危険すぎる相手だ。だが、俺には突破口が見えていた。
「顔の真裏の部分が弱点だ! 枝に毒があるから気を付けろよ!」
俺にはこの魔獣の情報がしっかりと読み取れている。なんと、キラートレントは食用可能な魔獣であったのだ。
こいつの付ける実が、驚くほど美味いのである。まあ、凄まじい毒を溜め込んでおり、1口で即死するレベルでヤバいらしいが。
「シロと俺が注意をひいて、クロがとどめだ!」
「わかったです!」
「りょー」
即座に動き出す2人。
まずは俺とシロの牽制だ。魔法を放って注意を引くが――。
「全然効かないです!」
「枝も切れんぞ」
竜の力を使わずに放つ下位魔法では、ダメージを与えることもできない。
キラートレントは通常種に比べて、タフさも攻撃力もアップしていた。しかも、毒攻撃もできる。そりゃあ、傭兵も逃げ出すだろう。
だが、速度に関してはさほど強化されていなかった。むしろ、巨体になったせいで枝を振り回す速度は落ちているかもしれない。そのため、クロはあっさりと後ろに回り込み、魔法を弱点に叩き込んでいた。
「オオオォォオッォォォ!」
キラートレントが金切り声を上げ、そのまま動かなくなる。いくら中級魔法の闇槍だとしても、あれだけ堅かったトレントの上位種が一撃で? やっぱ弱点を狙うっていうのは大事なんだな。
「クロやったです!」
「しょーり」
「これ、食べれるです?」
「ああ、実を解毒すればいいんだが……。ちょっと待てよ」
枝には毒棘が大量に生えており、木の実を取るのはちょっと危険だ。そこで、保管庫の機能で実だけを分別する。
その結果、キラートレントの果実を20個もゲットできた。他はとりあえず保存庫の肥やしだろう。毒があるせいで木材としても燃料としても使いづらいし。
取り出すと、それは真っ赤な果実であった。拳大のサクランボって感じだ。匂いも非常に甘く、ひたすら美味しそうだった。
これで猛毒なのだから、本当に怖ろしい。この実で生物を殺し、吸収する戦略なのだろうか?
「解毒して――ほれ、これで食べられるはずだ」
「おー、美味しそうです!」
「いーにおい」
2人はスンスンと匂いを嗅ぐと、そのままキラートレントの果実にかぶり付いた。プチュッという音とともに、果汁が飛び散る。
「あまーいうまーい」
「甘いです! ふおぉぉぉ!」
モキュモキュと果実をほおばるシロとクロは、本当に幸せな顔だ。俺も我慢できなくなって齧ると、驚くほど甘かった。
サクランボと桃の間のような味わいに、大量の果汁。ちょっと美味し過ぎんか?
体内魔力も増えたし、最高の甘味もゲットできる。キラートレント、他にいないかね?
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リンク
https://www.shosen.co.jp/event/21952/




