55話 深層探索
深層の森林はとにかく広かった。5日ほど探索しているのに、全く先が見えてこない。
しかも、出現する魔獣が非常に強力で、危険なことが何度もあった。美味しい魔獣ならともかく、食用に向かない魔獣も多いしな。
その中でも特に厄介なのが、今目の前にいるこいつらだ。
「オォォォ……」
「にゃう! やっぱ魔法効きにくいです」
「火、いっとくー?」
「ダメだ! 少し開けてはいるけど、火だけは絶対にダメ!」
俺たちが戦っているのは、トレントの群であった。普段は木に擬態し、獲物が近寄ると枝や蔦を伸ばして襲い掛かってくる魔獣である。
普通の樹木よりも遥かに硬く、土魔法を操る強敵だ。動き出すまではシロとクロでも気づくのが難しいほど隠密能力が高く、魔法への耐性もある。
しかも、こいつらは群れていることが多かった。今も、周囲にいる4体が同時に動き出している。幹の表面に浮かび上がった人面が、非常に不気味だ。
火が弱点なのは分かっているんだが、それも使いづらかった。最初の遭遇でクロの火魔法を浴びたトレントは、倒れるまでの十数秒で盛大に暴れ回り、周囲の森が火事になってしまったのだ。
そのせいで火にまかれ、危うく死にかけたのである。もっと大きな火事だったら、ヤバかったかもしれない。
結局竜の力を使い、物理と魔法双方で粉々に砕くのが最も手っ取り早かった。もしかしたら弱点となる部位があるのかもしれないが、探すほどの余裕はないのだ。
食用にならないから、料理魔法で情報も引き出せんし……。そう、こいつら厄介なくせに食用にならないのである。
魔石は取れるが、やはり食用の魔獣の方がありがたかった。
トレントを何とか倒した後、その木材などを保存庫に収納していく。そのうち、乾燥させて料理をする際の燃料に使えないかと思っているのだ。上手くいくかは分からんけどね。
シロとクロはお腹をさすっている。トレント戦はガンガン竜の力を使うので、必ずこうなってしまった。
「ほら、これ食べてろ」
「にゃう!」
「これすきー」
俺が手渡したのは、ヘルキマイラのジャーキーだ。醤油とトウガラシモドキで味を付けていて、結構美味い。ぶっちゃけ酒が欲しくなる味だ。これを、竜の力を使ってしまった際の栄養補給代わりに持ち歩いている。
空腹もそうだが、魔力も回復するので非常に重宝していた。
「トレントはマジで嫌な相手だよな~」
逃げるのも1つの手だと思うんだが、移動先で他の魔獣に足止めされると挟み撃ちに遭うだろう。トレントの奴ら、木の癖に根っこを動かして結構速く移動するし。
深層に出現する魔獣は、どれも強敵ぞろいだ。以前の俺たちなら、死んでもおかしくないような相手もいる。
まだ出会っていないが、ヘルキマイラ級の魔獣がいてもおかしくはないだろう。そんな相手とトレントに挟撃されれば、本当に命の危機なのだ。結局、倒せる相手はその場で倒す方が、安全であった。
再び歩き出した俺たちだが、クロが不意に足を止める。
「どうした?」
「匂いするー」
俺には何も分からんが、クンクンと鼻を動かすクロには異変が感じ取れているらしい。そして、クロが動いた。
凄まじい速度で10メートルほど先の茂みへと迫ると、その手に持っていた長剣を思い切り振り下ろしたのだ。
「イィィィィ!」
「やた」
クロが仕留めたのは、イリュージョンパイソンという、大型の蛇である。その名の通り、幻影魔法を使って身を隠す巨大な緑色のニシキヘビだ。
今も繁みの幻影を生み出し、その中でこちらを観察していたんだろう。気づかずに近寄れば危なかった。
とぐろを巻いているところを一気に斬られたせいで、体が幾つにも分断されたはずなのに、まだジタバタしてやがる。蛇の生命力は侮れないな。
だが、数分もすれば動きは止まり、完全に食材となったのであった。
「クロ、良く見つけたな」
「蛇のニオイはおぼえてーる」
「おー、クロ凄いです!」
しかも、筋肉と鱗で身を覆った8メートル近い大蛇を、長剣の一撃で一刀両断だ。地球の蛇ではなく、より鱗と骨が強靭な蛇の魔獣を、である。
そいつがとぐろを巻いていたところを一気に斬り落としているのだから、相当な威力だった。クロの竜腕の力の凄まじさを見せつけられたな。
それに、今回は魔法を使っていないので可食部位が丸々無事だ。小骨が多いらしいので下処理は面倒だが、3、40キロくらいはあるんじゃないか?
それに、この蛇はかなり効能が高いらしい。きっといい魔法効果も付くだろう。
「よし! 今日はこいつで焼肉パーティだ!」
「やったです!」
「クロのおかげ」
「クロありがとーです!」
「ふふん」
大喜びだな。
醤油が相当お気に入りであるらしく、シロもクロも最近は食いしん坊が加速している。
以前倒したパラライズアイもフォレストバレットも、醤油焼きにしていただいたのだ。パラライズアイはちょっと蟹っぽくて、フォレストバレットは全身ブランド豚の赤身って感じだったかな?
ともかく、何の肉でも美味しくしてくれる醤油の万能性が凄いよね。
帰りには久々にオリジナルの焼き肉ソングが出ていたくらいだからな。
「ちょーおいしーおにくー」
「やきやきにくにくやきにくですー♪」
「美味し過ぎてとまらないー」
「お腹ポンポコーたいへんですー♪」
「でもたべるー」
「食べちゃうですー♪」
腹がはち切れるまで食べるのだという、強い意志を感じるね。まあ、今日は竜の力をかなり使ったから腹も減っているし、肉もたくさん手に入ったからいいけどさ。
「醤油は貴重なんだから、半分は塩だからな?」
「それもまたうましー」
「うまうまです♪」
とりあえず肉なら何でもいいらしい。
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