54話 クロとシロの成長
俺たちは静かに魔法を準備し、一斉に攻撃を開始した。それぞれの魔法が飛び、パラライズアイの顔に襲い掛かる。
しかし、相手はデカいだけのウスノロではなかった。
「グラアアァ!」
「まじか! 魔法をかき消しやがった!」
麻痺の魔眼が光り輝いたかと思うと、衝撃波のようなものを放って俺たちの攻撃を相殺したのだ。こちらを睨む単眼の能力は、麻痺の呪いを飛ばすだけではないらしい。
食材を粉々にしないように威力を抑えているとはいえ、以前よりは各段に強力なんだぞ? 想像以上に強い!
「見つかった! 俺が土魔法で牽制する。2人はもう1度攻撃しろ!」
先制攻撃で一撃とはいかないか!
しかも、早い! やつがこっちを発見してから数秒なのに、もう距離が半分近く詰まってるのだ。
それでも俺は焦らず、次善の手として準備していた魔法を発動させた。こちとら修羅場をくぐってるんだ、この程度のプレッシャーでミスるほどビビりじゃないんだよ!
パラライズアイの足元が一気に陥没し、その下半身が地面に呑み込まれるように埋もれる。
やつの足元に落とし穴を作り、落としてやったのだ。距離があるので体全部が入るほどの穴は作れなかったが、足止めにはなっただろう。
そこに、シロとクロの魔法が飛んだ。今度は威力を重視した本気の一撃だ。
シロが放ったのは、得意とする風魔法である。圧縮された風の刃は、分厚い鉄板すら余裕で貫くだろう。
クロの攻撃は、高速回転する闇の槍だ。肉体と精神、双方にダメージを与えるこの術は、当たれば相手の動きを止める効果が期待できる。良い選択だろう。
それに、火魔法を使わなかったのもいい。素材を無駄にせずに済むからな。
結果、パラライズアイの体には大きな穴が2つ開き、その動きが止まるのであった。
「なんとか勝ったか……」
「勝ったです!」
「しょーり」
しかし、驚いた。
「ここら辺の魔獣になると、奇襲にも対応してくるんだな。魔法を完全に相殺されるとは思わなかった」
「あれ凄かったです」
「次からきをつけるー」
「だな」
今回は1体だけだったから落ち着いて戦えたが、こいつを複数を相手にするのは危険かもしれない。もっと慎重に、もっと距離を取って戦おう。
「それにしても、シロもクロも無詠唱が大分上達したな。特にクロの魔法、凄いぞ」
「クロ凄いです!」
「れんしゅーしたー」
俺とシロに褒められたクロが、ドヤ顔で胸を張る。だが、それが許される成果だろう。
クロが無詠唱で放ったのは、中級の闇魔法だったのだ。闇槍という術だ。貫通力に優れ、防御力が高い相手にも通用する。
実際、シロの風刃に比べ、3倍近い深さの傷が穿たれていた。こちらが致命傷で間違いない。
これを無詠唱で放つには、相当な練習が必要だった。焦っていない状況であれば何とか使えるようになってきていたが、この土壇場で見事成功させたのは素直に凄い。
魔力消費は重いが、いざという時の切り札にもなるだろう。
「さて、魔力はまだ大丈夫か?」
「へいきです!」
「よゆー」
精神的な疲労は多少あるが、体はまだまだ元気だ。2人とも自分的かっこいいポーズをしながら、元気アピールをしている。これだけ動けるなら、確かに大丈夫そうだ。
俺たちはこのまま探索を続けることにした。森の中を少し歩くと、再び魔獣と遭遇する。
「ちっこいイノシシか?」
「子供ー?」
「でも、魔力すごいです!」
出現したのは、灰色の毛並みをしたウリボウであった。小型犬サイズの、可愛らしい外見をしている。
しかし、俺たちは一切気を抜くことなく、警戒を解かなかった。シロが言うとおり、凄まじい魔力を秘めているのが分かったのだ。
直後、イノシシも俺たちに気付いたらしい。その円らな瞳で俺たちを睨みつけ、前足でザッザと地面を蹴り始めた。
完全に戦闘態勢である。
名前はフォレストバレット。名前の通り、森林内を弾丸のように駆け巡る魔獣だ。手足から魔力を放出して、加速を得ているらしい。
その小ささに騙されると、一瞬で挽肉に変えられるという。味は絶品だが、市場には中々出回らないそうだ。
その脅威性は、パラライズアイを凌ぐ。
「突進に気を付けろ! 直撃食らったら、大怪我じゃ済まないぞ!」
俺が堪らず叫んだその直後だった。少し離れていた場所にいたはずのウリボウが、俺の目前にまで迫っていた。
何だその動きは! シロたちの方へと向かっているかと思った直後、急に不自然なスライドをして俺の目の前に!
そうか、足から魔力を放出して、無理やり軌道を変えたってことか! だが、突然攻撃を食らう事態だって、想定してるんだよ!
俺は即座に水の盾を生み出し、前方へと叩きつけていた。
「ピッギィィ!」
ボゴンという大きな音とともに、水の盾が吹き飛ぶ。しかし、斜めに展開された水の盾により、ウリボウの軌道を僅かに逸らすことには成功していた。
俺の横を灰色の弾丸が通過し、凄まじい風圧が吹き寄せる。やはり、とんでもない突進の威力だ! 直撃はヤバイ!
「ビギイィィイィィ!」
「もうあんなに距離が!」
振り返って攻撃を加えようとしたのだが、その時にはもうその姿は木々の間に消えていた。逃げたのではなく、周囲を走ってこちらの隙を窺っているようだ。
木々の間から高速で動き回る魔獣の影が見えている。だが、その凄まじい速度とトリッキーな動きに加え、木々が邪魔をすることで上手く狙いが付けられない。
ならばと範囲攻撃を周辺にばら撒こうとした、直後だった。
「えい!」
「ピギィッ!」
なんと、飛び出したシロが、その双剣であっさりとフォレストバレットを仕留めたのだ。シロの突進速度は、驚くほど速かった。
「す、すごいぞシロ! なんだそれ!」
「ちょーかっこいー!」
「むふん! シロが本気出せばこんなもんです!」
超ドヤ顔だが、それもそうだろう。俺もクロも目を見張るほどの、超スピードだったのだ。風の魔法で高速移動する方法はあるが、それよりもさらに速かった。
「どうやったんだ? 新しい魔法か?」
「なんかジワーッてやって、ギューッとしたです! そしたらドーンです!」
分からん。魔法ではないみたいだが……。すると、グググーッという大きな音が森の中に鳴り響いた。
「……おなか減ったです」
え? まだ午前中だぞ? そんな――いや、そうか。シロが使ったのは竜の力だ。シロが得たのは竜眼だったが、その魔力を身体強化に使用したんだろう。
どうやら俺たちが思う以上に、竜の魔力は応用が利くようだった。
ググググー!
「トール~……」
「分かったよ。とりあえずどっかでおやつでも食べよう」
「やったです!」
「あー、シロずるいー」
「クロにも出してやるから!」
「わふ」
次回更新は7/12です。その後は2日に1回更新を考えております。
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