51話 転移陣13番
「それじゃ、いくぞ」
「罠探すです!」
「クロはまじゅー探す」
「おう。頼んだ」
気合入りまくりの2人とともに、俺は三叉路の合流地点から先へと進んでいた。
新しい場所に興奮しているのか、シロとクロの目は爛々と輝いている。しかし2人のやる気とは裏腹に、その先では魔獣も罠も出現しなかった。
細い通路を30メートルほど歩くと、小さな部屋に突き当たったのだ。部屋も、これまでと比べかなり小さい。直径6、7メートルほどの、六角形の部屋だ。
今まで通ってきた迷宮とは違い、妙に荘厳な雰囲気があった。柱一つとっても細かい彫刻が施され、天井には大きな光る石が埋め込まれている。
そして、それらが霞むほどの存在感を放っているのが、床に描かれた魔法陣であった。
部屋よりも少し小さい、直径5メートルほどの魔法陣だ。既に光り輝いており、機能が生きていることは理解できる。
これは、なんだ?
ゲーム的に考えたら、先へ進むための転移陣とかなのだろうが……。悩んでいると、クロが何かを発見したらしい。
「トール、あれ見て」
「うん?」
3人並んで入り口から中をのぞいていたら、クロが俺の肩を叩く。クロの視線の先を追うと、入り口脇の壁際に何やら石碑のようなものが立っていた。
魔法陣に乗ってしまわぬよう気を付けながら身を乗り出し、石碑を観察してみる。するとそこには、転移陣13番 → 集結型転移陣4番と書かれていた。
よくよく観察してみると、魔法陣の中央には13という数字が描かれている。つまり、この魔法陣が転移陣13番で、集結型転移陣4番という場所へと転移できる?
正直、怪しく感じた。罠の可能性は? でも、他に通路はないし……。いや、隠し通路があったりしないか?
この迷宮の意地悪さを考えれば、実はこれが罠でしたって可能性はゼロじゃないと思うんだ。
シロとクロも俺と同じことを思ったらしい。俺たちは今回は魔法陣を無視して引き返すと、念入りに通路を調べ直した。床や壁だけではなく、天井まで調べたのだ。
結果、隠し通路などは発見できず、あの転移陣を使ってみるしかないということが分かったのだった。
一応、下水からガブルルートを捕まえてきて魔法陣に放り込んだりもしたのだ。いきなり魔力を吸われて死ぬようなこともなかったし、大丈夫であると信じるしかないだろう。
「……仕方ない。まずは俺だけで――」
「ダメです! 全員一緒です!」
「トールだけ危険なのはダメ」
シロとクロが俺の肩をガッシリと掴んでいる。絶対に離さないぞという意志を感じた。
「お前ら……。そうだな、3人一緒にいこうか」
「はいです!」
「いちれんたくしょーだから」
コクンと頷く2人の手を取って、静かに一歩を踏み出す。3人同時に魔法陣へ足を踏み入れると、俺たちの視界が一瞬で変わっていた。
「は?」
「にゃ?」
「わう?」
本当に一瞬のことだった。狭い部屋にいたはずなのに、開けた場所に立っている。ヘルキマイラがいた部屋と同じくらいの、大きな部屋だ。
転移したらしい。
「魔獣いないです」
「罠もなないー」
「帰りの転移陣もあるな」
動かずに、部屋の様子を観察する。
部屋は広いものの、造りは小部屋と一緒だ。六角形で、彫刻の施された柱などもそっくりである。
一番の心配事であった、帰り用の転移陣もしっかりと存在している。部屋のサイズに比べてかなり小さいが。
というか、元の部屋にあった転移陣とほぼ同じサイズだ。最も違う点は、転移陣の中央の数字だろう。
そこには4と書かれている。
元々いた部屋は転移陣13番。そして、こちらの部屋は集結型転移陣4番。数字通りってことだろう。
再び転移陣に乗ってみれば、問題なく13番と行き来できた。帰れないってこともなさそうだ。
「よし、これで先へと――」
俺たちが部屋の先に見える通路へと進もうとした、その時だった。背後で光が走ったかと思うと、生物の気配が出現する。
俺たちは即座に臨戦態勢となって振り返った。魔獣が出現したと思ったのだ。だが、そうではない。
「はぁ? 子供ぉ? なんで子供がこんなところに……!」
なんと、俺たちの背後にいたのは、大柄な男性であった。そう、人間だったのだ。
そりゃあ、ここは傭兵が攻略のために足を踏み入れる迷宮だ。いつか彼らと遭遇することがあるかもしれないと、覚悟は決めていた。
しかし、ここで鉢合わせるとは思っていなかったのだ。
だって、ここに出現するってことは、俺たちの後にあの転移陣を使ったって事だろ? もしかして、俺たちの使っている下水の入り口がバレたのか?
男は、俺たちを値踏みするようにジロジロと見ている。
2メートル近い身長に、所々に血の痕が付いた革と金属の複合鎧。背中には大きな剣を背負っている。
モジャっとした髭と禿頭は、完全に山賊のそれだった。
俺が初めて殺人を経験した相手、ギズメルトのことを思い出す。どう考えてもあいつと同類の見た目なのだ。
これは、マズいか? ここで逃げたとしても、住処まで追いかけられたら最悪だ。戦う? どうするべきだ?
「おいおいおい。魔獣が化けてるとかじゃなくて、マジで子供かよ。ちっ! 兵士どもめ! やる気がないのは解るが、仕事しろよなぁ。見張りガバガバ過ぎんだろ!」
俺たちが無言のまま緊張感を昂らせていると、男性は自分の髭をしごきながら困惑したような声を上げた。
「おい、自分たちの意思でここに入ってきたのか? それとも誰かに連れ込まれたのか? 迷子だっていうなら、何とか脱出方法を探してやるぞ?」
男のその言葉には悪意があるようには思えず、本当にこちらへの気遣いが含まれているように感じた。




