48話 しあわせ焼肉
ヘルキマイラの肉を使って作るのは、焼肉と決まった。
ならば、あれが必要だろう!
醤油で満たされた壺から、お椀へと少量を移し替える。大事な醤油、一滴も無駄にはせんぞ!
俺が慎重に作業をしていると、調理場の入り口に気配を感じた。寝ていたはずのシロとクロが、様子を見にきたらしい。
「スンスン」
「クンクン」
しきりに鼻を鳴らしているな。そして、俺の背後から醤油の壺を覗き込む。
「これ、宝箱の壺です?」
「黒い水ー?」
「醤油っていうんだ。美味しいぞ」
「スンスン」
「クンクン」
醤油の匂いを嗅ぎ、首を傾げる2人。
嗅いだことのない匂いだろうし、まだ美味しいとは思えないらしい。慣れなければ、いい匂いにも感じないだろうしね。
だが、いずれこの匂いを嗅いだだけでヨダレが止まらなくなる体にしてやるぜ! くっくっく!
「ほれ、ちょっと味見してみ」
俺は醤油が注がれたお椀を差し出し、少し舐めるように勧める。
指を使ってペロリと醤油を舐めた2人は、目を見開いて固まった。そして、顔を見合わせ、再び醤油の壺を見下ろす。
「美味しいです!」
「なんかー、いろいろな味」
この醤油の複雑な旨み成分を、しっかり感じ取ったらしい。うんうん、いい舌してるね!
「これでお肉焼くです?」
「おいしいのかくてー。トールいいしごとしました」
シロとクロが拍手してくれた。その目は醤油と肉のマリアージュを想像してキラッキラに輝いている。
「ふふふ。確かにこれは美味しいが、ただこれで肉を焼くだけじゃないんだぜ?」
「どゆことです?」
「焼かない?」
確かに、この醤油だけでも抜群に美味しいだろう。だが、手を加えることでもっと美味しくなるのだ!
まずはメルムの果実やノビルモドキを、丁寧にすり下ろす。ほんの僅かに食感を残すのがポイントだ。
醤油の中にそれらを投入した後、以前倒したレッドスパイシーゴーレムから手に入れた香辛料や、レモンモドキの果汁、塩を加え、かき混ぜていく。
「よし、特製焼肉のタレ、完成だ!」
「おおー!」
「おいしそー」
シロとクロが先ほど以上に力強く拍手をしてくれる。食べていなくても、なんか美味しそうだってことは分るんだろう。
「ヘルキマイラのロースを薄切りにして、タレと絡めながら焼く!」
「ふおおぉぉぉ!」
「よきにおいー」
焼けた肉と焦げたタレの匂いが、一気に部屋へと広がった。
この匂いだけで、白飯5杯は食えそうだ。
シロとクロも涎を垂らして、フライパンを見つめている。
この時、中級火魔法を使うのがコツだ。魔力が高い食材を調理する時に普通の火や水を使ってしまうと、せっかくの魔力が失われてしまうのである。
フライパンには耐火の術を施してある。そのため、弱い火では全く熱が通らない。
面倒な話だが、中級火魔法で調理をするためには火に強いフライパンが必要で、そのフライパンに熱を通そうと思ったら火魔法をより安定して使えなくてはならないという……。
普通に戦闘で火魔法をぶっ放すよりも、数段難しい魔力操作が必要だった。ただ、ヘルキマイラを倒して体内魔力も上昇したし、今の俺ならそう難しいことじゃないけどね。
「よーし、完成だ!」
「にゃうぅぅぅぅ!」
「わんわん」
我慢しきれず、獣化しとるな。フライパンの上ではジュージューと音を立てる大量の焼き肉たちが、ホカホカと湯気を立てている。
〈『死獄混成獣の焼き肉、異界風』、魔法効果:生命力回復・小、体力回復・中、魔力回復・中、生命力強化・小、体力強化・中、魔力強化・小が完成しました〉
魔法効果もかなり凄い。中が幾つも付いている。天竜素材を除けば、ダントツだろう。
「ステイ! 待ちなさい!」
「にゃ!」
「わふ」
俺は2人を制止しながら、肉を皿に盛ってテーブルへと運んだ。竜肉を焼いた時には及ばないが、かなり強烈な匂いを発している。
もしかしたら魔力が籠った肉というのは、人の食欲を刺激するのか? さっき食事をしたばかりなのに、もう腹が減ってきた。
シロとクロも同じであるらしく、いつの間にかペッタンコになった腹をさすりながら、ヘルキマイラの焼き肉が乗った皿を凝視している。
「「「いただきます!」」」
俺たちはホカホカと湯気を上げる肉を一切れ掴み上げると、同時に口へと運んだ。
「!」
「にゃー!」
「わうわう!」
なんだこれは!
甘い! メルムの甘みと、醤油の甘みと、肉の脂の甘み。それらが一体となって、俺たちの舌を包み込んだ。
そして、噛みしめると肉汁が溢れ出す。この薄い肉に、どれだけの肉汁が閉じ込められていたっていうんだ?
醤油の旨みや塩味、香辛料の辛みが肉の味をさらに高めており、口の中が肉汁と幸せでいっぱいになった。もうね、地球でですらこれほど美味い焼肉は食べたことがない。
高級な和牛のロースを、市販の焼き肉タレで焼いた味をイメージしてほしい。甘くて辛くて爽やかな、フルーティ系のタレだ。
そして、それを三倍ぐらい美味しくしたら、この肉になるだろう。噛み応えがある肉を噛み続けているのに、延々と美味い。美味しいが肉から溢れ続けている。
余ったら作り置きに回そうかと思ってたんだけど……。残りそうもないな。というか、全然足りない!
俺はシロとクロの視線に押されるように、厨房へと戻って再び肉を焼いた。今度はバラ肉メインだ。ここでふと思い立って、ヘルキマイラの魔石を取り出す。
劣化しているとはいえ、下級魔獣の魔石よりはよほど強い力を秘めているだろう。俺は魔法で処理して魔力だけを取り出すと、それを肉へと溶け込ませた。同じ魔獣から取り出した魔力だから、よく馴染んでいるな。
こうすることで魔法効果の向上が狙えるのだ。
〈『死獄混成獣の焼き肉、異界風』、魔法効果:生命力回復・小、体力回復・中、魔力回復・大、生命力強化・中、体力強化・中、魔力強化・中が完成しました〉
よし、僅かだが魔法効果が高まっているな。
焼き上がった焼き肉を食卓へと運び、再び全員で食べ始める。
「「「……」」」
全員が無言で肉を咀嚼し続けた。さっきよりもさらにうまい。俺たちに混ざり込んだ竜の血肉が、強い魔力を好んでいるのかもしれない。
やめられないとまらない状態だ。
そうして肉を食い切った頃、ようやく気付いた。
「魔力、超増えてるな……」
魔法効果の魔力強化のお陰だろう。迷宮の魔獣を倒してもほとんど上がらなくなっていた俺の体内魔力が1割近く増えていた。
まあ、どれくらいの期間強化されてるか分からないけど、やはり上位魔獣の素材は凄いのだ。
予約をミスっておりました! 申し訳ありません。
次回は7/4更新予定です。
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