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46話 竜の力の副作用

 ヘルキマイラを倒した後、俺たちは疲れた体を引きずりながら住処へと戻ろうとしていた。とてもではないが、そのまま先へ進むほどの余力は残っていないのだ。


 ヘルキマイラ並みの魔獣に出くわした場合、命に係わる。


 それに、腹が減った。


 休憩中にスープなどを口にはしたが、とてもではないが満腹に程遠い。


 あとは、宝箱から入手した壺のこともある。この世界では入手困難な醤油や味噌も手に入るとなれば、レパートリーが一気に増える。一〇倍どころではないだろう。


 知識の中には似たものがあるとインプットされているが、それがどこにあるのかまでは分からないし。カロリナに聞いても知らないと言っていたことからも、相当遠く。それこそ違う大陸などの可能性も高いだろう。


 ぶっちゃけ、手に入れるまで何年かかるか分からない。というか、一生かかっても入手できない可能性もある。だったら、この壺を使って出すのもいいんじゃなかろうか?


「スライムでたです!」

「俺が相手する」

「りょー」


 帰り道、アシッド・スライムに遭遇したが、俺のブレスで一発だ。やはり、かなり威力が高い。


 ただ、問題もあった。


 アシッド・スライムが火に弱いせいもあり、食材になる核ごと燃やしてしまったのだ。魔法と違って俺の意志で消すことも難しいし、結局すべて燃やし尽くしてしまった。


 魔石すら消失するとは思わなかったぜ。魔力の籠った火であるせいで、魔石を燃やすことが可能であったらしい。


 モチモチなスライム麺は唯一無二な食材なので、ゲットしておきたかった……。


「残念です」

「次は魔法で倒そう」

「うん。クロにおまかせー」


 シロとクロはやる気満々だが、次に出た魔獣を見てしょんぼりしてしまう。


 食材になるタイプの魔獣ではなかったのだ。


 ポイズンビーストやアシッド・スライムと並んでこの迷宮で特に頻繁に出現する魔獣、アシッドゴーレムだ。


 まあ、俺が勝手に名付けただけだから、本当の名前は分からんけどね。


 緑色の酸で構成された、浮遊する魔獣だ。何度か戦ううちに判ったが、どうやら生命体ではないらしい。


 遠距離攻撃で酸を飛ばしてくるうえ、食材も残さないし、魔石は極小。しかも、こいつ程度ではもう倒しても魔力も増えない。


 ある意味、この迷宮内では最も戦いたくない相手だろう。


「アレも俺がやるか」

「うんー」


 ということで、ファイアブレス一発である。でも、これもちょっと失敗だったな。


 一瞬でアシッドゴーレムの全身が燃えたせいで、大量の煙が発生してしまった。健康に悪そうな灰色の煙が通路を塞いでいる。


「うーん、ファイアブレスだと火力があり過ぎるみたいだな」

「ケムケムです」

「のどいたくなりそー」


 もっと使いどころを考えねば。


 にしても、ヘルキマイラとの戦いに時間を使い過ぎたせいか魔獣が湧いているようだ。いや、俺たちが行きに無視した通路から、魔獣が移動してきたのか?


 その後、再び出現したアシッド・スライムを倒して麺をゲットし、俺たちはホクホク顔で住処へと帰還したのであった。


 ヘルキマイラの肉を食べたいところだが、今は料理をしている暇さえ惜しいほど腹が減っている。


「作り置きの料理でいいか?」

「いいです!」

「むしろナイスー」


 シロとクロも空腹が限界突破状態なんだろう。自慢のケモミミと尻尾がへにょりと垂れ下がっていた。


 保存庫に入れてある、いざという時用の作り置きを今こそ食べる時である。


 使っている素材はポイズンラットや、カロリナから貰った安い芋だが、量は十分に用意できるのだ。


 毒鼠のステーキやスープ、蒸かし緑芋をテーブルに並べ、挨拶もそこそこに手を伸ばす。全員が、がっつくという表現がピッタリな様子で料理を食べ始めていた。


 空腹は最高のスパイスなんて言葉があるけど、まさにその通りだな。


 パサパサのステーキを噛み千切ると、僅かな肉汁が舌を刺激する。鋭敏な舌はその薄い旨みを感じ取り、驚くほど美味しく感じた。


 塩味のスープを啜れば、鼻腔を擽るその香りはかつてないほどの幸福感を与えてくれる。


 塩で味を付けただけの蒸かし芋は、これ程甘かっただろうか? 俺たちは競うように緑芋を手で掴み、貪り食っていく。


 深皿の上に30個ほど積み上げてあった里芋サイズの緑芋が、あっという間に消えていた。


 体が成長した二人ならともかく、俺はこれ程食欲旺盛だったか? 子供の腹にはあり得ないほどの量を、短時間で食べきってしまったのだ。


 それはシロとクロも同じである。今までも食いしん坊だったが、今日は物理的にあり得ないレベルの量が腹に収まっただろう。


 重傷を負って血肉を求めていた時にだって、これ程は食べなかった。それに、落ち着いたから分かるけど、あの空腹は異常だった。


 俺たち3人に起きた変化と言えば、竜の力を得たことだろう。


 竜化した肉体の燃費が、想像以上に悪いのかもしれない。その結果、力を使えば使うほど、多くの食事が必要になるのだろう。


 ある意味、竜の力の副作用と言えるのかもしれなかった。


 竜の力は強力だが、余り多用し過ぎるとエンゲル係数がヤバいことになりそうだ。いや、食費が掛かってるわけじゃないからエンゲル係数は違うか?


 ともかく食料の消費は大幅に増えるだろう。食用に向かない魔獣相手に竜の力を使っていたら、あっという間に食料不足に陥ることは間違いなかった。


 この力で一気に迷宮を攻略したかったのだが、そうそう都合よくはいかないか……。


「トール? どしたです?」

「たべすぎー?」

「ああ、いや。竜の力を使い過ぎると腹が減るから、あまり無駄遣いしないようにと思ってさ」


 シロとクロも、さっきまでの空腹が竜の力を使い過ぎたせいであると理解していたようだ。俺の言葉にコクコクと頷いている。


「おなかへるのは嫌です」

「くーふくはたいてき」


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 今になって思ったのですが、竜の力を使うと飢餓状態になるのなら、トールたち以外で天竜核を手に入れた人がいた場合、彼らは魔法料理人の力も保管庫を使わずにどうやって空腹を克服しているのでしょ…
[一言] 空腹度消費するスキルはダンジョン攻略では使いたくないな…
[一言] ヘルキマイラの調理が始まるのかと思ったけど、それはまだ先か。
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