45話 ヘルキマイラ戦の収穫
危ない場面はありつつも、難敵ヘルキマイラを倒した。
俺のダメージということで言えば、擦り傷程度だ。しかし、だからといって無事というわけじゃない。肉体的な消耗は凄まじかった。
全身が超痛い。強化魔法で身体能力を底上げしていたんだが、その反動で全身の筋肉がバキバキだった。ちょっと動かすだけでも激痛が走るのだ。
竜の力を得たとはいえ、所詮は子供の肉体。限界値は想像以上に低く、激しい動きをすればこうなってしまうんだろう。
それに、魔法の使い過ぎで魔力切れ寸前だ。全力で魔法を使い続けた結果、俺の魔力は残り数パーセントってところである。
それだけでもしんどいのに、かつてないほどの空腹が俺を襲っていた。
この世界に転生して、5年。長いとは言えない年月ではあるが、それなりに過酷な5年だった。空腹は常に俺と一緒にあり、いつも飢餓に怯えていた。
数日食えないなんてこと、ざらにあった。なんせ、両親ですら食えてないんだから、俺に食事を与える余裕なんざなかったんだろう。
そんな俺でさえ、ここまできつい空腹感は味わったことがなかった。
腹が獣の唸り声のようなグルグルという音を上げ、全身のありとあらゆる活力が足りていない感覚。
なんというか、ただ腹が減っているというだけじゃない。糖分、血液、水分。ありとあらゆるものが足りていない。
だが、もっと根源的な部分が、餓えている。生命力が足りていない。俺の本能が飢餓を訴え、命を食わせろと叫んでいる。
「ぐ……が……」
肌が渇き、肉が縮み、全身から潤いが失われていく感覚があった。もう、1秒たりとも我慢していられない。
ああ、腹が減った……!
今すぐ保存庫から食い物を取り出して、かぶりついてしまいたい。なんでもいい。肉でも果物でも汁物でも。
腹を満たして、この飢餓から解放されたい。
だが、気が狂いそうになるほどの餓えを抑え込み、俺は鉛のように重い足を動かした。倒れそうになる肉体に鞭を打ち、倒れ込むシロとクロの下へと急ぐ。
「2人とも……だいじょうぶ、か……?」
「にゃぅ……」
「トールー……」
疲労と出血のせいで身動きが取れない様子の2人は、未だに血だまりの中に倒れ伏していた。全身に細かい傷が刻まれ、幾つか深い傷もある。
しかも、毒の影響で弱ってもいるのだ。かなり危険な状態だった。
あと、2人の腹からも凄まじい音が聞こえている。俺と同じように、空腹が限界であるようだ。
まずポーションを2人に振りかけつつ、以前作っておいたスープを取り出した。特異個体の肉を使ったスープは、魔力回復効果が中なのだ。
まずは俺が一気に飲み干し、魔力回復を促す。そして、2人にも交互に飲ませていく。生命力回復効果も小なので、僅かながら傷も癒えるはずだ。
しばらくじっとスープをすすっていれば、魔力がジワリと回復してくる。その魔力で即座に聖魔法を使い、2人を回復していった。
1時間くらいは、血生臭い部屋で休憩を続けていただろうか?
完全回復には程遠いが、なんとかシロとクロの傷は塞がり、出血は止まった。魔力も2割くらいは戻ってきて、危険域は脱しただろう。
空腹も収まり、ようやく勝利したのだという実感が湧いてくる。
「勝ったな」
「勝ったです!」
「勝ったー」
シロとクロも嬉しそうだ。以前は手も足も出なかった敵に勝てたことを、素直に喜んでいるらしい。
ただ、最初に足を奪ったんだから、もっと上手く立ち回れたんじゃないかとも思う。
しかし、強敵相手だという緊張感と戦闘の高揚感のせいで、無理に攻撃を仕掛け過ぎた。今後はもっと考えて戦わないと、危険な場面もあるだろう。
まあ、今は勝利を喜んでおくか。
それに、確かめたい物もある。保存庫に仕舞い込んだヘルキマイラの素材たちに、その後に現れた宝箱という戦利品の数々だ。
そう。ヘルキマイラが倒れた後、部屋の中央に宝箱が1つ現れていた。まずは回復が先決と考えてしばらく放置していたが、休憩の途中で開けに行ったのだ。
中には、乳白色の小さな壺が入っていた。
壺自体は空で、高価そうにも見えない。薄っすらと魔力を感じたので魔法の品なのだろうとは分かったが、パッと見ただけで効果を理解することはできなかった。
改めて蓋つきの壺を保存庫から取り出す。サイズ的には、4リットルくらいかな? 生前見たことがある焼酎のデカボトルが、これくらいの大きさだったのだ。
ただ、無暗に使ってみるような真似はしないぞ? ちゃんと使い方を書いた紙が、中に入っていたのだ。
俺はチートのお陰で読み書きできるので、ちゃんと読める。
「よめなー」
「にゃぅ……。眼、使ってる時よりも頭痛いです」
2人は紙を覗き込みながら、首を捻っている。シロとクロはまだ中身は5歳だし、これから読めるようになればいいさ。
「えー、何々? 魔力を込めながら調味料をイメージすると、その調味料が湧き出る? 1回のみ使用可能? は? まじ?」
1回限りとは言え、好きな調味料がゲットできるって? 控えめに言って神アイテムでは?
味噌でも醤油でも手に入れることが可能? 胡椒とかもいいの? あ、胡椒オッケーなら、カレー粉とかも? やばい、夢が広がる!
どうしよう? 何に使う?
「トール、怖いです」
「鼻息おもろー」
うおぉおぉぉぉ! 何を出すべきか! 迷っちゃうぜぇ!
7/10に第1巻が発売予定です。
転剣とのコラボアイテムが特典で付く場合がありますので、ぜひチェックしてください。




