42話 ヘルキマイラへの挑戦
カロリナが天竜料理で完全回復してからそれなりの時間が経った。天竜料理を食べさせたあの日、目立った変化は肉体の回復だけだったのだが……。
やはり、多少の影響は出たらしい。あの日以来、体の調子が怪我する以前よりもいいという。体力も増えたし、字を書く速さも上がったそうだ。外からは見えない部分で、竜の魔力が影響を及ぼしているのかもしれない。まあ、カロリナが普通の生活に戻れたのだから、いいことなんだろう。
実際、給料が増えて、俺たちに持ってきてくれる物資も増えたのだ。
俺たちは、少しずつ迷宮攻略に乗り出している。
大きな武器になり得るはずの竜の力に振り回されつつも、その力を使っての戦闘にもだいぶ慣れてきたのだ。
シロとクロはまだ手加減をできるとは言い難いが、俺はかなり強弱をつけられるようになっている。
また、手加減とは真逆、最大威力の攻撃も幾度か練習し、手応えを得ていた。こちらは、シロとクロも相当なもんだ。むしろ全力でぶっ放せばいい分、楽なんだろう。
必殺技気分で色々と練習していた。
あと、装備品も新たに増えている。宝箱を新たに見つけたというわけではなく、今まで使えなかった武具を装備可能になったってだけだが。
特にクロは、竜の腕を得たことで重たいメイスも振り回せるようになったからな。まあ、振り回せるというのと、使いこなせるというのは別なんだけどさ。
体がメイスの重みで泳いでしまうので、現在はロングソードを使っている。これも重いが、大型のメイスよりはマシなのだ。
ただ、いずれは重量武器を使いたいと考えているようで、常に重い武器の使い方を思案しながら戦っているようだった。
シロは、メイン武器は短刀二刀流から変わっていない。しかし、投擲武器を練習するようになった。風魔法の補助で威力を増すこともできるし、竜の眼で相手の動きを見極めることも可能だからな。
まだまっすぐ飛ばすことは難しいが、使いこなせるようになれば相当な武器となるだろう。
俺は服を新調した。まあ、以前着ていた黒い服とほとんど同じような、親父のおさがりの黒服だが。ただ、こちらは裏に鉄板などが仕込まれているタイプだ。
今までは重すぎて動けなかったんだが、竜の力を得たことで身体能力も上がったらしい。鉄板入りの服でも、問題なく動けていた。
武器に関しては宝箱産の短杖に加え、冒険者から手に入れたショートソードを選んだ。
槍と迷ったが、どうも質がかなりいいようなのだ。魔法武器ではないが、お高い武器であるらしい。切れ味が違っていた。これを使わないのは勿体ないので、俺が装備している。
あと、全員の竜の肉体を隠すために、かなり苦心した。
シロは、冒険者の遺体から手に入れた破損革鎧の一部を切り取り、眼帯代わりにしている。丸いタイプじゃなくて、顔の3分の1くらいを隠すやつだ。
ズレて、目が見えてしまわないように大きく作ったのである。可愛いシロが武骨な黒革眼帯を付けている姿には、妙な迫力があった。
当のシロはカッコいいとお気に入りである。嫌がられずに済んでよかった。
俺とクロは、以前手に入れた迷宮産の布を細く裂いて、包帯のようにして巻いている。俺は首回り、クロは右腕全体をグルグル巻きだ。
特にクロの場合は竜化している部分が大きいので、巻くのも解くのもかなり大変だった。でも、万が一傭兵なんかに出くわした時、竜の肉体を見られるわけにはいかないからな。
蜥蜴系の獣人がいるらしいので誤魔化せる可能性もあるが、シロとクロは犬と猫の特徴もある。俺だけならともかく、2人がどう思われるか分からない。
ハーフだと誤魔化せればいいが、そうじゃなければ? 迫害されるか、珍種扱いで追われるか。どちらにせよ、ろくなことにはならないだろう。
今まで迷宮内で傭兵に出会うことがなかったとはいえ、今後もそうとは限らない。なんせ、新たなエリアに進出するつもりなのだ。
「……覚悟はいいか?」
「うん!」
「やったるー」
俺たちが立っているのは、ヘルキマイラの待つ部屋の前である。
以前は傷1つ与えることもできず、やつの攻撃の恐ろしさを前に必死に逃げ帰った。逃げるのがあと5秒遅ければ、ヘルキマイラが吐き出す炎で焼き殺されていただろう。
しかし、あの怪物を倒さなければ、先へは進めない。絶対に勝たねばならなかった。
「作戦は覚えてるか?」
「覚えてるです!」
「ばっちりー」
「よし」
闘志を漲らせる2人に頷き返し、俺は通路を駆け抜けた。
「いた!」
通路の先には、部屋の隅で寛ぐように寝そべる巨大な獣の姿があった。
獅子と蝙蝠という二つの頭にヤギの体、蛇の頭が付いた尾に、両頭の中央に存在する巨大な眼球。異様な姿の、気色悪い魔獣である。
あれこそが、俺たちの行く手を阻んだ宿敵、ヘルキマイラであった。
俺が部屋に突入した瞬間、やつが瞬時に立ち上がって臨戦態勢に入るのが分かる。
凄まじい圧力が俺の肌を突き刺した。竜の肉体を得て鋭敏になった感覚が、ヘルキマイラの殺意を感じ取っているんだろう。
以前の俺がこの殺気を感じ取ってしまえば、きっと恐怖で動けなくなっていた。それほど、生物として遥か格上の相手から殺意をぶつけられるというのは恐ろしいことなのだ。
だが、俺はヘルキマイラの姿を睨みつけながら、動きを止めることはない。むしろ、その恐ろしい姿を見て、やる気が増した。
俺がしっかりしなければ、後続のシロとクロに奴の攻撃が向かうかもしれない。それだけは絶対にさせんぞ!
「おら! こっち見ろよ! デカブツ!」
「ガアアアアァァァ!」
「デカい声で鳴いたって、もう怖くないぞぉぉ!」
ヘルキマイラの2つの口が同時に放った咆哮には、魔力が乗っている。以前はこの咆哮にやられ、動きを止めてしまったのだ。
どうやら、精神に干渉し、恐怖心をあおるような効果があるらしい。だが、俺には効かないぜ!
食材の魔力を閉じ込めるための無属性魔法で、咆哮の魔力をシャットアウトしてやったからな! 今の俺には、ただうるさいだけの鳴き声だ。
苦々し気に顔を歪めるヘルキマイラに対し、俺は走りながら魔法を撃ち込む。さらに俺は反時計回りに走ってヘルキマイラの横を取ると、そのままやつに向かって突っ込んだ。
「くらえええええ!」
俺が自分から向かってくるとは思わなかったんだろう。どう見ても、遠距離から魔法を撃つ戦い方が正解だからな。
ヘルキマイラが俺を迎え撃とうと、身構える。その直後だった。部屋へと突入したシロとクロが、同時に魔法を放つ。
「うにゃぁぁぁ! 風刃!」
「わうぅぅ! 炎熱撃!」
シロの放った複数の風の刃に、クロが振るった剣から飛んだ炎の塊。時間をかけて魔力を最大限込めた本気の一撃が、俺に意識を向けていたヘルキマイラの前足へと直撃した。
俺の「くらぇ!」という叫びが、2人への合図だったのだ。そして、その合図を聞いた2人は作戦通りに部屋へと飛び込むと、一番狙い易い足へと詠唱していた魔法を放ったという訳だった。
「グガアァァァァ!」
「やったです!」
「あしもらー」
ヘルキマイラの右前足が完全に千切れ飛び、失われていた。やつの機動力を奪う作戦、成功だ!
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