40話 手加減
魔獣がいなくなった部屋で、魔法の試し撃ちをする。やはり、魔法の威力が急激に上がっていた。それも、異常なほどに。
料理などに使う魔法は多少出力が上昇する程度だったが、攻撃魔法になると影響がとてつもない。
不思議なのは、同じ魔法でも差があることだ。
例えば、火種の術。
その名の通り、小指の爪ほどの火を生み出し、薪に火をつけたりするための魔法である。攻撃に転用することはできるが、ちょっと熱い思いをさせるのが関の山だろう。
以前は、ポイズンラットすら倒すことができなかった。
いや、今も倒すことは難しいだろう。しかし、威力が段違いに上昇していた。
まるで爆竹のように、火種が爆ぜるようになっていたのだ。相変わらず殺傷力は低いだろうが、敵を驚かせるには十分な熱と音だろう。
まあ、ポイズンラットには試してないけど。やつらは下水道にしかいないからね。あそこで強化された火種を使ったら、デカい音が反響して誰かに聞かれるかもしれないのだ。
俺が良く使う水針の術も、やはり上手くいかない。
生み出される本数も、針の大きさも、飛ぶ速度も、全てが桁違いになってしまうのだ。これでは魔獣を倒すことはできてもその肉が粉々になってしまい、可食部位が減ってしまうだろう。
だが、肉の繊維を切るために1本だけ生み出してみると、今まで通りに扱えた。串焼きの串代わりに使う場合も同じだ。
土針の術でも同様の現象が起きていた。
それなのに、攻撃に使おうと意識した途端、暴発してしまうのである。
「意味が分からん……」
最下級の魔法でこれだ。
中級の魔法になると、さらに威力がおかしいことになっていた。
高位の魔獣の素材を調理するためには必須の、黒炎を操る魔法。その中でも俺が何とか使えるのは、自身が設定した場所に魔法陣を生み出し、その上に小さな黒炎を生み出す黒炎陣という術だ。
範囲もさほど広くはなく、戦闘利用という点ではいまいちな術だった。多分、設置系の罠のように使うのが主な利用方法だろう。相手の足を黒炎で焼いて、隙を作ったりするのだ。
だが、これを攻撃目的で使用すると――。
ゴゴウウン!
人を呑み込むほどの巨大な黒炎の柱が生み出され、ダンジョンの天井を大きく焦がしていた。一部は溶けてさえいる。
魔獣に使えば全身炭化して、素材なんか欠片も残らないだろう。
「トール、すごいです!」
「うおー、やばー」
「は、はは……」
シロとクロは目を輝かせているが、俺は冷や汗ダラダラだ。下手に近くで発動していたら、自分たちまで巻き込まれたかもしれない。それほどの威力があった。
「攻撃魔法だけ、なんでこうなる……?」
その後も色々と試したが、どうやら攻撃しようという意思を持って使うと威力が増してしまうらしい。
僅かにインプットされている攻撃魔法の知識を引っ張り出して、考察する。その結果、精霊との親和性が増したことが原因であるようだった。
俺は、料理に使う魔法に関してはチートのお陰で制御が完璧だ。だが、攻撃に使う場合にはその限りではないってことらしい。
込める魔力が無意識に増えてしまっていることもあり、精霊が俺の攻撃性に過剰に反応しているのだろう。
もっと魔力の操作を練習し、魔法に込める魔力量を細かく調整できるようにならねばならなかった。
この症状は、シロとクロも同じだ。
「にゃぅ!」
「うわぅ!」
魔法があり得ない威力で発動し、メッチャ驚いている。あれも、下手に近くで発動しないように教えんとヤバいな。
それに、2人が加減を覚えねばならないのは魔法についてだけではなかった。
「にゅぅ……頭痛いです……」
「大丈夫か?」
「シロー、へいきー?」
「目が、変です……」
シロの竜の眼の性能が、余りにも良過ぎたのだ。元のままの右目と、見えすぎる左目。その差が、シロの脳に負荷を与えているらしい。
物がブレて見えたり、ゆっくり見えたり、その処理が追い付かないのだろう。
最初は頭痛を覚え、その後は嘔吐感、倦怠感に襲われるようだった。目を瞑っていれば収まるが、それだと今度は右目しか使えずバランスを崩す。
結局、どちらの状態でも活動できるよう、慣れていかなければならないだろう。
クロもまた、竜の腕に振り回されている。というか、文字通り重みに抗えず、竜の腕を動かすと体ごと持っていかれるようだった。
腕自体は非常に力が強く、今までは使えなかった重量武器すら片手で持てるんだが、それを振ったら体ごと吹っ飛んだのである。
また、力加減が難しいらしく、木の食器をバキリと割ってしまったりもしていた。力が強すぎて、加減が難しいんだろう。
竜の腕をどう使うか、クロも練習が必要だった。
「シロ、クロ。今日はとりあえずこの部屋で魔法の練習をするぞ」
「はいです!」
「かしこまりー」
加減を覚えてもらわないと、絶対いずれ事故が起こるからな!
シロの風魔法で吹っ飛ばされたり、クロの火魔法で尻を焼かれる自分の姿が見えるのだ。




