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37話 竜の力


 3人で一瞬見つめ合う。そして、誰からともなく頷きあうと、同時に皿に口を付けた。


 もう、スプーンを使うことすら億劫なのである。


 いただきますも何もない、無言の食事。助かるかどうかも分からぬ、賭けのような行為だが、もうこれしか俺たちには希望がなかった。


 最初は空気を含んだズルズルという液体をすする音が聞こえていた。


 僅かでも飲めば、解る。普段の料理ではあり得ぬほどの早さで、自身の魔力が回復していく。傷が塞がっていく。


 急速な回復が激痛を与え、俺たちは誰もが顔を顰めていた。


 それでも、スープを飲むことはやめない。やめられない。危険な薬物に依存しているかの如く、このスープを飲み続けずにはいられなかった。


 もう二度と、他のスープを美味しいなんて感じることがないんじゃないか? そう思えるほどに、美味い。


 自分がスープを勢い良く嚥下する音が何度も何度も聞こえる。ああ、もう器が空に――。


「ぐ!」

「?」

「!」


 何かが昂る。俺たちの体の中から、魔力とも生命力とも思えない、不思議な力が湧き上がってきた。


 いや、湧き上がるだなんて生易しいものじゃない。


 力が、噴き上がり、迸る!


「があぁぁぁぁっ!」

「にゃあああああぁぁぁぁ!」

「わうぅぅぅぅぅぅぅ!」


 全身が痛い!


 メキメキという音は、なんだ? 俺の中から、聞こえる? 骨が軋む音なのか? 黒い影に殺されかけた時よりも、遥かに痛い! 耐えきれず、口からは絶叫が放たれてしまう。


 気が狂いそうだ!


 でも――。


「あがぁぁぁ……! シロ、クロ……」

「にぃ……」

「うぅ……」


 横を見れば、2人がいる。


 だから、俺の心は折れない。シロとクロも、必死に生きようと抗っているのがわかるからだ。


 自然と、俺たちの手が伸びた。そして、3人の手が重なり合う。それだけで、頑張れる。俺たちは1人じゃないのだ。


 全員で生き延びてやる。


 だが、その決意とは裏腹に、痛みはよりその辛さを増していった。


 俺もシロもクロも、その場に倒れ込んで背を弓なりに反らせてひたすらに絶叫する。それしかできない。


「「「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――!」」」


 自分の叫びなのかシロとクロの叫びなのかも、もう分からない。子供の叫び声と、肉体が立てるメキメキという音だけが聞こえる。


 体が、まるで作り変わるような――。




 どれほどの時間が過ぎただろうか?


 いつの間にか暗転していた意識が、覚醒した。急激に痛みが引き、精神が浮上する。


 妙に、視界が開けた感じだ。天井の埃まで良く見える。それどころか、何もしていなくても空気中を漂う魔力が薄っすらと見えた。


「たすか――うぷっ……!」


 腹の中――いや胸の奥から何かがこみ上げる。凄まじく熱い――。


「うぅ……っぶね!」


 何とか耐えたぞ……!


 まだ胸がムカムカしている、凄まじい吐き気だった。スープの副作用か?


 今の俺の呻き声で、シロとクロも目が覚めたらしい。2人とも目をこすりながら身を起こすが、その姿に俺は声を上げずにはいられなかった。


「シ、シロ! なんだその目! クロは、腕が!」

「にゃう? 目?」

「わう! ク、クロの腕、へんー!」


 失われていたはずのシロの左の目。そこには、確かに眼球が存在していた。だが、それまでの猫っぽい目とは明らかに違っている。


 縦に割れた瞳孔に、紫色の瞳。どう見てもそれは爬虫類の眼だった。


 俺がスープに使った、天竜の眼にそっくりだった。スープを飲んで目が再生する代わりに、竜の眼になった? そんなこと、有り得るのか?


 だが、実際に起きてしまっている。


 クロはより分かりやすい。失った右腕の代わりに、鱗に包まれた太く長い腕が生えているのだ。赤い鱗は、確実に天竜の鱗と同じ色だろう。


 クロもまた、影に食いちぎられた腕の代わりに、竜のパーツが生えているらしい。つまり、俺もそうなんだろう。


 影によって刺し貫かれた喉と内臓が、竜のような姿で再生したのだ。まあ、喉は自分じゃよく分らないけど。


「というか、お前らその体……?」

「にゃう……? おー! シロ、おっきくなってるです!」

「クロもー! なんでー?」


 いや、それは俺が聞きたいよ! 起き上ってみると、よく分る。


 2人は12、3歳くらいの姿まで急激に成長していた。これも、天竜の力のせいなのか?


 何で俺だけ元の年齢のままなのかもよく分らんし……。


 言葉を失う俺の前で、シロとクロがはしゃいだ声を上げる。


「うおー! シロの眼、かっけー」

「クロのうでもしゅごいです! ちょー強そう! いいな!」

「シロの眼、今までとなんか違うー?」

「にゃう? えーっと……なんか見える! もやもやしたの見えるです!」


 どうやら、シロは魔力が見えているらしい。しかも、俺よりも正確に。確実に目のおかげだろう。


 2人とも、自身の肉体の変化にネガティブな感情がないようで、ひたすら喜んでいた。その姿を見ていたら、悩んでいるのがばかばかしくなってくる。


 竜の肉体を得たことが、良いのか悪いのかは分からない。ただ、確実に言えるのは――。


「とりあえず、生き延びたぞ……」


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 大いなる力って、竜の…いや、でも欠損の無い人ならまた違うのかな…?
[一言] 欠損した場所に龍の因子で繋ぎ止められたって感じっすかね? 逆に考えると欠損無しでスープを飲むと反動が大きそうな気がする 欠損したからこそ龍パーツで修復されて反動は小さくなったのではないかな?…
[良い点] なるほど。トールだけは元の大きさの体か。 これはショタと少女(中身幼女)たちの物語だ。 [気になる点] トールは、喉と内臓が竜化したから…、竜の魔力を生み出すことが可能になった…? 竜の…
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