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31話 天竜肉の煮込み、穴倉風


 竜の肉を煮込み始めてから5日間。朝に煮込み、夜に煮込み。戦闘や拠点への出入りをシロとクロに任せ、料理にできるだけ多くの魔力を使い続けてきた。


 まあ、シロとクロだけでもこの辺での狩りは問題ないし、変異個体が出なければ危険もほとんどないからね。


 一緒に迷宮に入ったけど、結局数回しか魔法を使わなかったのだ。


 そうして魔力のほとんどを煮込みに使い続けた結果――。


「シロ、クロ。2人が頑張ってくれたおかげで、遂に完成したぞ!」

「おー! ついにー」

「完成したのです?」

「そうだ!」

「?」

「?」


 シロもクロも首を傾げている。完成といいつつ、竈の上に置かれた鍋から匂いがしないからだろう。途中で相当強い香りがしそうだったから、風魔法で匂いを遮っているのだ。


「今よそってやるからな」

「!」

「!」


 風魔法を解除した瞬間、2人の耳と尻尾がピーンと立った。気持ちは分かる。俺も少し匂いを嗅いだだけで、表情がだらしなく緩んだからな。


〈『天竜肉の煮込み、穴倉風』、魔法効果:生命力回復・中、体力回復・中、魔力回復・大、生命力強化・中、体力強化・中、魔力強化・中、竜の魔力・微が完成しました〉


 凄いな。多分、魔法効果が全部ついてるんじゃないか? しかも、中以上ばかり。初めて見たぞこんなの。


 ただ、最上級素材の天竜肉を使っても大効果が1つしかついていないのは、俺の魔法の腕の問題だろう。もっと精進せねば。


 気になるのは、竜の魔力っていう効果だろう。


 竜の魔力を具現化し、料理に宿らせたものであるらしい。僅かでも、竜の力を体内に取り込むことが可能とある。


 効果が微で、どれほどの力が取り込めるのかは分からんけどね。


「トール! 早く食べるです!」

「わうー」


 おっと、考え込んでる場合じゃないな。


「すまんすまん。ほれ。シロの分」

「にゃー!」

「クロも」

「わうー!」


 お気に入りの器に、肉と根菜を盛ってやる。


 俺が土魔法で作った器だが、下水の外で見つけてきた粘土を魔法で素焼きして、それなりに使える作りをしている。


 シロの器には猫が、クロの器には犬のマークが彫りこまれていた。


「くんくんくんくん!」

「くんかくんか」


 待て状態の2人が、器に鼻を近づけてスープの匂いを嗅ぎ続けている。真顔で匂いを吸引し続ける2人はちょっと怖かった。


 トリップ寸前? ともかく、これ以上待たせては可哀そうだ。


「それじゃ、食べようか」

「いただきます!」

「いただきます!」


 超早口のいただきますからの、超速のかっこみ! 普段は行儀悪いって注意するけど、今日は見逃してやろう。


 俺も気持ちは分かる。


「うみゃぁぁぁ!」

「うーまーいー」

「しゅごい! トール! これしゅごい!」

「クロのほっぺ落ちてない?」


 一口食べるごとに、大騒ぎだ。


 クロなんて、本当に頬っぺたを押さえて幸せそうな顔をしている。


 ただ、2人が騒ぐ理由も分かるな。俺もズズーッとスープをすすってみたんだが、その美味しさに一瞬手が止まる。


「うまっ!」


 メチャクチャ美味い。脳髄に刺激が走るような美味しさって言えばいいのか? 口に含んだ直後、暴力的な肉の旨みが口の中に広がり、舌に脂が絡みつく。


 地球にいたときですら、これほど美味しいスープには中々お目にかかれなかった。星が付いていたお店のコンソメスープ級?


 こちらも手が込んでいるとはいえ、コンソメほどではない。それでタメを張ることができるというのが、天竜肉のポテンシャルの証だろう。


 もっと魔法の腕が上がって、完全に使いこなせたらさらにおいしくなるのは間違いない。今から楽しみだ。


 そんなことを考えている間にも、俺の器は空になっていた。


「あれ?」


 いつの間に? 思わず器を二度見してしまったぜ。マジで、無意識に食べ続けていたらしい。


「うにゃ……」

「もーない……」


 シロとクロは空になった器をペロペロと舐めながら悲しい顔をしている。こっちをチラチラ見ているのは、お替りを貰えないか期待しているからだろう。


 だが、ダメだ! こんな美味いスープ、食べようと思ったら無限に食べれちゃうじゃないか! 残っている1食分、この勢いで食べきってしまうのは勿体なさ過ぎる。


「……メルムで満足しておきなさい」

「にゃー……」

「わふー……」


 メルムを見て残念そうな顔をするとは、贅沢な! まあ、俺もちょっと物足りないから、叱らないけど。


 それに、食べている内にメルムの甘さに満足したようだ。笑顔で果実をシャクシャクと齧っている。


 だが、3人の手がほぼ同時に止まった。


「……はっ」

「にゃうっ……」

「……うぅ」


 胸が苦しい。血が凄まじい勢いで血管の中を流れ、体温が急上昇するような感覚が全身を包んでいた。


 これは、なんだ……? シロもクロも同じ状況なんだろう。椅子から立ち上がれず、胸を押さえている。


 同時に、体内魔力が急激に上昇するのが分かった。明らかに魔力が増えた。


 これが、竜の魔力の効果?


 次第に動悸が収まり、苦しさが消えた時、俺たち3人は一気に体内魔力が2割近く増えていた。今までの料理にはない効果だ。


 天竜の肉を食い、その力を取り込むことに成功したんだろう。ただの肉でこれなら、より魔力の高い眼球を食べたらどうなるんだ……?


「シロ、クロ。痛いところとかないか?」

「ないです!」

「すっごい元気ー」


 軽く汗をかき、凄まじいテンションだ。どうやら、魔力が増えたことで興奮状態らしい。魔力もほとんど全快したし、もう一度狩りに出るべきか? 


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― 新着の感想 ―
 これ、主人公の食事食べると各種能力がホントに増えてる?今までもずっと、魔物倒す以外に成長してたってことだよね。凄まじい能力だ。
[良い点] 脳髄にガツン!と衝撃がくる美味しいお肉……じゅるり…… お腹が空いてなくても、飯テロは辛いよ~!(誉め言葉) 今夜のおかずがハンバーグで良かった(汗) [気になる点] 魔力が上がった………
[一言] 治るかどうかわからないけどカロリナさんにも食べさせてあげて。
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