29話 捜索継続中
今日は、1人で下水の外に出ている。外の様子を探ることに加え、迷宮では手に入らない食材を得ることが目的だ。
絶対に採取したいものがビネガーマッシュ、カセナッツである。この2種類は大部屋の植え込みでも見かけたことがなく、外で採取せねばならなかった。
特にビネガーマッシュは貴重な酸味なので、必ずゲットしたい。
今も付き合いがあるカロリナに酢を買ってもらうことも考えたが、無理だった。酢がメチャクチャ高いのだ。作り方を独占している組織があり、値段がつり上がっているらしい。
彼女の収入で定期的に酢を買い続けるのは、かなりの負担だろう。
カロリナの怪我は、結局完治させることはできなかった。日常生活に問題はないが、仕事の効率は以前よりも落ちているという。
そのせいで生活費を稼ぐだけで精いっぱいなのだ。高い酢や香辛料を買ってもらうことは、気が引けてしまう。
まあ、塩や獣脂、安酒や芋、シロとクロの下着なんかを分けてもらうだけで大分助かっているが。
「よし、気配も姿もこれで何とかなるか?」
迷宮で鍛えた魔法によって、気配を遮断する。さすがに完全ではないが、余程耳を澄ませて気配を探っている相手でもなければ発見されない自信があるのだ。
まあ、相手が格上だったら、どうなるか分からないけど。
気配って言うのは結局、微かな音のことである。歩く音、気流の音、心臓の音、筋肉や骨の音。
一般人なら絶対に捉えられないそれらを、魔獣は察知している。人間の達人にも、同じことはできるかもしれない。
俺には無理だが、それができる人間はいるだろう。それと、もう1つ隠さねばならないのは魔力だ。
こちらも、闇魔法で隠すことはできる。闇を纏って身を隠す術があるのだ。これは魔力も遮断してくれた。
まあ、俺の場合は隠密用ではなく、料理の際に食材から無駄な魔力が抜けてしまうのを防ぐために使うんだが。本来の用途でも使用可能だった。
気配と魔力、双方を隠した状態でさらに人を避けながら慎重に進む。これで発見されたら、もう仕方がない。逃走一択だ。
そして、その可能性はゼロじゃない。そりゃあ、俺はチートを与えられてるよ? でも、それはあくまでも魔法料理人。生産職なのだ。その力を戦闘に使っていても、本来は料理を作ることが専門の職業である。
それに、シロとクロの存在が、俺に慢心を許さない。
俺と1年間魔獣を狩り続けていたとは言え、まだ5歳なのだ。それなのに、異常な身体能力を見せている。壁走りに三角跳び、5メートル超えの跳躍力。
すでに、オリンピアンを超える脚力を発揮していた。クロもシロほどではないにしても、相当速い。
つまり獣人というのは、地球人の想像を凌駕する超身体能力を持っているのだろう。例えば、10年以上迷宮に潜って魔獣を狩り続けている手練れの獣人だったら?
どれほどの強者なのか、想像すらできない。他にも、エルフやらドワーフと言った異種族がいるらしいし、そいつらも驚きの能力を持っていておかしくはないのだ。
「……よし、やっぱり外は色々手に入るな」
コソコソと動き回りながら、採取を行う。
そこらの雑草でも、俺の料理魔法なら調理可能だ。目に付いた可食素材をガンガン採取して、ドンドン収納していく。
さらに、幸先がいいことに目的のビネガーマッシュも発見していた。できればあと何本か見つけたいんだが――。
「あーあ! いつまで獣人のガキなんて探せばいいんだよ」
「知らねーよ」
「!」
俺が隠れる茂みの横を、チンピラたちがダラダラと歩いていく。このままやり過ごそう。そう考えたが、チンピラたちの会話は聞き逃せない内容だった。
「獣人が珍しいのは分かるけどよぉ。1年だぜ? もう死んでるに決まってんじゃねぇか!」
「だから知らねーって! それでも探せって命令なんだから、仕方ねーだろ!」
やっぱり、シロとクロの話題だ! え? 1年も探し続けてるのか?
このまま隠れていては、こいつらは立ち去ってしまうだろう。俺は少々危険ではあるが、この2人の後をつけることにした。
とはいっても、声が聞こえる距離を維持しながら、後ろを歩いて付いていくだけだが。堂々と、浮浪児が同じ方向へと歩いているだけという感じを装うのだ。
「定期的に探せって命令出るけどよ。もう探す場所なんてねーぞ」
「確か、下水まで探した奴らいたんだろ?」
「おう。下水の一番奥まで行ったけど、何も見つけられなかったってよ」
マジか? 下水にこいつらの仲間が来ていた? 気づかなかった……。
多分、俺たちが迷宮に潜っている間にやってきて、俺たちが戻ってくる前に帰っていったんだろう。
マジで危なかった……。今後は、住処や迷宮への出入りの際にもっと気を配ろう。足跡とかも残さないようにしないとな。
「ただ、上の奴らは生きてることを確信してるみたいなんだよな」
「へー? 何か魔法でも使ってんのかね? だが、珍しいとはいえ所詮は獣人のガキ2匹だろ? そこまでムキになって探す理由が解んねーぜ」
「……おい。知らされてないってことは、知る必要がないってことだぞ?」
「おっと、そうだな。知らねー方がいいこともあるか」
片方の男がやや怯えた様子で、肩を竦めた。
男たちはその後は無言で歩き始める。これ以上は後をつけても意味がなさそうだ。そう判断し、俺は密かに男たちから離れる。
まだ諦めていなかったとは……。シロとクロは何か特別な奴隷だったのか? でも、情報がなさ過ぎて推理もできないんだよな。
ともかく、これでまたシロとクロを外に出せなくなった。できれば日光を浴びた方が健康にいいんだがな……。
出入りをどこで見られるか分からん。これまで、何度か2人を連れて下水周辺での採取を行ったことがあるが、あれも相当に危険な行為だったのだ。
しかし、今のままの状態で、何年も隠れ続ける選択肢はなかった。シロとクロが健やかに成長するためにも、ずっとあの場所では暮らせない。
住めば都とはいうが、どう考えても子育てには向かない環境なのだ。
「何か、考える必要があるな……」
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本日、書籍版の情報が一部解禁になりました!
発売元は、DRENOVELS様です! 出版社様のHPなどでも情報が掲載されると思いますので、そちらもぜひご覧ください。
作者からのお願いです。
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これを利用して、文章添削を送る行為はおやめください。
また、シロの語尾などはあえて癖として書いていますので、修正していただく必要はありません。
よろしくお願いいたします。




