28話 シロとクロの成長
迷宮を進むと、通路の途中で魔獣たちを発見する。3匹で並んでこちらを睨みつける、漆黒の獣たち。
毒を持つ種類が多く出現するこの迷宮だが、その中でも最も多く遭遇するのがこのポイズンビーストだ。
今回のように群れることもあるが、だいたいは1匹で出現することが多いかな? 戦闘力は大したことはないものの、全身に含まれる毒が非常に強力だ。毒に対する備えがなければ、危険な相手である。
まあ、今の俺たちにとってはお手頃な食材でしかないけど。
「うにゃ!」
「わう!」
シロが一気に跳び出し、クロがその場で右掌を突き出した。
シロはこの1年で身体強化と風魔術の精度を磨き、圧倒的な機動力を手に入れている。
壁や空を蹴り、三次元の動きであっという間にポイズンビーストに迫った。
足の裏から風を吹き出すことで急加速したり、空中での方向転換を可能としている。これだけは何度も練習していて、詠唱なしでも完璧に使えるようになったのだ。
俺も真似したが、あれ程上手くは使えなかった。空中での多段ジャンプは、1回だけならともかく連続使用なんて絶対無理だ。バランスを崩してからの落下を5回ほど繰り返して、使いこなすことは諦めた。
激しい動きを見せつけるシロとは逆に、クロは動かない。だが、それは肉体だけだ。
クロの内部では、激しく魔力が蠢いている。黒い魔力が微かに漏れ出し、彼女の褐色の肌を妖しく染め上げた。
そして、その手から黒い刃が放たれる。覚えたての頃と比較するのが馬鹿らしいくらい、速く鋭く正確であった。
それに射程も遥かに伸びた。まだ20メートル近く距離があるというのに、その一撃はポイズンビーストの頭部を正確に打ち抜いていたのだ。
頭にピンポン玉サイズの穴が開き、中型犬サイズの魔獣が倒れ伏す。
それに遅れること数秒、シロの双剣がポイズンビーストを切り裂いていた。宝箱から手に入れた魔法付与された短剣と、冒険者の遺体から手に入れた鋼の短剣が、ポイズンビーストの四肢を切り裂く。
風を纏ったその刃は、驚くほどの切れ味であった。毛皮も骨も、豆腐のようにスパスパと切り裂いたのだ。
そして、最後の1匹は俺が頂いておいた。下手にどっちかが多く倒したら、喧嘩になるかもしれんしね。
俺が密かに放った水の針が、既にポイズンビーストの心臓を貫いているのだ。
「3人で1匹ずつだ。それでいいだろ?」
「にゃう! いつの間に!」
「トールすごいー」
俺も正確性や射程距離が伸びているが、何よりも上達したのが隠密性である。魔獣の中には魔力の動きを察知して、回避してくる奴も多い。
そんな勘のいい魔獣に当てるために、魔力をできるだけ隠すような発動を磨いたのだ。相当察知能力が高い相手じゃなければ、気づかれなくなってきた。
それでも、ヘルキマイラに勝てるビジョンは見えんけどな。
しかも、最近はこの辺の魔獣を倒しても魔力があまり上昇しなくなってきた。止まってしまったわけではないが、明らかに鈍化してきたのだ。
ヘルキマイラに無理に挑むよりも、下水を出て外で活動する方が簡単かもしれないな。
その後魔獣に遭遇することはなく、俺たちは住処へと戻った。魔獣の出現数にかなり幅があり、多ければ5匹、少なければいない日もある。
これも何によって決まっているのか分からないんだよな。法則性は見つけられないし、多分ランダムなんだと思う。
「トール! ステーキです!」
「わうー、ステーキー」
「はいはい。分かってるよ」
住処に戻ると、シロとクロが期待に目を輝かせながら詰め寄ってくる。身長が俺よりも高いから、威圧感凄いね。
こいつら、今日の探索中ずっとステーキのことで頭いっぱいだったっぽいし、仕方ないけど。ずっとステーキの歌を口ずさんでいたのである。
まあ、カサ増しでスープにすることが多いし、ステーキは特別感があるんだろう。それに、変異個体の肉は特別美味いし。
「ステーキ……じゅるり」
「すてきなステーキ」
そんなじっと見られるとやりづらいんだけど。まあ、仕方ない。ササッと調理してしまおう。
どうせなら、超豪勢にいってしまうか。以前手に入れて、チビチビと使っていた胡椒を多めにふりかけ、塩も一番品質がいい岩塩を選ぶ。
正直肉自体はあまり多くない。なんせ、小型犬サイズの鼠だからな。それでも、腿や腹などから小ぶりな肉塊を六個ほど切り出すことができた。
保存庫の仕分け機能は完璧に解体してくれるから、全く肉を無駄にせずに済むのがありがたいのだ。
肋なんかはあえて肉を付けた状態で留めてあるので、そのうちスペアリブにでもしようと思う。
肉塊を石を変形させて作った網で焼きつつ余分な脂を落とし、大部屋で手に入れたパセリモドキを軽く振りかければ完成だ!
ミディアムレアだが、事前にしっかり浄化、殺菌しているから問題ない。
ヴェノムラットの変異個体なんて、普通は猛毒を含んでいて食べられない。ましてやミディアムレアで食べようだなんて、中々考える人間は多くないんじゃないか?
人間の意識として、元々毒を含んでいる素材はできればしっかり焼きたいだろうし。ある意味、激レアな料理の完成なのだ。
〈『変異猛毒鼠のステーキ、穴倉風』、魔法効果:生命力回復・微、魔力回復・小、生命力強化・小、魔力強化・小が完成しました〉
「さてこれで――」
「できたです?」
「ステーキ?」
「うわっ!」
い、いつの間に背後に! 気づかんかった! ああ! そんな覗き込んだら涎落ちる! クンカクンカするな!
「さっきとってきたメルムを剥いてやるから、その間に準備しろー」
「フォーク用意するです!」
「クロはランチョンマットだすー」




