26話 迷宮での成長
「おりゃ! 水針連弾!」
「トール! やったです! 今夜は御馳走です!」
「わうー! 久しぶりの亀ー」
シロとクロを助けてから、1年の月日が流れた。
成長――はどうだろう? 肉体的には年齢相応に成長しただろう。身長も10センチくらいは伸びたんじゃないか?
精神面は、まあ相変わらずって感じ?
ただ、迷宮に潜り続けたことで、かなり強くなることができた。
魔獣を倒し続けることで体内魔力を増やし、使用可能な魔法も大幅に増えたのだ。俺も2人も、今や初級魔術までなら一瞬で発動できるし、中級の魔術もかなり上達している。
それに、身体能力もかなり向上しただろう。俺も詳しくは分からないが、体内魔力と関係があるのだと思う。
どう考えても、5歳児ではあり得ない動きが可能なのだ。いや、獣人であるシロとクロなら可能性はゼロじゃないが、ヒュームの俺がこの身体能力はあり得なかった。
普通に3メートルくらいジャンプできてしまうし、かなり重いものも軽々持ち上げられる。それに、五感もかなり鋭くなったのだ。
身体強化の魔法を使わずともそれらができてしまうのは、異常だった。
ただ、その身体能力のおかげもあって、迷宮では危なげなく戦えるようになった。正直、探索自体はさほど進んではいない。
小部屋5ヶ所と大部屋1ヶ所。そして、それらを繋ぐ複雑な通路。それが、俺たちの行動範囲の全てだ。
最初の3か月ほどでここまでをマッピングし、後はずっとその範囲で活動している。
食材を得るだけならこれで十分だし、この範囲内でキノコや薬草、苔を採取できる場所も発見したからな。
「メルムあったです!」
「キノコげとー」
「にゃう! お芋もあったです!」
「おー、いもー」
今いるのは、俺たちが大部屋と呼んでいる部屋だ。中央に植え込みのようなものがあり、ここには果実のなる樹が数本植わっているのだ。採取しても5日~10日くらいで復活するし、その根元には植物が生えている。
今シロがもいだのは、メルムという林檎に似た果実だった。食感も林檎である。ただ、味は甘みの薄いバナナみたいな感じなんだよね。最初は違和感があったが、今はもう慣れた。
果樹はずっと同じなんだが、野草類はランダム性が高かった。キノコや長芋、野草が、毎回違うのである。俺にとってはありがたいことだが。
ここが俺たちの畑というわけだ。
「それじゃ、帰ってこいつで何か作るか」
「スープ! スープがいいです!」
「前に食べたのー」
「ああ、あれか」
今回倒したのは、パラライズトータス。強力な麻痺毒を持った魔獣だ。かなりデカいが、可食部分は少ない。
骨は太く、鱗は分厚い。また、それを支える肉の部分も硬すぎて、どう調理しても食べられなかった。
それでも、内臓周りの柔らかい肉はコラーゲン豊富で、スープに入れると非常に美味いのである。出現率が低いので、俺たちにとってはたまの御馳走だった。
来た道を引き返しながら、シロが背後を振り返る。
「まだ勝てないかなー?」
「まだ無理だろ」
「そうです?」
「トールが言うなら無理なんだよー」
「そっか」
「そー。残念だけどー」
シロとクロが気にしているのは、この先にいる魔獣のことだ。
俺たちに本気の迷宮探索を諦めさせ、状況の維持へと舵を切らせた宿敵。初見時で全く歯が立たず本気で死にかけた相手、ヘルキマイラである。
どういった存在なのか分からないが、中規模の部屋の中央に陣取り、道を塞ぎ続けているボスモンスターだった。
俺の知識によれば、高位の傭兵を何人も揃えてようやく討伐するような化け物であるらしい。多少成長したとはいえ、俺たちには絶対に倒すことはできないだろう。
シロもクロもあの敗戦を悔しがっていていずれリベンジをしたいと考えているようだが、俺は反対だ。
あんなの、子供がどうこうできる相手じゃない。俺としてはこのまま迷宮で力をつけ、この町を出て他の場所で再出発をしたいと考えている。
実は金を少しゲットできたので、町への入場料などはどうにかなると思うのだ。
まあ、まともに稼いだお金ではないけどね。カロリナからせびったわけでもないよ?
1年前、一番最初に発見した上へと続く長い縦穴。あれはやはり落とし穴の罠だった。時折、ひっかかった傭兵が落ちてくるのだ。
死体は数日で迷宮に溶かされて消えてしまうらしいが、その前であれば残っている。そう、俺の持っている金は、その死体から拝借したものだった。
悪いこととは分かっているが、俺たちが生きるためだ。そう割り切って、色々な物を有効活用させてもらっている。
多くの傭兵が、食料や塩を持っているのだ。迷宮に入る際の基本準備なんだろう。その時、傭兵の小銭も一緒に頂いているというわけである。
「にゃむ? なんかいるです!」
「うー? あそこの影ー」
「アシッドスライムか。床にいるのは珍しいな」
アシッドスライムは、迷宮では時おり見る魔獣だった。
初めて出会い、苦戦したあの日から1年。数えきれないほど倒してきた。
「シロがやるです! 光刃!」
シロが放った光の刃が、アシッドスライムを貫く。それで終わりであった。もう選択する魔法を間違えて酸を飛び散らせてしまうようなこともない。
そもそも、接近される前にちゃんと気づき、対処できるのだ。
「麺ゲットなのです!」
「いえーい」
ハイタッチして喜ぶ2人。すっかり麺好きになったね。まあ、俺たちにとってはたまの御馳走だから、気持ちは分かるけど。
「さ、早く戻るぞ。俺は腹減ったよ。スープに麺もいれて豪勢にいこう」
「はいです!」
「はーい」




