25話 道筋
今日は迷宮探索を休んで、住処で料理をしている。シロとクロは修行という名の追いかけっこだ。
食料は十分にゲットできているからね。
まだ最初の部屋とその隣の部屋にしか足を踏み入れていないが、変異個体ではない普通のポイズンビーストも倒すことに成功している。
あと、迷宮の隅で苔を発見したりもしていた。フラジェリアと呼ばれる黒っぽい苔なんだが、これが食材として利用できるのだ。
僅かに魔力を含んでおり、魔法薬の素材にもなるらしいが、そっちの知識は持っていない。これ単体では意味がないうえ、調味料に使えるような味ではないからだろう。
ただ、薬の材料になるだけあって、熱を通せば食べることができた。しかも、それなりに栄養がある。
味は正直微妙だが。やや青臭く、味はほぼないらしい。それでも、クセが少ないので調理方法次第では美味しくできるはずだ。
毒抜きをしたポイズンビーストの骨を鍋に入れて火にかけつつ、肉を丹念に叩いていく。部位を指定できるほどの量はないので、全身を余すことなく利用する感じだ。
そうして作り上げた赤紫のミンチ肉に、塩とトウガラシモドキ、クレソンモドキを乾燥させた粉末を混ぜ込み、こちらもみじん切りにしたフラジェリアをさらに混ぜる。少し粘り気があって、これが繋ぎの代わりだ。
「よし、これで種の完成だな」
次にフライパンにポイズンビーストから僅かに取り出した脂を乗せ、よーく熱したらそこに拳大に丸めたミンチ肉を投入だ。
そう。俺はハンバーグを作っていた。繋ぎは入っていないが、ポイズンビーストの赤身は元々ネバリが強いので、火加減次第では崩さずに焼き上げることが可能だ。
火力調整にメチャクチャ神経使うけどね!
そうしてハンバーグを調理しつつ、同時にもう1品も仕上げていく。
取り出したるは、毒抜きをしたポイズンビーストの腸である。こいつ、肉食系のくせに腸が結構長いうえに薄く、ソーセージが作れてしまうのだ。
というか、異世界固有の生物だし、地球の常識には当てはまらないってことなんだろう。
そりゃあ、味も弾力も牛や豚の腸には及ばないが、俺たちが楽しむ分には問題ない。
ああ、普通だと寄生虫や病原菌がヤバいが、聖魔法をかけまくれば大丈夫だ。チート万歳だぜ!
ソーセージを作る器具なんかないから、腸の中にひき肉を詰め込んで、手で成型する感じになるけどね。
ボイルした後に焼き目を付ければ、ポイズンビーストのソーセージ穴倉風のできあがりである。
ハンバーグとソーセージが同時に皿に乗る姿、絵力半端ない! こうなったら、とことんやってやる! 最後に、1人1つ目玉焼きを乗せれば完成だ!
〈『毒獣のハンバーグ、毒獣のソーセージ添え、穴蔵風』、魔法効果:生命力回復・極小、体力回復・極小、魔力回復・極小、生命力強化・極小、魔力強化・極小が完成しました〉
全部極小だが、魔法効果が色々と付いているぞ。まあ、今重要なのは味だが。あと、名前がハンバーグだ。料理魔法が勝手に名前を付けてると思ってたけど、俺の認識が影響を与えている?
「トール……」
「お腹減ったです……」
「うぉ! いつの間に……!」
気配を消して近づくんじゃありません! いや、俺が料理に集中し過ぎて気づかなかっただけか。
いつの間にか、獲物を狙うハンターの目をしたシロとクロが、俺の背後にいたのだ。運動して腹が減っているんだろう。
「いただきます」
「「いただきます!」」
待ちきれないとばかりに食事の挨拶を口にすると、そのままフォークをハンバーグにぶっ刺す二人。
「ふぉぉぉぉ!」
「じゅわわー!」
溢れる肉汁に驚きの声を上げているな。
「プッチンしてるです!」
「このかわ、よきー」
ソーセージも気に入ってくれたようだ。
結局、完食するのに3分かからなかった。すんごい勢いで料理が腹に吸い込まれていったのである。
「もうないです……」
「ペロペロ」
皿を舐めながら切ない顔をしているが、夕食はそれだけだぞ? むしろ、出会ってから一番量が多かったんだからな。
その後、満腹になってお眠な2人を寝かしつけると、ここからは大人の時間だぜ? まあ、闇夜に紛れてカロリナの家へと向かうだけだが。
すでに1度様子を見に行ったが、彼女はなんとか職場に復帰をできていた。足元を見られて給料は大分下がったようだが、あのまま野垂れ死ぬよりはマシだろう。
それに、竜の起こした火災によって、多くの本が灰となっている。今は書写士にとっては稼ぎ時らしく、仕事はいくらでもあるようだった。
彼女の家に近づき、扉を軽く叩く。トントンという2連続のノックを3回。これが俺がきたという合図だ。
扉が開き、中からはホッとした様子のカロリナが出てくる。まだ宿に移るほどの金は稼げていないようだが、そろそろ何とかなるんじゃないか?
こんな場所に1人暮らしなんて、物騒だからね。まあ、今のところ襲われそうな気配はないようだが。
言い方は悪いが、大火傷の痕があるうえに貧乏なカロリナは、襲っても益が全くないと思われているのだろう。
「仕事の方は順調?」
「おかげさまで。あ、これ頼まれていたお塩です。どうぞ」
「おお! 助かるよ!」
カロリナが俺に渡してくれたのは、小さな岩塩の塊だった。小さいけど、これで10日はもつだろう。本当に有難い。
「じゃあ、今日も治療を行う。カロリナには、早くもっと稼げるようになってもらいたいからね」
「はい。次はもっとたくさんのお塩を買えるように頑張ります」
目はまだぼやけているものの、見えていなかった方の目も光を取り戻している。眼を近づければ、細かい文字も何とか読めるようだ。多分、視力的には0.01とかそれくらいだろう。
手の火傷も相当良くなっているはずだ。まだ治っていない部分の方が多く、全身が引きつるような感覚があるようだが、書写はなんとか行えているらしい。
俺の聖魔法では傷を完全に消すことはできないが、日常生活を普通に送れるくらいにはできるかな? カロリナが安定すれば、塩以外にも色々買ってきてもらえるようになるはずだ。
迷宮での成果と、カロリナからの援助。それらがあれば、なんとか生きていけそうだった。
レビューをいただきました。ありがとうございます。
そう! ケモミミは正義なんですよ!
むしろヒロインから話が決まったまでありますからね。
転剣からの読者様ということで、こちらの作品も楽しんでいただければ嬉しいです。




