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22話 アシッド・スライム


 分かれ道を左へと進むと、そこからも長い道が続いていた。相変わらず、光源がどこかにあるわけでもないのに謎の薄明かりが通路を照らしている。


 遠くまでは見通せないが、自分たちの周囲を見るには問題ない。


 今のところ、罠や魔獣は見当たら――。


「わう!」

「え? クロ?」


 突如、後ろにいたクロが俺の体を突き飛ばした。つんのめるように前に出る。なんだ?


 突然のことに驚いていると、それまで俺がいた場所に鮮やかな緑色の何かが落下してきた。


「ブジュゥゥゥ!」

「ま、魔獣なのです!」

「わうぅ……!」


 謎の魔獣もヤバいが、クロの腕に緑色のヤバ気な液体がベットリと!


 クロが表情を歪めて呻き声を上げている。魔獣を攻撃するべきか、クロを癒すべきか。俺が判断を迷った刹那、シロが先に動いていた。


「うにゃぁ! 風刃!」


 咄嗟に魔法を放ったのだ。


 シロが付き出した手から、使い慣れた風の刃が放たれる。


 しかし、それは悪手であった。

 

 魔獣が全身に纏っている液体が、風によって撒き散らされてしまったのだ。散った緑色の液体が俺たち全員に降り掛かり、その全身に付着する。


「ぐあぁ!」

「にゅぅ……!」

「いたいー……」


 焼け付くような痛みが、俺たちを襲っていた。


 解毒を使用するが、痛みは引かない。


 その間にも服が溶け、皮膚が焼け爛れていく。解毒が効かないのは、これが酸だからだろう。


 皮膚が一気に溶かされるほどではないんだが、ヒリヒリとした痛みが集中力を奪う。魔力の練り上げが上手くいかない……!


「ブジュジュ……」

「まだ、生きてやがる……」


 しかも、少し弱ったようにも見えるが、魔獣は未だに蠢いている。


 俺は魔力の精密な操作を諦めると、魔力を思い切り放出しながら水魔法を発動した。いつもの倍以上魔力を使ったが、今は仕方がない。痛みのせいで繊細な魔力操作が無理なのだ。


 俺が放った魔法は攻撃目的ではなかった。大量の水流で、魔獣を押し流したのである。


 普通に攻撃したら、同じことの繰り返しになりそうだったからな。とりあえず大きな水球を使って、魔獣を押すように遠ざけたのだ。


 相手も抵抗するので三メートルくらいしか離せなかったが、これだけ距離があれば大丈夫だろう。俺は水針を放って魔獣を攻撃する。


 最初は火魔法を使おうかとも考えたんだが、酸が蒸発して気化したらマズいかと思ってやめておいた。


 三本の水針が緑色の液体に勢いよく突き刺さるが、それでも魔獣は動き続けている。


 あれでも倒せないのかよ。


「シロ、クロ! もっと距離を取るぞ!」

「わ、わかったです!」

「わう……」


 クロが涙目だ。最初に酸を浴びた腕が相当痛いんだろう。


 全速力できた道を駆け戻ると、小部屋へと逃げ込む。


 そこで大量の水を生み出し、俺たち全員の体を洗い流した。


 さらに、回復を数度使った後、解毒、浄化、殺菌で全身を綺麗にする。


 ここまでで魔力を八割近く失ったが、なんとか痛みも引いた。


「クロ、どうだ?」

「もーだいじょぶー」

「そうか……」

「よかったです!」


 シロは安堵したように胸を撫でおろすと、こちらに這いずり寄ってくる魔獣を睨みつけた。


 そうなのだ、もう俺たちに追いつこうとしている。走れば俺たちの方が速いだろうが、それでもかなりの速さだった。


 改めて魔獣を観察する。


「アシッド・スライム……」


 こちらの世界のスライムはゲームに登場するような雑魚ではなく、かなりの危険生物だ。


 どんな場所でも生存可能な生命力と、何でも溶かしてしまう分解能力。そして、高い隠密性能。


 こいつはそのスライムの中でも、酸系の能力を身に付けた種類だった。俺やシロが気づけなかったのは、その隠密性能の高さゆえだろう。


 発する魔力が低すぎて、迷宮の魔力の中に混じってしまっているうえ、音もほとんどしない。ジッとしていれば、完全な無音だろう。


 ただ、酸の放つ微かな刺激臭があるため、クロだけは気づけたらしかった。


 そして、驚くことにこいつも食用可能だ。酸性の強い液体部分は鞣しなどにしか使えないが、こいつも一応本体のような部分がある。


 魔石の周囲を覆う核と呼ばれる部分なのだが、モチモチとした食感のある春雨のような味わいであるらしい。


 量は期待できないが、肉ばかりの食生活の彩りとしてぜひ確保したい。


「ど、どうやって倒すです?」

「こいつは、クロが一番相性がいい。闇刃を何発か打ち込むんだ」

「りょー」


 少し後ろに下がりつつ、クロが闇刃を連続で放った。ドス、ドスと黒い刃が緑色の粘液生物に突き刺さる。


 すると、その動きが急激に弱まり、すぐにその場で溶けて消えてしまった。死んだことで、酸の液体を保持できなくなったんだろう。


 床を濡らす緑色の水溜りの中央に、青いブヨブヨとした塊が落ちていた。これがスライムの核である。


「魔力も少し成長したか? 分からんな」


 強敵だったが、変異種ほどの魔力吸収は期待できないんだろう。それでも、下水にいるような最下級魔獣たちよりはマシだろうが。


「今回はクロのお手柄だったな」

「クロすごいです!」

「わふー」


 ドヤ顔のクロ。だが、あそこでクロに押してもらってなかったら、頭からアシッド・スライムに覆い被さられていただろう。


 皮膚や眼球への酸による激痛と、呼吸困難。いきなりスライムに張り付かれて、冷静に対処できたか分からない。


 シロとクロもそうだ。下手な攻撃は俺を傷つけるし、どうすればいいか即座には判断できないだろう。


 マジで危機一髪だったかもしれない。


「これからは今以上に慎重に、天井にも気を付けながら進もう」

「はいです!」

「わう」


 でも、今日はもう帰ろうな? 魔力もかなり減ったし、疲れたよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 春雨!スキルすごいなw あ、スキルじゃないんだっけか…
[一言] 疲れたと言いながらダンジョンの奥に行ってしまう3人だった じゃない、一人と二匹だった
[一言] せっかくの服が溶けたけど補修できるのかなぁ
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