21話 再び迷宮へ
ポイズンビーストを命からがら倒した翌日、俺たちは再び迷宮を訪れていた。
昨日と同じ場所に穴を開け、迷宮へと侵入する。一応、入り口は閉じておこう。迷宮の魔獣が外に出たら最悪だし。
相変わらずの濃い魔力を肌で感じながら、奥へと進む。
昨日死にかけたばかりだっていうのに、体は非常に壮快だ。むしろ絶好調で、体のキレがいい気がする。
ポイズンビーストから魔力を吸収した成果だろうか?
「昨日の部屋までもう少しだ」
「にゃ」
「わふ」
迷宮において、魔獣というのは湧き出すようにいつの間にか出現する存在であるらしい。倒した魔獣は最短で数時間で復活するし、場合によっては全く違う魔獣が出現するようになったりもするんだとか。
帰還が遅れたせいで倒した魔獣が復活して死にかけたみたいな話を、両親がしていたのだ。
迷宮に潜る傭兵はさほど多くはなく、他の人間が都合よく倒してくれるみたいなことも期待薄であるらしい。
そもそも迷宮は非常に広く、複雑だ。ルートが幾つもあり、他の傭兵が攻略を進めるルートはあまり人気がないのだ。
俺たちにとっては、迷宮内で傭兵に出くわす危険性が低いって事でもあるから、悪い話ではないが。
「魔法の準備はいいな?」
「はいです!」
「わう!」
シロとクロは緊張を隠し切れない様子で、どこか不安げだ。きっと、俺も同じ表情をしているだろう。
俺は軽く自分の顔を揉むと、笑顔を作った。引きつっているかもしれないが、今は無理にでも余裕ぶることが重要だ。
俺が緊張していたら、2人も不安になるのは当然だからな。
「二人とも、いくぞ」
「うん」
「りょー」
俺たちは警戒しながら、ポイズンビーストと死闘を繰り広げた部屋へと足を踏み入れる。そして、昨日の失敗を繰り返さぬように、部屋をしっかりと見回した。
「いた!」
「にゃう!」
「とりゃー」
昨日、ポイズンビーストがいた場所に、今日もまた魔獣が潜んでいた。
シロは種族的に夜目が利くようだし、クロは暗視を可能にする術を覚えている。そのため、魔力を感知できる俺とほぼ同時のタイミングで敵を発見できたらしい。
薄暗い部屋の隅に、獣が潜んでいた。姿を捉えた俺たちは、即座に攻撃に移る。
3人で次々と魔術を放つこと十数秒。
部屋の隅に蹲っていた影は、その場から動くことなく崩れ落ちていた。
「はぁはぁ……」
「やったです!」
「しょーり」
警戒しながら近づくと、料理魔法がその影を食材と見なして情報を与えてくれる。間違いなく死んでいた。
魔法でボロボロになったポイズンビーストだ。しかし、その大きさは昨日戦った個体の半分ほどでしかなく、毛の色も灰色だ。
どうやら変異していない普通の個体だったらしい。
保存庫に仕舞うと、ポイズンビーストの肉や骨に仕分けされる。これ、変異個体と見分けつかなくなりそうだな……。
そんなことを考えていたら、脳内に浮かび上がる保存庫の内容に変化があった。なんと、これまで収納していたポイズンビーストの素材に、変異という冠が付いたのだ。
変異ポイズンビーストの肉、変異ポイズンビーストの骨、変異ポイズンビーストの毒血、変異ポイズンビーストの――。
保存庫は自動で名前が付くのだと思っていたけど、自分の好みで変更できたんだね。
考えてみたら、元々は名前のない野草に、セリモドキやミズナモドキといった俺独自の名前が付いているのだ。
意外と自由度が高いのだろう。
「宝箱ないです」
「ざんねん」
俺が保存庫に気を取られていると、シロとクロが部屋の中央で項垂れている。確かに2人が言う通り、宝箱は出てこない。
初回限定? まあ、部屋にいたのが変異個体だったし、特殊な事だったんだろう。少し残念だが、毎回変異個体が出るわけじゃなくて安心もしている。
これで、この部屋から奥へと進めるからな。
「2人とも、いけるか?」
「だいじょぶなのです!」
「ぜんぜんつかれてなー」
まあ、瞬殺だったからな。魔力は多少使ったが、それだけなのだ。いや、緊張のせいで結構疲れてもいるけど、帰るほどではない。
俺たちはそのまま、部屋の奥へと続く道を進むことにした。
罠があるかもしれないので、魔法で作った石の棒で床を叩きながらゆっくりと進んでいく。実際、これで1度罠を発見できたのだ。
床スレスレにワイヤーが張っており、それに触れると落とし穴が開く仕掛けだった。やはり迷宮は恐ろしいところだ。
それからはさらに慎重に歩を進めたため、200メートルくらいの通路を進むのに10分くらいかかっただろう。
でも、とりあえずポイズンビーストの肉は手に入ったからな。無理をする必要はないのだ。
「さて、どっちいくか」
「こっち、なんかいるです」
「においする」
分かれ道で迷っていると、シロとクロの感覚が生物の存在を感じ取ったらしい。右へと伸びる道を見ながら、警戒を見せている。
「……じゃあ、とりあえず左から確認するか」
日和ってるわけじゃないよ? いざという時の逃げ道って言うか、危険がない状態でマッピングしておきたいだけだから!




