18話 変異毒獣
突如出現した、3つの宝箱。
これによって、この部屋が何なのかハッキリとした。
「ここ、迷宮だったのか!」
「めーきゅー?」
「迷宮ってー?」
「なんていうか、不思議な場所だな」
「?」
「?」
そうだよな。それだけじゃ分からんよな。
でも、俺も詳しいわけじゃないのだ。
迷宮というのは、外の世界とは違う理が支配する、謎の存在らしい。魔獣が湧き、誰が置いたのか分からない宝箱が出現し、霊草などが採取できる場合もある。
神の試練だという者もいれば、悪魔が人を誘う穴なのだという者もいるそうだ。まあ、両親の会話を盗み聞いただけだが。
重要なことは、迷宮には魔獣が湧き出るってことだろう。ゲームみたいに、倒した魔獣が消滅することもない。
ポイズンビーストの死体は保存庫に入れれたしな。
「帰ったら説明してやるから、とりあえずその宝箱を開けてみよう。でも魔法使い過ぎて、もう魔力も――あれ?」
どういうことだ? 魔力にはまだ余裕があるぞ? 体感、最大時の2割くらいはありそうだ。
でも、なんで? あんだけ魔法を使いまくったのだ。魔力欠乏になってないだけでもラッキーなはずなのに……。
いや、もしかしてポイズンビーストを倒したからか? あいつの魔力を吸収したことで、一気に体内魔力が増えた?
それしか考えられん。相当強い魔獣だったのかもしれないな。
確か、宝箱が出現するのはボスみたいな特殊な敵を倒した場合だけらしいし。
毒のまわりが異常に早かったのも、特別なボス個体だったからと考えれば合点がいくのだ。
「トール?」
「どしたのー?」
「あ、いや。なんでもない。俺が魔力の腕で宝箱を開くから、2人は少し離れてろ」
罠が仕掛けられている可能性もあるし、ミミック的な敵の場合も考えられるからな。
「それじゃ、オープン!」
「オープンです!」
「プン」
罠対策に風の壁を張りつつ、魔力の腕で宝箱の蓋を掴み持ち上げる。鍵などはないらしく、あっさりと開いた。
同時に、ポンという破裂音と共に、宝箱の中から火が噴き上がっていた。宝箱を覆っていた風の結界があっさりと吹き飛ばされ、俺たちのところまで熱が届く。
思ったよりもえげつない罠が仕掛けられていた!
3つ全てを離れた場所から開けると、俺たちは静かに宝箱へと近づいた。
「えーっと、服か?」
「こっちも服!」
「杖ー」
戦利品は、布系の装備が2着に、30センチくらいの短杖が1つだ。杖はともかく、服は身に着けられるサイズじゃないな。完全に大人サイズなのだ。
いや、確か迷宮の装備品には、身に着ける人間によってサイズが変更される機能が付いてるんだっけ? それとも、上級装備品だけだったか?
ともかく、持ち帰ってから試してみよう。持ち上げるとワイシャツにズボンなどだ。もう片方は、完全にメイド服である。
なんでメイド服? ああ、とするとこっちは、男性用の使用人服か。やっぱりなんで?
その後俺たちは、疲労困憊の体を引きずりながら住処へと戻った。道中で魔獣に会わなかったのは本当にラッキーだったな。
因みに、宝箱自体は保存庫に仕舞えなかった。戦利品を取り出すと、光の粒になって消えてしまったのだ。迷宮の不思議機能なんだろう。
「ふぃー、戻ってこれたな」
「ちゅかれたのですー」
「疲れたー」
2人はヘナヘナと崩れ落ち、その場で仰向けに寝転がる。緊張の糸が切れて、立っていられなくなったのだろう。
「お疲れ。少し寝てていいぞ。料理作ってやるから」
「ありがとうですー」
「ありー」
俺も疲れているが、それ以上に腹が減っているのだ。
早速、手に入れたばかりのポイズンビーストの肉を使うことにした。猛毒を秘めたヤバい肉だが、保存庫のお陰で完全に解体できている。
肉だけを取り出して聖魔法で解毒すれば、完全に食用肉に変化した。
「何を作るかね……」
本当はシチューが合うらしいんだけど、材料が全くない。ただ、焼くよりは煮込む方がいいってことだろう。まずはポイズンビーストの骨で出汁を取ることにした。
取り出した骨を石で作った鎚で割り、髄液が出やすいようにしてから鍋に敷き詰める。そこに魔法で水を注いだら、魔法で一気に加熱した。
本当は時間をかけた方が美味しいけど、今は早く食事がしたいのだ。火魔法の加熱、水魔法の濃縮を利用して、出た灰汁を取れば5分ほどで出汁が完成する。
そこにノビルモドキやセリモドキ、シメジモドキを加えて、切った肉を投入、ある程度煮込んだ後に塩とビネガーマッシュの汁で味を調えたら完成だ。
〈『変異毒獣と野草のスープ、穴蔵風』、魔法効果:生命力回復・小、魔力回復・小、生命力強化・小、魔力強化・小が完成しました〉
魔力強化っていう効果は初めて見た。まあ、生命力強化を実感できたことはないし、これもどこまで効果あるのか分からんけど。
それに、変異毒獣? つまり、あのポイズンビーストは変異してた? 迷宮の中には魔力のせいで変異した、強化個体が出るって話だったが……。
俺たちが戦った相手は、その変異個体だったらしい。ボスは全部変異個体なのか? そりゃあ、強くて当たり前だ。
むしろ、よく勝てたな……。
多分、肉体面の強化ではなく、毒の性能がアップしてたんだろう。聖魔法を使える俺たちにとっては幸運だったのだ。魔法が効かないような個体だったら、完全に詰んでいた。
そんなことを考えていたら。部屋の入り口からグーっという可愛いらしい音が聞こえた。振り返ると、調理場の入り口から2つの顔がのぞいている。
「トールー……」
「おなかへりへりー」
「はいはい。今丁度できたところだよ」
「やったです!」
「やた」
この2人に満足な食事を食わせてやるためには、やはり迷宮で魔獣を狩らなきゃダメだ。あの変異ポイズンビーストがまた出るかは分からんが、最大限警戒しながら迷宮に入ろう。