15話 シロとクロの修行
Side シロ
シロの名前はシロ。トールに付けてもらった名前なのです。
トールは、シロとクロを助けてくれたのです。痛いのを治してくれて、ご飯もくれました。強くて優しくてカッコよくて頭も良くて、シロもクロも大好きなのです。
トールが出かけちゃったから、とっても暇。本当は遊んでほしかったけど、がまんします。ご飯を探しに行ってくれてるって、知ってるから。でも暇なのです。
だから、クロと修行することにしたのです。
前に修行してた時、トールに喧嘩してるって思われて、とっても怒られた。怪我をさせちゃいけないって。スンドメしろって言ってたのです。
スンドメの意味が分からないからトールにきいたら、パンチとかキックを当てるか当てないか、ギリギリで止めることだって。
試してみたけど、シロもクロも無理でした。だって、とても難しいのです。でも、これじゃトールにまた怒られてしまうのです。
だから、シロたちはとっても考えました。どうしたら怒られないで修行できるかって。
そしたら、クロが凄いことを思いついたのです。
「当てても痛くない攻撃をすればいい」
なるほどなのです! 確かに! 怪我しない攻撃なら、怒られないのです。
「でも、痛くない攻撃って何です?」
「クロの魔法、痛くないのあるよ?」
「いいなー。シロの魔法は、切るのしかない」
クロはすごいのです。シロは魔法を4つしか覚えられなかったのに、5つも覚えてるのです。
黒い剣みたいなやつと、姿が見えづらくなるやつと、黒い球みたいなのを出すやつと、壁に穴をあけるやつと、ちっちゃい火をつけるやつ。
黒い球みたいなやつは、慣れてきたらいろんな姿にできるんだって。トールは幻覚って言ってました。クロは、幻覚を使えば痛くない攻撃ができるのです。
「いいなー。クロ」
「シロは、避ける練習すればいい」
「でも、シロも敵をやっつける修行がしたいです!」
「うーん。じゃあ、避けながら、クロにタッチするのは? タッチなら痛くないよ?」
「でも、タッチじゃ敵を倒せないです?」
「敵と戦うときは、タッチをパンチにかえればいいんだよー」
「なるほど! クロ、頭いいです!」
「ふっふっふー」
クロの顔はいつもみたいに眠たそうなままだけど、シロにはわかるのです。あれは、褒められて嬉しい顔なのですよ。
「じゃあ、やりましょう、クロ?」
「うん。いくよシロ」
クロが黒い球を5個出して、それを動かしてシロを攻撃してきます。当たったら、シロの負け。だから、避けないといけないのです。
「とぉ!」
「ぬぬ。シロはやいー」
「ほっ! はっ!」
「そんなセクシーポーズを」
「とりゃりゃりゃ!」
「ダメ、当たらなー」
シロは壁とか天井を蹴って、クロの球を避けます。避けて避けて避けるのです。
なんか楽しくなってきたです。外で、黒い虫とか、ネズミを相手にするときは、こんなに頑張る必要がない。普通に走って行って、1回攻撃したら、それで終わっちゃうから。
でも、今は本気で頑張らないとクロに負けちゃうから、本当の本気なのです。
「にゃはははははは!」
「わうー」
Side クロ
クロはクロ。犬の獣人らしい。自分では良くわからないけど、トールがそう言うんだから、間違いないと思う。
トールは魔法師。しかも、クロとシロにも魔法を教えてくれた凄い人。
ご飯も食べさせてくれて、闘い方も教えてくれて、とても好き。どれくらい好きかっていうと、シロと同じくらい。
シロは、捕まってたときからずっと一緒にいる大切な親友。怪物が暴れて壁が崩れた時にも、一緒に逃げ出した。
シロは猫の獣人でクロとは違う種族だけど、トールは双子みたいだなって言ってた。
でも、シロの方が、クロよりずっとずっと凄い。だって、クロはあんな速く動けないもん。ピョンピョン跳んで、ウサギみたい。クロが幻覚の術で出した球も、全部避けられてる。
戦いでも、シロは魔法も剣も使わないで敵をやっつける。クロは剣と魔法を使っているのに、シロよりもやっつけた数が少ない。
だから、修行。
トールは、幻覚の魔法を使ってれば、他の魔法も上達するって言ってた。
クロは頑張る。頑張れば、もっとたくさん魔法を使えるようになるかもしれない。そうしたら、トールに褒めてもらえるかもしれない。うん、やる気出た。
幻覚で出す玉の数を、5個から10個に増やしてみた。少しイメージが難しいけど、これぐらいじゃなきゃシロは捕まえられないので、仕方がない。
「クロしゅごい!」
「シロ噛んだ」
「か、かんでないもんね!」
「噛んだ噛んだ」
「かんでないもん!」
シロがちょっと泣きながら、飛びかかってくる。
危ない、もうちょっとでタッチされるところだった。
クロは球を動かすのに集中する。最初は上手く動かせなかったけど、だんだん別々に動かせるようになってきた。でも、シロは捕まえられない。
「むう。シロはやすぎー」
「にゃはははははは」
シロがとっても楽しそうだ。ぐぬぬ。悔しい。
そこで、トールが言ってたことを思い出す。
幻覚は、クロのイメージで姿を変えられるんだって。クロが上手くなれば、いろんな形にできるって言ってた。
「ぬぬぬぬ」
「おおおー。クロ、何それ!」
早いシロを捕まえるために、クロがイメージしたのはおっきな壁。その壁でシロを閉じ込めて、捕まえようと思った。
でも、上手くいかない。黒い球はちょっとだけ変化したけど、クロの思ってたのよりもちょっとだけ小さかった。
どれくらいかというと、ご飯の時にトールがお皿の下に敷いてくれる、ランチョンマットっていうのと同じくらい。
動かしてみる。
だめ。全然うまく動かない。イメージ力が足りないのかも? もう一度動かしてみるけど、ノロノロだ。
失敗。でも、シロは驚いてるみたいだ。
「すごい! すごいクロ!」
失敗しちゃったけど、シロが驚いているならいいや。
「ふふっふー。行くよシロー」
「うん! どんとこいですクロ!」
 




