144話 2人の成長
俺の魔力と傲慢のシュリーダの魔力がぶつかり合い、拮抗している。いや、シュリーダが本気になったことで、俺は押し返され始めていた。
俺も力を振り絞るが、流れは変わらない。
「く……」
《ふはははは! このまま押し切って――?》
だが、突如として傲慢のシュリーダから放出される魔力の圧が減った。
「にゃぁぁぁ!」
「トールのえんごー」
俺の頼もしい家族、シロとクロだ。
2人が攻撃したことで、傲慢のシュリーダの注意が僅かに逸れたのである。
シロたちが放ったのは、ただの魔法ではなかった。傲慢のシュリーダにダメージはほとんどなかったものの、意識を逸らす程度には威力があったのだ。
2人がその身から立ち上らせる魔力も、やつが無視し得ない力強さがある。
すでに眼帯を外しているシロの左目には、魔力が集中して渦巻いていた。青白く光る目をギンと見開いたシロは、傲慢のシュリーダを威嚇するように睨みつける。
《獣人の小娘が今更逆らうか! だが、貴様らごときに倒される我ではないわ!》
「そんなの、やってみなきゃわからないです!」
《死ね!》
俺と魔力をぶつけ合いながらも、シロに向かって散弾のような無数の魔力を放つ傲慢のシュリーダ。一つ一つは小さいが、数百もの弾幕はとてもではないが躱せるようなものではない。
だが、うちのシロを舐めてもらっては困るのだ。
「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃぁぁぁ!」
《なにぃ……!》
「にゃはははは! 全部見えるのです!」
シロは竜眼の力で全ての攻撃を見切ると、風魔法で宙を駆けながら弾幕の間をすり抜けていた。
さすが猫。絶対に通り抜けるなんて不可能であるはずの場所を、体を捻りながら一切の被弾なく突破したのだ。しかし、シロも完全な無傷とはいかない。
「にゃぐぅぅぅ……」
シロが竜眼を軽く押さえ、顔を顰めた。眼が充血し、目の端から血が流れ落ちている。どうやら、酷使した竜眼が悲鳴を上げ始めているらしい。
無理するなと叫びたいが俺にはそんな余裕はないし、シロは不敵な表情を崩さなかった。
「こんくらい、どうってことないのです! にゃにゃにゃぁぁ!」
眼から赤い涙を流しながら、シロは足を止めない。
「こんどはシロの番です! 聖光刃!」
シロの手に光を押し固めて作ったような、輝く刃が生み出された。
光を発しながらも、その周囲には風が渦巻いているのが分かる。両方の属性を併せ持ったシロの奥の手、光る風だ。
今までは追いつめられた時に偶然発現するのを待つしかなかったが、今回は明らかにシロの意思で使いこなしている。
「そこです! とう!」
シロが魔力の刃を投擲した。全身の力を込めた、渾身の投擲だ。
《こ、これはぁぁ……!》
刃は見事に傲慢のシュリーダの障壁を突破し、その傘の部分に突き刺さる。解放された魔力が爆発するように放出され、傘が大きく抉れていた。
「シロ、すごい。クロもまけてられなー」
のんびりとしたクロの声。だが、その内側には強い覚悟を秘めているのが俺たちには分かる。
「むむむむぅぅ! わおーん!」
クロの体を黒い魔力が覆い尽くす。だが、そこに禍々しさはない。
先端が燃えるように赤い、黒い魔力。シロの光る風と同じ、クロの奥の手とも言える特殊な魔力。燃える闇だった。
クロもまた、自身の意思で発現させられるようになったらしい。
「クロもやったるー」
クロが大きく飛んだ。見下ろす先には、俺と魔力をぶつけ合う傲慢のシュリーダがいる。直後、クロの背後で爆発するように魔力が爆ぜたかと思うと、シロに匹敵するような速度で一気に降下したではないか。
燃える闇を爆発させて加速力を得たらしい。
《邪魔をするな……!》
傲慢のシュリーダの頭上に、魔力が渦巻いた。シロに攻撃を加えられた反省を生かし、分厚い障壁を張ったのだろう。
そこにクロが突っ込んだ。
「獄炎装身!」
クロの声に呼応して、全身の魔力が右腕に集中していく。ただでさえ大きい竜腕が、燃える闇を纏うことで巨人の腕のようになっていた。
猛々しく燃えさかる、巨大な竜の腕。
クロはその腕を大きく振りかぶり、傲慢のシュリーダに向かって渾身の力で振り下ろした。
「わうぅぅうぅぅぅ!」
《ぬがあああぁぁぁぁ!》
ドウゥンという重低音とともに、傲慢のシュリーダの悲鳴が響き渡る。
クロ自身の竜腕が内側から裂け、血が噴き出しているのは見えた。殴った際の衝撃がそれほど凄まじかったのだろう。
だが、その一撃は傲慢のシュリーダの盾を破壊し、その体に届いていた。一気に解放された燃える闇が、傲慢のシュリーダの全身を包み込んでいるのだ。
燃え上がる、傲慢のシュリーダ。
《こむすめどもがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!》
大きなダメージを受け、シロとクロとを危険な存在だと認識したのだろう。その意識が、より少女2人に向く。
うちのシロとクロはスゲェだろ? 無視できないだろ? でも、俺を前にしてよそ見していいのか?
「おぉぉぉぉぉお!」
《しま――》
魔力を絞り出した俺は、その魔力を全て青の飢餓に注ぎ込む。巨大な鬼の口がシュリーダの魔力を呑み込みながら、襲い掛かった。




