134話 チーターコンビ
「よっしゃ! ぶっ飛ばすぜ!」
「う、うん。頑張ろう」
黒髪コンビは想像以上に強かった。
ヤンキーが傭兵を殴っているところは見たことがあるが、暴れキノコを素手で倒せるとは思ってもいなかったのだ。
メイスでぶん殴るよりも、ヤンキーの拳の方が強いだろう。
さすがに大暴れキノコを一撃で倒すような威力はないらしいが、通常の暴れキノコなら問題なかった。
マキナの能力も恐ろしい。彼女が白い霧のようなものを放つと、それを浴びた暴れキノコたちが次々と動きを止め、枯れていく。
彼女は毒を操るらしいが、その威力は相当強力だった。できれば、この狭い迷宮で敵に回したくはない。
大暴れキノコに使えなかったのは、詠唱が必要だからだろう。巨体で突進してくる大暴れキノコなんて、暴走するトラックみたいなものだ。ブラックでも受け止めきれず、後衛のマキナが毒を放つ暇もなかったらしい。
「おらっ!」
「えい!」
まだまだ暴れキノコは押し寄せているが、この2人がいれば無理なく乗り越えられそうだった。
物理耐性、毒耐性が高い大暴れキノコとの相性が悪かっただけで、普通の暴れキノコであれば問題さそうだ。
「へへっ! どうだ? 足手まといにはならねぇって、証明できたか?」
「お願いします! 私たちも連れて行ってください!」
揃って頭を下げてくるブラックとマキナ。本当に、キノコの支配が解けて、真人間になったってことか?
結局、俺たちは黒髪コンビと行動を共にしていた。
そもそも、お前らは信用できないのでここで引き返せと告げたところで、黒髪コンビが素直に従うとも思えない。彼らは彼らで、迷宮を進むことだろう。
もし変なことを考えているにしても、背後から不意打ちされるよりは、近くに置いて監視している方がマシなのである。
まあ、シュリーダの考えだけどね。
こちらの考えが分かっているのか、ヤンキーが素直に先頭を歩いている。マキナはそのすぐ後ろだ。
その道中、ヤンキーは人が変わったかのように、いいやつであった。積極的に敵の注意を引き、後ろに通してしまったら謝り、怪我がないか聞いてくる。
本当に別人のようだ。そんなブラックに対し、シロとクロはかなり警戒心を解いていた。直感に優れる2人がこの態度を見せるってことは、ブラックの態度は嘘じゃないのだろう。
「寄生キノコって、美味しかったです?」
「どんな味したー?」
興味津々で尋ねる2人に、バツが悪そうに苦笑いしながら語り出す。
「あー、見た目は普通のシイタケみたいで、味は美味かったな。マイタケって言ってもわからねぇか。まあ、香りも上等な美味いキノコにそっくりな味だったさ」
「ほほー」
「キノコ食べたらすぐに、変になっちゃうです?」
「いや、最初はそうでもなかったぜ? だからこそ、異変に気付かず大量に食っちまったんだが……」
前世で好きだったキノコに香りが似ており、仲間が薦めることもあって特に疑いもなく食べてしまったようだ。マキナはチートによって毒を判別できても、寄生するキノコを危険だとは見抜けなかったんだろう。
そのまま数日間、寄生キノコを食いまくった結果、いつしか不思議な声が聞こえるようになったという。
普段ならそんな謎の声に従ったりするわけがないのだが、何故か抗うことができなかったらしい。
むしろ、その声に従うと妙に幸せな気分になったそうだ。
「もっと怒れ、暴れろって言われて、その通りに行動しちまったんだ」
「私もです」
マキナの場合は、寄生茸をもっともっと採取し、人々に食べさせるようにと誘導されてしまったみたいだな。
もっと無意識に行動を操作されるんだと思っていたけど、声で行動を指示される感じだとは予想外だ。寄生茸に操られている間の情報なんてさすがにないから、初耳だったのである。
「操られていたとか、言い訳にならねぇことは分かってる。だから、ここからの働きで、借りは返す」
「うん」
そこからは、ブラックが宣言通りに働きまくった。最前線で傷つきながら、戦い続けたのだ。怪我はマキナのチートで治せるらしく、ひたすら暴れキノコを叩き潰し続ける。
そんなブラックの頑張りによって、俺たちは比較的楽に中層を進み続けていた。俺が作った地図と、マキナが作った地図を照らし合わせ、中層はほぼ回ったはずだ。
だが、その道中でライアンたちを発見することはできなかった。そして、残るは今いる場所から進んだ先だけである。
「こ、ここから先は、道がずっと真っ直ぐみたいなんです」
「俺たちは、前にきた時はここで引き返したんだよ。なんか、明らかにダンジョンの雰囲気変わってるしな」
ブラックが言う通り、目の前に伸びる一直線の通路は、明らかにこれまでとは違う。
照明が薄暗くて先が見通せないというのもあるが、それ以上に魔力の質が違っているようだった。
魔力が濃いと言うか、重いのだ。もしかして、この先はボス部屋なのだろうか? だが、シュリーダが首を横に振る。
「魔獣を外へと排出するほど成長した迷宮にしては、規模があまりにも小さすぎる。これじゃ生まれて数年の最小迷宮と変わらない。この先は確実に中ボス部屋だろう。ここにライアンたちがいてくれればいいんだが……」
「どちらにしろ、行くしかないです!」
「すすめー」
まあ、他に道がない以上、進むしかないってことだな。
本日、原作第3巻が発売されました!
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