132話 暴れキノコ大量発生
新たに現れた暴れキノコを殲滅する頃、シュリーダが配下を引き連れて現れた。
「大丈夫かい!」
「ああ。出たのは暴れキノコだけだからな。なんとかなった」
「やっぱ強いね。普通3人であっさり倒せるような相手じゃないよ?」
まあ、魔法を使えなければ、確かに苦戦するかもな。タフで痛みを感じないタイプの敵だし。
「で? あんたらはどうするつもりだい?」
「俺たちは……」
正直、迷っている。迷宮に突入してまで戦う義務はないし、シロとクロを危険にさらすぐらいなら逃げてしまいたい。
この村は滅ぶかもしれないが、俺にとっては家族の命の方が遥かに重いのだ。
だが、俺が何か言う前に、シロとクロが宣言していた。
「ここでキノコやっつけるです!」
「村まもーる」
それが当然だとばかりの表情だ。まあ、俺もそう言うだろうとは思っていた。迷宮に入らず、ここでキノコどもを防ぐくらいなら危険も少ないだろう。
「でも、無理だと思ったら逃げるからな」
「分かってるです」
「でもだいじょーぶい」
「ということで、暴れキノコを間引こうと思う。村を見捨てるのは簡単だが、何もせずに逃げると寝覚めが悪い」
「お人好しだねぇ」
「命を懸ける気はないさ」
それに、お人好しはシュリーダたちも同じだろう。
「付いてくるのか?」
「ま、キノコに操られていたとしても、滞在中は良くしてもらったからね。村の奴らが逃げる時間くらいは稼がないと」
どうやら、部下に村人の避難誘導を指示したらしい。村人たちが素直に従うかどうかは分からないが、逃げる時間くらいは稼ごうというのだろう。
「くるぞ! かまえな!」
「おう!」
シュリーダたちを先頭に、キノコとの戦いに突入する。俺たちが魔法を使うまでもなく、傭兵たちが次々と暴れキノコを葬っていった。
さすが傭兵団でも指折りの実力者たちだけあり、全員がメチャクチャ強い。
「ダンゼン! ツッコミな!」
「……ふん」
「よし! やるよ! おらああああぁぁ!」
特にシュリーダは高い身体強化能力を持っているらしく、物理に強いはずの暴れキノコを一刀両断していくのだ。
その脇を固める槍使いと弓使いも驚異的な腕前で、精密な一撃で暴れキノコの急所を貫いていく。
「魔法はもっと数が多いところで使ってもらうよ。今は温存しときな」
「分かった」
頼りになるシュリーダたちと共にキノコと戦っていると、背後の村の方から悲鳴が上がるのが聞こえた。
「なんだ?」
「トール! キノコの魔力あるです!」
「キノコの匂いちょーたくさん」
まじか! 村に暴れキノコが出た? しかも、かなりの数みたいだ。
こっちは陽動で、回り込んでいたのか? いや、俺たちはずっと入り口を見張ってたんだぞ? シロとクロが全く気付かないのはおかしい。
「くるー」
「迎撃を――まじかよ!」
「あれじゃ、狙えないです!」
村から暴れキノコが向かってくる。だが、俺たちは攻撃を加えることができなかった。
「ぎゃぁぁ! 助けてくれぇ!」
「だ、誰かぁぁぁ!」
暴れキノコたちは、それぞれが村人を抱えていたのだ。止まっていればともかく、走っている暴れキノコに対し、村人だけを外して魔法を当てる自信はない。
「引き付けて、足を狙え!」
「にゃ!」
「わかったー」
近くから魔法を撃って何体かを倒すが、それくらいしかできない。
「団長ぉぉ!」
「たすけてぇ!」
「ライアン! トム!」
しかも、キノコにさらわれた人々の中に、ライアンとトムが混じっていた。
シュリーダがトムを抱えていた暴れキノコの足を切りつけ、何とか救出に成功する。その横では副団長のダンゼンが手を伸ばすが、キノコの腕力に敵う筈もなかった。
ダンゼンはライアンの足を掴んだのだが、すぐに振りほどかれてしまう。無理やり掴んだままでは、ライアンの足が折れていてもおかしくなかったし、仕方ないだろう。
暴れキノコによって迷宮へと連れ去られたライアンたちの声が、遠ざかる。
「ちくしょう!」
「待て! 焦って突っ込んだらあの子らを助ける前に全滅だよ!」
「くっ……すいやせん、団長」
ライアンたちの後を追って迷宮へと駆け出そうとした部下を、シュリーダが止める。歯を食いしばるその表情と握りしめられた拳を見れば、彼女もすさまじい怒りを抱えていることは容易に想像がついた。
しかし、それでも焦りに任せて行動しない冷静さが、彼女にはあるのだ。
「あえて連れて行ったってことは、すぐ殺すつもりがないってことだ。焦るな! 絶対に、ライアンは取り戻す」
「へい!」
「トム、大丈夫だったかい?」
「う、うん」
助け起こされたトムは全身に擦り傷があるが、痛いとも言わずに村で何があったのかを必死に語り出す。小さくとも、傭兵団の団員としての自覚がそうさせるんだろう。
「む、村の人の体から、急にキノコが生え始めて――」




