126話 草原部屋への道
今日は、夜明けとともに起き出して、迷宮へとやってきた。ライアン少年も一緒だ。
「例の草原部屋は、中層なんだろ?」
「ああ! そうだぜ!」
「じゃ、そこまではサッサと行っちゃおう。シロ、前を頼む」
「分かったです!」
ということで、迷いようもない入り口付近はサクサクと進む――筈だったのだが、迷宮に異変が起きていた。
「にゃにゃ? なんかデッカいキノコいるです!」
「その後ろからもにおいしてるー」
迷宮の浅層に暴れキノコが出現していた。狭い洞窟を塞ぐように、デーンと鎮座している。これを無視して素通りするのは、物理的に無理だろう。
「排除しないとすすめんな……。遠距離から仕留めるぞ。クロの闇魔法がいいな。シロは風の結界で、胞子や毒を遮断してくれ」
「クロやったる」
「わかったです!」
こちらに気付いてもいない暴れキノコは、魔法が使えればただの的だった。クロの闇刃で一撃だ。
あとはシロが胞子を防いでいる間に、俺が解毒や浄化で処理すれば終わりである。ライアンの目があるので保存庫は使えないから、今回は土魔法で埋めておいた。
「やっぱ魔法ってすげーな!」
「ふふん」
「わふぅ」
ライアンにキラキラした目で見つめられ、シロもクロもドヤ顔だ。俺以外に褒められる経験が少ないし、年上に憧れられるというのは気持ちいいんだろう。
「しかし、浅層にまで魔獣が出るようになったのか。迷宮が成長しているかもしれん。慎重に進むぞ」
「にゃ!」
「わう!」
「わ、わかった」
その後、俺たちが心配していた迷宮の構造変化は起こっていなかった。迷宮というのは少しずつ成長を続けるものだが、大規模な成長時に内部の構造が変わることも多いらしい。
難易度が上がるのは当然ながら、今までの地図も使えなくなるし、罠や魔獣の数や種類も大幅に増える。草原部屋へと行かねばならない俺たちにとっては、その場所が分からなくなることが一番困るのだ。
それがないだけでもありがたい。まあ、魔獣が浅層にまで出てくるようになったので、大分難易度は上がってるけどね。魔法がなかったら、毎回暴れキノコと正面から戦わないとならないのだ。
ただ、構造変化をしていなくとも、魔獣の数は増えている。
「後ろは俺がやる! クロは前の敵に集中しろ! シロは少年を守れ!」
「りょー」
「りょうかいです!」
「少年は下手に動くな!」
「分かってる!」
中層まで到達すると、かなりの量の暴れキノコが徘徊していた。
俺たちの敵ではないんだが、ライアン少年を守りながらの戦いなので気は抜けない。
「シロのねーちゃん、そっちじゃない。次はこっちだよ」
「にゃ? でも、地図だとそっち行き止まりだったです」
「大丈夫。こっちであってるよ」
ライアンはかなり記憶力がいいらしい。地図も見ずに自信満々に俺たちの案内をしてくれる。その通りに進むと、シロが懸念していた通り行き止まりに突き当たった。
しかも、壁を調べようとすると作動する罠付きだ。
「この辺で止まってくれ。よいしょ」
そんな罠をライアン少年が石を投げて起動させた。壁に石が当たった衝撃で、壁際の床がパカリと口を開ける。落とし穴が設置されているのだ。
すると、ライアンがその罠に近づくと、徐に中を覗き込む。そして、振り返って俺たちを呼んだ。
「これ見てくれよ!」
「なんだ……まじか! 横穴があるぞ」
「にゃにゃ! 本当です!」
「かくしつーろ」
罠と見せかけ正解の通路だった。これはなかなか気づけないだろう。
「よくこんなの見つけたな」
「へへへ。実はこの罠に引っかかっちまってさ。死んだと思ったら、隠し通路を発見したってわけだ」
だが、その先は難易度が高いと判断して、彼らは早々に引き返したというわけだった。団長に報告しなかったのは、怒られてそれどころじゃなかったというだけではなく、あわよくば自分たちでもう一度挑戦できないかと考えていたんだろう。
子供でも傭兵なのである。まあ、それを仲間の安全のために明かしてくれたのだから、ちゃんと優先すべきものも分かってるのだ。
「ちょっと狭いから、気を付けてくれ」
「にゃー、確かに狭いです」
「デーブーにはむーりー」
「デブじゃなくても、重装備の人間は通れないだろこれ」
その狭い通路の先には、確かに広々とした草原が広がっていた。
「ほら! あそこ見てくれよ! 紫色だろ!」
「お? 確かにな」
ライアンたちは入り口付近しか探索していないらしいが、ここからでもしっかりと紫色の草が見えていた。間違いなく、エルネ草だ。
早速採取するが、さほど数は採れない。
「もっと奥に行けばあるか? とりあえず探して――シロ!」
「にゃにゃ! 風刃です!」
「闇刃ー」
攻撃を仕掛けてきたのは、やはり暴れキノコであった。3匹の大型キノコがこちらに向かって駆けてくる。
ただ、平原は俺たちにとっては戦いやすい場所だ。なんせ、遠くからでも敵が視認できるからな。魔法で迎撃が簡単なのだ。
肉をゲットできる敵なら近くで倒して回収するが、相手が毒持ちの暴れキノコでは放置するしかない。つまり、倒し方にこだわる必要もないって事だった。
次々と現れる暴れキノコを遠距離狙撃で次々と倒していく。まるでシューティングゲームみたいになってきたな。
「しかし、メッチャ数がいるな。いちいち相手にするのも魔力無駄遣いするだけだし、サッサとエルネ草を採取してずらかるぞ」
「りょうかいです!」
「りょー」
「り、りょうかい!」




