123話 傭兵の事情
「オルヴァン傭兵団は、数か月前にもこの村を訪れたことがあるんだよな?」
「ああ、4ヶ月くらい前の話だね。その時にはもう、陰気臭い村だったよ?」
「その前は?」
もっと前から排他的で陰気な村だったというなら、寄生茸の影響ではなく元々そういう村だったということだ。
俺の、末期が近いという推測も外れている可能性がある。というか、そうであってほしい。
しかし、シュリーダもそれより前のことは知らないらしい。
「すまん。分からん。一応この近辺にはいたんだが、噂みたいな物も聞いたことがない」
なんとシュリーダたちは、天竜騒ぎが起きるまでエルンストに居たそうだ。
寂れた様子のエルンストしか知らない俺たちからすると想像できないが、かなりの数の傭兵団がエルンストで活動していたらしい。ああ、俺はほぼテントから出なかったので、外の様子は知らないのだ。
まあ、俺の両親みたいなのがたくさんいたってことだろう。
それでも迷宮発見時に比べると5分の1以下というのだから、最盛期の賑わいはどれだけのものだったのだろうか。
ただ、天竜騒ぎがトドメとなって、多くの傭兵がエルンストを離れてしまった。元々毒の迷宮の攻略が難し過ぎたうえ、町の混乱のせいで物資の入手も難しくなっただろうしね。諦め時としては丁度良かったんだろう。
とはいえ迷宮は諦めきれないし、遠距離を移動するにも路銀を稼がねばならない。結果、シュリーダたちは毒の迷宮の情報を集めながら、この近辺の町や村を巡って仕事をこなしていたという。
「皮肉なことに、仕事にゃ事欠かなかったからね」
「どういうことだ?」
「傭兵なんざ、一皮むけばろくでなしばかりなのは知ってるだろ? そんな奴らが、町を離れて真っ当に仕事を探そうとするかい?」
エルンストの混乱によって、多くの傭兵や貧民が盗賊に身をやつしたのだ。結果、傭兵団への依頼は非常に多かった。
そして、最近になって毒の迷宮が攻略されたと発表されたので、エルンストに戻る途中であったらしい。
毒の迷宮に関しては、1年前に俺たちが攻略を成し遂げた。ただ、あれは奇跡が重なっての攻略だったので、再現性がなかったのである。
そのため、攻略の情報がしっかりと纏められるまでは正式発表がなかった。
現在では、ミレーネとギルドによって地図や階層の注意点、魔獣の情報などがしっかりと纏められ、傭兵相手に売られているはずだ。
「4ヶ月……。普通の寄生茸なら、末期に差し掛かっていてもおかしくはない時期だ」
「……胞子をばら撒きながら動き回る、生きた屍になるんだったね?」
「ああ」
俺との会話で、危機感が煽られたらしい。不安そうな顔をしている。
「あんたらは確か、寄生茸への特効薬って言うのを持ってるんだろ?」
「持っているというか、持っていたというか。そのことでライアン少年にお願いがあったんだよ」
「え? 俺?」
そこで話を振られると思っていなかったのか、正座中のライアン少年が驚いたように顔を上げた。ちょっと顔を顰めているのは、すでに足が痺れ始めているからだろう。
「お、俺か?」
「ああ。昨日採取したエルネ草、まだ残ってないか? 俺たちの分だけだと、傭兵団の人たちの分も足らないと思うんだ」
そうなのだ。ライアン少年はギルドでエルネ草の買取を断られていたせいで、今も持っている可能性が高いと考えたのである。
しかし、ライアンは申し訳なさそうに首を横に振った。
「ごめんよ。売り物にならないって聞いて、スープに入れて食っちまったよ。変な煙みたいのが口から出て、ちょっと驚いた」
「煙……。トールさんの説明にあった、キノコが死んだ時に出るってやつだね?」
「間違いない」
亜種であっても、エルネ草が効いてくれるのは不幸中の幸いだな。
シュリーダが険しい表情で、顎を撫でる。どうすべきか、考えているんだろう。
煙が出たって言うことは、ライアンたちも寄生茸にある程度侵食されていたということだ。村で食料を分けてもらえるらしく、その中にキノコが入っていたことがあるという。
間違いなく、それだろうな。つまり、他の傭兵たちも危ない。
「エルネ草ってやつは、珍しいのかい?」
「希少ってほどじゃないが、この辺ではもう発見できなかった。ただ、一度生えていたんだ、探せばまだあるかもしれん。あとは、村人がどれだけ偏執的にエルネ草を駆除したかだろう。しかし……」
「寄生茸に操られていたとすると、全て処分されている可能性もあるか?」
「ああ」
俺の知る寄生茸の宿主はそんなことをするわけないんだが、今回のものが変異種だとすると、何をしていてもおかしくはなさそうなのだ。
「明日、うちのやつらを全員使って、探させる。その草の特徴を教えてほしい。頼む」
必死な様子のシュリーダが、俺に対して頭を下げる。シロとクロも心配そうだ。仲良くなったライアンたちを見捨てたくないのだろう。
「……とはいっても、闇雲に探して見つかるかも分からないしなぁ」
確実にエルネ草があると分かっているならともかく、あてもない探索には付き合えない。できるだけ早くジオスに報告に向かいたいしね。
俺が腕を組んで唸っていると、ずっと黙っていたライアンが恐る恐る声を上げた。
「あ、あの。その草、もしかしたらすぐ見つかるかも……?」
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