117話 イキりヤンキー
睨み合う黒髪たちと傭兵団。
どちらもやる気だ。このままでは本当に殺し合いになってしまうだろう。止めに入るか? でも、黒髪たちとは関わり合いになりたくないんだよな。
俺が悩んでいると、不意にマキナが前に出た。震えている黒髪少女。
今まで影の薄かったマキナも争いに加わるのか? 傭兵団にも緊張が走る。だが、彼女は攻撃を放つようなことはせず、弱々しい声でブラックを制止した。
「や、やめようよブラック君」
「はぁ? なんでだよ!」
「今回は、私たちが悪いよ……」
「馬鹿野郎! 傭兵なんてどいつもこいつもこっちのこと狙ってる蛆虫みたいなもんなんだよ! 見つけたら駆除するのが当たり前だろ!」
「でも、今日はブラック君が最初に怒鳴って、悪口言ったじゃない……」
「敵に攻撃すんのなんて当たり前だ! こいつら、散々俺の髪馬鹿にしやがった! 許さねぇ!」
髪の毛馬鹿にされたって、それだけか? ま、まあ、拘りは人それぞれだけどさ……。
マキナがブラックを止めようとしたことで、チャンスだと思ったんだろう。シュリーダが肩を竦めながら、努めて明るい声でブラックを宥めようとする。
「うちの若いのが悪かったね。私はあんたの髪型、中々イカしてると思うよ? なぁ、お前ら?」
「お、おう。そうっすね」
「兄ちゃん、かっこいいな」
シュリーダに促され、傭兵たちが口々にブラックの髪型を褒める。しかし、ヤンキーの機嫌が直ることはなかった。
むしろ、怒りが増しているように見える。
「そっちの女は分かってるじゃねぇか! 本当に俺様の髪がイケてるって思ってるみたいだな! だが、そっちのカスどもは嘘ついてやがるだろ! 俺のチートスキルが、てめぇらの言葉が嘘だって教えてくれてんだよ!」
ブラック御自慢のチートスキル、油断大敵が発動したんだろう。傭兵たちの阿諛追従がバレてしまったらしい。
ただ、シュリーダだけは嘘をついていないと判断したようだが……。
そうは思えないんだよなぁ。シュリーダは相変わらず笑顔だが、一瞬驚いたのを俺は見逃さなかったのだ。
どうやら、チートスキルがシュリーダには効いていないらしい。こっちの世界の人間でも、強い人物は同格以上になるようだった。
ブラックは異世界人を見下しているようだし、気付いていないようだが。
「う、嘘ついただけで殴るのはダメだよ!」
「俺様に嘘ついたんだぞ! 殺されても文句は言えねぇ! こっちじゃ、貴族とかに逆らったら処刑なんだろ? それと一緒だよ!」
ブラックの言葉に、傭兵たちは呆れ顔だ。
明らかに平民というか、高貴な生まれとは到底思えないチンピラ紛いが、自分が貴族と同じくらい偉いって言ってるわけだし、当然だろうが。
会話をするだけ無駄だと思ったのか、傭兵たちは身構えたまま黙る。
「お前の毒で殺せ! やっちまえ!」
「や、やらないよ!」
「なら麻痺させるだけでいいぜ! あとは俺がやるからよ!」
「だからやらないってば! もう行こう! ね!」
「……ちっ。命拾いしたなカスども!」
マキナが懇願するように言うと、ブラックが渋々その言葉に従う様子を見せた。2人の力関係は俺が思っていたよりは互角というか、ブラックが力で無理矢理従わせているだけではなさそうだ。
黒髪コンビが俺たちの方へとくる。ここで焦ると逆に変だろうし、堂々とすれ違おう。ヤンキーが今気づいたようでガンを付けてくるが、俺は笑顔で会釈だ。
何を言っても嫌味になりそうだしね。俺たちが騒ぎに巻き込まれることを嫌って隠れていたことに気付いたのか、マキナがペコペコと頭を下げている。
結局、ブラックも何かを言うことなく、そのまま去っていった。しかし、以前会った時よりもさらにぶっ飛んでいるというか、イキリが凄かったな。
「ふぅ。いったか」
「トサカ頭、ずっと睨んでたです」
「よわそーなのに」
クロ辛辣! 2人からするとブラックは怖い相手に思えないらしい。近接戦闘が弱いわけじゃないが、シロとクロに勝てるほどではなかったし。
問題はチートスキルだろう。マキナはどうやら毒を散布するようなチートがあるらしい。その強さによっては、ブラックなんかよりもよほど恐ろしいのだ。
「道を塞いで悪かったね」
「いや、そちらも巻き込まれただけだろう? あれは仕方ない」
「難儀なことさ。それに、あのトサカ頭もオカシイが、女の方も見た目通りじゃないだろうね」
「そうなのか?」
「ああ。目がなんとなくね……。あれは見た目よりも強かだよ? 全く、あんなのと揉めちまって、厄介ばかりさ。さっさとここを攻略して、エルンストに発ちたいもんだ」
シュリーダと軽く雑談をする。彼女も俺たちの気配に気づいていたんだろう。それでも隠れていたことに文句も言わない。まあ、逆の立場なら同じことをしただろうしな。
「こいつらはうちの中でも腕っこきの奴らさ。まずこいつが副団長のダンゼン。頼りになる盾士だ」
ブラックの攻撃を受け止めていた男だ。副団長だったらしい。
「……おう」
「よろしくです!」
「よろー」
「……」
ダンゼン無口! シロとクロの超絶フレンドリーな挨拶にも、言葉少なに頷くだけ! そこらのおっさんならメロメロになること間違いなしの可愛さなのに!
「すまんね。こいつの寡黙さは直らないんだ。これでもあんたらを悪く思ってるわけじゃないからさ」
「……」
またもや静かに頷くダンゼン。まあ、悪意はないんだろう。あとは、斥候のマッジに、魔法師のカルスという、オッサン率高めのパーティだった。
ただ、バランスはいいだろう。シュリーダは明らかに凄腕の剣士だし、傭兵が迷宮に潜る時の御手本のような構成なのだ。
「じゃ、あたしらもいくよ。あんたたちも気を付けていきな」
「ああ、そっちもな」




