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110話 子どもたちと迷宮脱出


 迷宮で助けた5人の子供たちとともに、外へと向かう道中。もう少しで洞窟エリアというところで、俺たちは見覚えのある2人組と遭遇していた。


 黒髪のヤンキー君と黒髪少女の、チーターコンビである。


 彼の悪評みたいなものは傭兵クランにも広まっているのか、ライアン君たちも緊張気味だな。この村にきた時も両者は喧嘩をしていたようだし、険悪な仲であるのは想像に難くない。


「……」

「……」


 あちらもこちらも、無言ですれ違う。息を殺したような沈黙が表すように、洞窟内は重い緊張感が支配していた。


 俯いて相手を見ようともしない少年たちとは逆に、明らかにこっちを睨んでいる黒髪ヤンキー君。黒髪少女は謝るように、ペコペコし続けている。


 にしてもヤンキー君、ライアン少年たちだけではなく俺のことも睨んでいるように見えた。


 まあ、無視だけど。ヤンキーなんて、目を合わせたら絡んでくる面倒な生態の生き物だ。相手にせず、速やかに立ち去るのが賢明なのである。


 結局、特に何か起こることもなく、俺たちは迷宮から脱出できていた。子供たちがほぼ同時に深く息を吐く。俺たち以上に緊張していたんだろうし、それから解放されて肩の力が抜けたんだろう。


 黒髪たちが何も言わずに立ち去ってくれたのはありがたかった。あっちも、さすがに迷宮内で騒ぎを起こすような真似はマズいって分かっているのかね?


「帰ってきた!」

「はぁぁ! 助かったぁ!」


 子供たちは喜びを爆発させて、抱きあっている。だが、すぐにその表情が曇ってしまった。


「お前ら、やっぱり迷宮に潜ってたか!」

「げぇ! 団長!」


 多分、子供を捜していたんだろう。傭兵クランの団長――シュリーダが怒りの表情を浮かべ、仁王立ちでこちらを見ていた。


「お前らの姿が見えんと騒ぎになっているんだぞ! もしやと思って迷宮を探そうと思っていたら……!」

「ひぃ!」


 シュリーダはこれから迷宮へと潜って、子供を探そうとしていたらしい。その矢先に、暢気に談笑しながら迷宮から出てきた少年たちを見たわけだ。


 そりゃあ怒るわ。


 しかし、シュリーダはそのまま説教を始めるようなことはせず、俺たちに向き直るとその豪快な口調とは裏腹の真面目そうな表情で話しかけてきた。まあ、それでもメチャクチャ迫力あるけどさ。


「あんた方が、迷宮からこいつらを連れ出してくれたのかい?」

「あ、ああ、そうだ。魔獣に襲われてたんでな。これ以上は危険だと思った」

「な! 魔獣だって……!」

「うっ……」


 シュリーダに再びぎろりと睨まれて、ライアンが首を竦めた。これは、この後長時間お説教コースだろう。でも、本当に危なかったんだ、それくらいは甘んじて受け入れるんだな。


 そして周りを巻き込むような無茶をしないようになってくれ。


「あたしはシュリーダ。オルヴァン傭兵団の頭をやってるもんだ。迷惑をかけてすまねぇ。次は見捨ててくれて構わんぜ」

「いや、そうもいかないだろ? 迷宮の中は自己責任とは言え、子供を見殺しにするわけにもいかない」

「他人に頼る癖がついた傭兵は、使えん」


 うわぁ、めっちゃ厳しいな!


「とは言え、助けてくれたことには本当に感謝してるんだ。必ず礼はさせてもらう」

「……わかった」


 クランの面子的なことにも関わるんだろうし、ここで断っても印象悪そうだ。お礼が貰えるというなら、貰っておこう。


「俺たちはいくよ。お前ら、無茶もほどほどにな」

「はい……」


 お通夜状態の子どもたちを残して、俺たちは歩き出す。背後からは、さっそくシュリーダの怒鳴り声が聞こえていた。


「お前ら! あれ程迷宮には入るなと言っていただろう!」

「う……」

「ライアン! 馬鹿もんが! どうせお前が迷宮に行こうと言い出したんだろ!」


 ゴチンという音がここまで聞こえてきたぞ? チラリと振り返ると、ライアンが頭を押さえて蹲っていた。あのデカい拳骨を食らったんだから、相当痛いだろう。


 まあ、それだけ心配させたってことだ。怒りの感情を隠そうともしないシュリーダのことを、シロもクロも全く怖がっていなかった。つまり、彼女は純粋に子供を心配して、怒っていたってことなのだろう。


「なんか疲れたな。宿に戻って食事にするか」

「ごはんです!」

「キノコたべたい」


 え? キノコ? 散々毒キノコ見て、キノコの化け物と戦った後で? もうキノコはお腹いっぱいじゃないか?


「キノコ! キノコ! キノコがたべいたいです!」

「もうキノコの舌」

「そ、そうか」


 2人にとってはキノコを相手にしたせいで、逆にキノコが食べたくなっているらしい。さすが食いしん坊たち。俺とは食欲の構造が違うぜ。


「子供たちから貰ったキノコでソテーでも作るか」

「肉も! 肉入れて欲しいです!」

「にくきのこやさいいためー」

「はいはい」


 詫び代わりってことで、子供たちからはキノコをいくつか渡されていた。まあ、ほぼ毒キノコだったんだが、1つだけ食用可能なキノコがあったのだ。


 マイタケによく似たキノコで、味も匂いも抜群の奴だ。これをシロたちがいうとおり、肉野菜炒めにしたいと思う。


 迷宮産の醤油を使えば、美味しい魔法料理になるだろう。考えてたら、俺もキノコ料理食べたくなってきたな。


「エルンストで仕入れておいた干しキノコも使って、スープも付けるぞ!」

「ふぉぉぉ! キノコ尽くしです!」

「今夜はキノコパーリー」


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― 新着の感想 ―
はぁ、このペースだと 物語が進みませんね。 どこかで、急展開が有るのかな?
げぇ!とか団長がどこぞのおヒゲみたいな恐れられ方してて笑った
イーリアもまとめて怒られたとしたらちょっとかわいそ
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